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幽閉された皇子
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お城を出てまずは浜辺を目指す。
道中に危険なモンスターがいれば排除する。また、必要な材料は『ゲイルチュール』で採集もしていく。
木材、土、石など取れるものは取っていく。
「その“つるはし”便利だよな、ラスティ」
「おかげで材料集めには苦労しない。一刻も早く島を国に変えるためだ。道中の作業を許してくれ」
「構わないよ。王はラスティ、君なのだから」
そうして生い茂る森の中を突き進むと、浜辺が見えてきた。昨日、スコルとも一緒にきた場所だ。
今日も穏やかで良い天気だ。
青い海が――水平線がどこまでも続く。
「テオドール、この島のレベルは現在『950』だ。だから俺はダンジョンを作る。そうすれば、レベルが『1000』に到達して開国可能になるんだ」
「それで材料集めか。分かった、この私も手伝おう」
「ありがとう、テオドール」
優しい笑みを浮かべ、テオドールは肩組んできた。
「良いってことさ。私とラスティは親友だろ?」
「そうだな。ああ、そうだ」
がっちり肩を組み、海を眺める。
そんな時だった。
背後が騒がしかった。
迫りくる気配、殺気。
飛び出して来る人影は俺を狙った。……やっべ!
「死ねええええええええッ!!!」
ナイフか何かを持っている男は俺の背中を狙ってくる。だが、テオドールが指を鳴らして植物を張り巡らせた。
大きくて、鎖のような蔦の植物が襲撃犯を襲い、一方で俺を庇った。
「な、なんだ!?」
「ラスティ、これは私の錬金術師としての力。プラントポーションを使った」
[プラントポーション]
[効果]
狂暴な植物を生み出すポーション。蔦が敵を襲う。この蔦に巻かれた場合、物理的にも精神的にも深刻なダメージを与える場合がある。また、体力を吸収し奪う。使用者の体力を回復する。
「こりゃ凄い。――で、敵は……え? 嘘だろ」
植物に 絡めとられている男の顔を見て、俺は驚いた。なぜこいつがこの島にいるんだ。信じられない。
「……くく。驚いたようだな、ラスティ」
「第二皇子・ブラームス……豚兄貴。いや、けど……今はゲッソリ痩せているじゃないか」
別人のようで一瞬、誰かと思った。
だけど顔はわずかに名残があった。
この民から搾取している悪い顔は忘れはしない。
「おまえのせいでな」
「俺のせいだと?」
「……お前はドヴォルザーク帝国を捨てた!」
「追放されたんだ」
「うるさい! お前がめちゃくちゃにしたせいで皇帝である父は死に……今や衰退の一途を辿っている。次は神聖王国ガブリエルの進軍! このままではドヴォルザーク帝国はおしまいだ!!」
「なんだ、祖国を捨てて逃げて来たのか」
「当たり前だ! ずっと幽閉されていたんだぞ!! 監禁され、自由のない生活を送り続けていた。頭がどうかなりそうだった!!」
そういえば、そうだったな。
第一皇子ワーグナー、第二皇子ブラームスはあの“魔王事件”がキッカケで幽閉処分となっていた。
「だからって抜け出してくるとは」
「あのまま留まっていたら死んでいた。神聖王国ガブリエルが攻めてくるんだぞ! 今のレオポルド騎士団では敵うまい……。ルドミラを失ってしまったし、今の騎士団長では心もとない」
なんてヤツだ。国を、民を捨てて自分だけは助かろうとして……最低な兄貴だ。
俺を殺そうとしたのも、この島を自分のものにしようと目論んだ結果だろう。だけど、俺には信頼できる仲間がいる。
テオドールのおかげで命拾いした。
「ラスティ、話の途中で申し訳ないが……この明らかに栄養の足りないガリガリの人間は知り合いかい?」
