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仲間殺しの男

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 一体、五体、十体と順調に数を増やしていく。ほとんどのワイルドボアを狩りつくし、肉と化した。

「さ、さすが兄上なのだ!! もうワイルドボアを絶滅させたのだ」
「絶滅はさせてないけどな。とりあえず、これだけ撃破すればもう出てこないだろ」
「うん。民も喜ぶはずなのだ」

 このことを住民に知らせに行く。
 少し移動すると、安全地帯では農作業中だった。

「みんな、聞いてくれ! ワイルドボアは倒した。もう現れないはずだから安心して農業に励んでくれ。この肉が証拠だ」


「おぉ、マジか!」「本当じゃん!!」「ワイルドボアの肉だ!!」「これ食えばいいんじゃね!?」「主様スゲー!!」「あの狂暴なイノシシを倒すとか……さすがだ」「これでしばらくは美味い飯が食えるぞ、ラスティ様バンザイ!」


 人に感謝されるってこんなに気持ち良いものなんだな。

「兄上、大絶賛されておるな!」
「ま、まあな。照れ臭いけどな」
「これなら民からの信頼されるし、頼られるのだ」
「それは良い事だな。主として誇らしい」
「この余も兄上を尊敬しているのだ!」
「それは超がつくほど嬉しいな。ありがとう、ハヴァマール」

 ハヴァマールの銀髪を撫でた。
 嬉しそうに目を細めていた。可愛い奴め。


 * * *


 城へ戻ると異変が起きていた。
 なんだ、騒々しい。


「ようやく帰ってきたか、ラスティくん!!」
「どうした、ルドミラ」
「報告に上がれなくて申し訳ない……重大な事件が起きたのです」

「重大!? なにがあった」

「地下牢にいたヤスツナだけが逃亡したのです」
「ヤスツナが!? 他の者は?」

「……惨殺されました。彼のカタナ――『ドウジギリ』によって」


「そんな馬鹿な……牢からどうやって逃げた! あれはかなり頑丈で、そう簡単には抜け出せない。抜け出せたとしてもトラップがいくつもあるんだぞ」


 だが、ルドミラによればヤスツナはトラップの位置も把握していたようで、上手く破壊したようだ。今は姿をくらましているという。

 まずい、住人が危険だ。


「ルドミラ、お前は住民の避難を」
「了解しました……。それと申し訳ないです。私がいながら……」
「気にするな。ヤスツナは仲間を裏切ってでも生き延びた。最低な野郎だったんだ」

「ええ、彼を伸ばしにしておくわけには参りません。エドゥやテオドール、ストレルカの力も借りています。総力を挙げてヤツを見つけ出します」

「分かった。ルドミラ、外は任せた」


 頭を深々と下げてルドミラは外へ向かった。……頼んだぞ。


 ――さて、俺は城内を回る。

 ヤスツナが逃げたとはいえ、城内は鉄壁の守り。ストレルカの召喚した最強の水の精霊騎士『アクアナイト』がうじゃうじゃいる。それとゴーレム兵だ。だから、そう簡単には逃げ出せない。

 はずなのだが……。


「きゃあああああ!!」


 こ、この声はスコル!!
 まさか!!


 急いでキッチンへ向かうと……そこには信じられない光景があった。


「……来たか、ラスティ」
「ヤスツナ……お前!!!」

「この美人エルフは人質に取った。いいか、一歩でも動けばカタナでバラバラにしてやる」


「……てめえ!!」
「おい、動くなよ! エルフの美貌が台無しになる」
「くっ……」

「フフフ、フハハハハ!! ラスティ、お前はあの牢を過信しすぎたな」

「どうやって抜け出した!」

「もともとヤツ等と協力して脱出するはずだった。だが、オレが信じているのはオレ自身だけ。他人なんてこれっぽっちも信じちゃいないし、信じられない。
 獣人のドム、マッテオ、サミュエル、フェルナンド、ブロー…奴らは全員、俺の為に死んでもらった」

 悪魔のように笑うヤスツナは、殺した仲間の名前をそう吐き捨てた。なんてヤツだ!!

「スコルを放せ!!」
「それは出来ない相談だな。ラスティ、オレの要求はただひとつ……! この島の支配だ!!! このオレに全ての権限を譲り渡せ。そうすれば、このエルフだけは助けてやる」

 ふざけていやがる。
 こんなヤツにラルゴを渡せるか。
 しかも支配だって……?

 言語道断だ。

 この国は自由があってこそなんだ。ニールセンのような支配には屈しないし、させるつもりは絶対にない。


「スコル、今助けてやる」
「……ラスティさん、はい。信じています」


 今まで何度もスコルのピンチを救ってきた。今回だって無傷で救出してやる。


「ほう!? ラスティ、愚かな選択をしようとしているな!! エルフが死んでもいいんだな!!」

「ヤスツナ、お前こそ死ぬ覚悟はできているだろうな……」
「はんっ、一歩でも動けばエルフは死体に変わる。お前の負けなんだよ、ラスティ」


 そうだ、かなり厳しい状況だ。
 それでも諦めない――!!
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