「ああ、ドヴォルザーク帝国の第二皇子・ブラームスだ。以前、ボコボコにしてやったが、その時は肥満体だった」
「なぜここに?」
「今から聞いてみる」
俺は改めてブラームスへ向き直った。
兄貴はビクッと震えていた。
「僕を殺しても無意味だぞ! 僕はもう何もかもを捨ててここまで来たんだ。ラスティ、この僕を助けろ!!」
「人を殺そうとしておいて助けろ? ずいぶんと都合がいいな」
ゲイルチュールの穂先を兄貴の喉元につきつける。ブラームスは、青ざめてがくがく震えていた。まるで捨てられた子犬のように。
「殺意はあった。そりゃ、以前半殺しにされたんだ、恨みくらいあるさ。けど、話の分からんヤツではないだろ?」
「ブラームス、人に物を頼む時はどうすると思う?」
「……ラスティ、貴様……この第二皇子に頭を下げろと!?」
「もう第二皇子ではないだろ」
「ぐっ……」
「一人で生きたければ好きにすればいい。けどな、この島はそう甘くはないぞ。大自然に囲まれ、野生のモンスターもあちらこちらに生息している。運よくもって三日だろう」
腹を空かせたイノシシモンスターや、凶暴なスライムとかいるしな。
ブラームスはついに諦めたのか、膝をつき――両手さえも地面につけていた。これは意外だった。
「頭を下げて人に頼み事をするのは、これが人生で初めてだ。ラスティ、僕が悪かった……。どうか助けてくれ」
「助けてください、だろうが」
俺は兄貴の後頭部を足で踏んだ。
もちろん、この行為は本心ではない。
けれど、心を鬼にしなければならない。
これから、俺はこの島を動かす一国の主となるのだから……信用できない相手には厳しく対応しなければ足元をすくわれてしまうのだ。
だからこそ、分からせる必要がある。
誰が『王』であるのか。
「だずげで……ぐだざいっ…………」
表情は伺えないけど、プライドはそうとう傷つけられたはずだ。こいつにとって、今まで帝国だけが全てだった。あの城にさえいれば贅沢な暮らしがあって、なに不自由なく人生を謳歌できていただろう。
しかし、傲慢が破滅をもたらした。
その結果がこれだ。
「言えるじゃないか、兄貴。テオドール、回復ポーションは?」
「いいのか」
「構わない」
高級なホワイトポーションを受け取った。
「いいのか、テオドール。これ高いやつだろ」
「ああ、回復力は保証するよ」
兄貴にホワイトポーションを飲ませ回復させた。
「ブラームス、島には住まわせてやろう。ただし、小屋だ。それで我慢しろ。幽閉よりはマシだろ?」
「……ああ、もう監禁はされたくない。ラスティ、僕は償い方とか分からない。だから、せめて反省はせてくれ」
「毎日祈れ。それできっと救われる」
「ラスティ、ひとつだけ聞かせてくれ」
「なんだ」
「僕とお前は……やり直せるのか?」
「それは無理だ。俺は兄貴達の本当の弟ではなかったんだ。本当の第三皇子はニールセンだ」
「ニ、ニールセン!? 馬鹿な!! 神聖王国ガブリエルの支配王の名じゃないか!!」
そうか、ブラームスは知らなかったんだな。当然か。俺と兄貴達は今まで一緒だったんだから。
「そういうことだ。ドヴォルザーク帝国は戦場になるかもな」
「くそっ。皇帝が不在だし、直ぐに滅びちゃうぞ……!」
「ああ、けど安心しろ。俺も故郷が消えるのは悲しい。神聖王国ガブリエルの出方次第では、こちらも相応の対応で出迎える」
「ラスティ、お前は帝国を見捨てないのか」
「さあ、分からない。今の俺にとって大切なのはこの島だからな。でも、やれることは多い。可能な限りは行動に移すさ」
「お前、変わったな」
「変わらない人間なんていないよ。ブラームス、小屋で休め」
「……分かった」
俺は、ブラームスを小屋まで案内した。
まさか流れ着いてくるとはな。
少し昔を思い出す。
スコルやアルフレッドもこの島に流れ着いたっけな。もしかしたら、帝国から流されるとここに行きつくようになっているのかな。
……まさかな。
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「その“つるはし”便利だよな、ラスティ」
「おかげで材料集めには苦労しない。一刻も早く島を国に変えるためだ。道中の作業を許してくれ」
「構わないよ。王はラスティ、君なのだから」
そうして生い茂る森の中を突き進むと、浜辺が見えてきた。昨日、スコルとも一緒にきた場所だ。
今日も穏やかで良い天気だ。
青い海が――水平線がどこまでも続く。
「テオドール、この島のレベルは現在『950』だ。だから俺はダンジョンを作る。そうすれば、レベルが『1000』に到達して開国可能になるんだ」
「それで材料集めか。分かった、この私も手伝おう」
「ありがとう、テオドール」
優しい笑みを浮かべ、テオドールは肩組んできた。
「良いってことさ。私とラスティは親友だろ?」
「そうだな。ああ、そうだ」
がっちり肩を組み、海を眺める。
そんな時だった。
背後が騒がしかった。
迫りくる気配、殺気。
飛び出して来る人影は俺を狙った。……やっべ!
「死ねええええええええッ!!!」
ナイフか何かを持っている男は俺の背中を狙ってくる。だが、テオドールが指を鳴らして植物を張り巡らせた。
大きくて、鎖のような蔦の植物が襲撃犯を襲い、一方で俺を庇った。
「な、なんだ!?」
「ラスティ、これは私の錬金術師としての力。プラントポーションを使った」
[プラントポーション]
[効果]
狂暴な植物を生み出すポーション。蔦が敵を襲う。この蔦に巻かれた場合、物理的にも精神的にも深刻なダメージを与える場合がある。また、体力を吸収し奪う。使用者の体力を回復する。
「こりゃ凄い。――で、敵は……え? 嘘だろ」
植物に 絡めとられている男の顔を見て、俺は驚いた。なぜこいつがこの島にいるんだ。信じられない。
「……くく。驚いたようだな、ラスティ」
「第二皇子・ブラームス……豚兄貴。いや、けど……今はゲッソリ痩せているじゃないか」
別人のようで一瞬、誰かと思った。
だけど顔はわずかに名残があった。
この民から搾取している悪い顔は忘れはしない。
「おまえのせいでな」
「俺のせいだと?」
「……お前はドヴォルザーク帝国を捨てた!」
「追放されたんだ」
「うるさい! お前がめちゃくちゃにしたせいで皇帝である父は死に……今や衰退の一途を辿っている。次は神聖王国ガブリエルの進軍! このままではドヴォルザーク帝国はおしまいだ!!」
「なんだ、祖国を捨てて逃げて来たのか」
「当たり前だ! ずっと幽閉されていたんだぞ!! 監禁され、自由のない生活を送り続けていた。頭がどうかなりそうだった!!」
そういえば、そうだったな。
第一皇子ワーグナー、第二皇子ブラームスはあの“魔王事件”がキッカケで幽閉処分となっていた。
「だからって抜け出してくるとは」
「あのまま留まっていたら死んでいた。神聖王国ガブリエルが攻めてくるんだぞ! 今のレオポルド騎士団では敵うまい……。ルドミラを失ってしまったし、今の騎士団長では心もとない」
なんてヤツだ。国を、民を捨てて自分だけは助かろうとして……最低な兄貴だ。
俺を殺そうとしたのも、この島を自分のものにしようと目論んだ結果だろう。だけど、俺には信頼できる仲間がいる。
テオドールのおかげで命拾いした。
「ラスティ、話の途中で申し訳ないが……この明らかに栄養の足りないガリガリの人間は知り合いかい?」
「ああ、ドヴォルザーク帝国の第二皇子・ブラームスだ。以前、ボコボコにしてやったが、その時は肥満体だった」
「なぜここに?」
「今から聞いてみる」
俺は改めてブラームスへ向き直った。
兄貴はビクッと震えていた。
「僕を殺しても無意味だぞ! 僕はもう何もかもを捨ててここまで来たんだ。ラスティ、この僕を助けろ!!」
「人を殺そうとしておいて助けろ? ずいぶんと都合がいいな」
ゲイルチュールの穂先を兄貴の喉元につきつける。ブラームスは、青ざめてがくがく震えていた。まるで捨てられた子犬のように。
「殺意はあった。そりゃ、以前半殺しにされたんだ、恨みくらいあるさ。けど、話の分からんヤツではないだろ?」
「ブラームス、人に物を頼む時はどうすると思う?」
「……ラスティ、貴様……この第二皇子に頭を下げろと!?」
「もう第二皇子ではないだろ」
「ぐっ……」
「一人で生きたければ好きにすればいい。けどな、この島はそう甘くはないぞ。大自然に囲まれ、野生のモンスターもあちらこちらに生息している。運よくもって三日だろう」
腹を空かせたイノシシモンスターや、凶暴なスライムとかいるしな。
ブラームスはついに諦めたのか、膝をつき――両手さえも地面につけていた。これは意外だった。
「頭を下げて人に頼み事をするのは、これが人生で初めてだ。ラスティ、僕が悪かった……。どうか助けてくれ」
「助けてください、だろうが」
俺は兄貴の後頭部を足で踏んだ。
もちろん、この行為は本心ではない。
けれど、心を鬼にしなければならない。
これから、俺はこの島を動かす一国の主となるのだから……信用できない相手には厳しく対応しなければ足元をすくわれてしまうのだ。
だからこそ、分からせる必要がある。
誰が『王』であるのか。
「だずげで……ぐだざいっ…………」
表情は伺えないけど、プライドはそうとう傷つけられたはずだ。こいつにとって、今まで帝国だけが全てだった。あの城にさえいれば贅沢な暮らしがあって、なに不自由なく人生を謳歌できていただろう。
しかし、傲慢が破滅をもたらした。
その結果がこれだ。
「言えるじゃないか、兄貴。テオドール、回復ポーションは?」
「いいのか」
「構わない」
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「ああ、回復力は保証するよ」
兄貴にホワイトポーションを飲ませ回復させた。
「ブラームス、島には住まわせてやろう。ただし、小屋だ。それで我慢しろ。幽閉よりはマシだろ?」
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「毎日祈れ。それできっと救われる」
「ラスティ、ひとつだけ聞かせてくれ」
「なんだ」
「僕とお前は……やり直せるのか?」
「それは無理だ。俺は兄貴達の本当の弟ではなかったんだ。本当の第三皇子はニールセンだ」
「ニ、ニールセン!? 馬鹿な!! 神聖王国ガブリエルの支配王の名じゃないか!!」
そうか、ブラームスは知らなかったんだな。当然か。俺と兄貴達は今まで一緒だったんだから。
「そういうことだ。ドヴォルザーク帝国は戦場になるかもな」
「くそっ。皇帝が不在だし、直ぐに滅びちゃうぞ……!」
「ああ、けど安心しろ。俺も故郷が消えるのは悲しい。神聖王国ガブリエルの出方次第では、こちらも相応の対応で出迎える」
「ラスティ、お前は帝国を見捨てないのか」
「さあ、分からない。今の俺にとって大切なのはこの島だからな。でも、やれることは多い。可能な限りは行動に移すさ」
「お前、変わったな」
「変わらない人間なんていないよ。ブラームス、小屋で休め」
「……分かった」
俺は、ブラームスを小屋まで案内した。
まさか流れ着いてくるとはな。
少し昔を思い出す。
スコルやアルフレッドもこの島に流れ着いたっけな。もしかしたら、帝国から流されるとここに行きつくようになっているのかな。
……まさかな。
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