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スナイダー家のパラディン

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 騎士団長アルフレッド改めルーシャスは、背を向ける。こいつ、戦う気がない?

「ラスティ、ひとつだけ確認したい」
「なんだ?」
「アルフレッドは本当に死んだのだな?」

 どういうことだ。
 なんの確認だ。なんの意図がある。つまり、これは……そういう・・・・ことなのか。


「やっぱりお前は偽物・・なんだな」
「……ラスティ、お前と戦ってよく分かった。アルフレッドは――弟はお前をたくましく育て上げたのだな」

「お、弟?」

 そうか、コイツがアルフレッドに瓜二つな理由がようやく分かった。スコルも理解したようで、俺が思ったことをつぶやいた。

「も、もしかして……アルフレッドさんって双子の兄弟なんですか?」

 ルーシャスは、少し悲し気な表情を見せた。

「その通り。アルフレッドは我が弟。改めて名乗ろう、我が名は、ルーシャス・スナイダー。パラディンのクラスを拝領した聖騎士だ。つい最近まで連合国ニールセンとの交渉を任されていた」

 な、なんだと……そんな事が。
 アルフレッドの兄ってことか。
 そりゃ似てるわけだよ。
 そして、ルーシャスが本名か。

「それで、あんたの目的は?」
「……弟の、アルフレッドの仇を討つ」
「仇を? だが、魔王は死んだ。もう意味はない」

「そうでもないさ。既に事態は最悪な方向へ向かいつつある。“本物の世界聖書・・・・・・・”によってな」


 本物の世界聖書!?

 そんな馬鹿な。あれは『破壊の書』であって“魔王ドヴォルザーク”の力が封印されていたのではないのか。それは、あの魔王アントニンが言っていた話だ。


「本物ってどういうことなんだ」

「皇帝陛下……いや、魔王の持つ『破壊の書』は、劣化コピーのレプリカと言っていいだろう。そういう聖書は、各教会に配布されているものだ。このドヴォルザーク帝国の魔法図書館に保管されていたものも偽物だったのだよ」

「偽物って、そんな!」

「偽物とはいえ、膨大な魔力はある。限りなく本物に近い魔力がな。だから、常人には本物か偽物かどうかなんて見破れないし、見分けもつかない。だが――“スナイダー家”は特別でね。世界聖書の模造品を作ることに成功した」

「なぜそんな力がお前にある!」

「オーディンと契約したからさ。そう、お前を拾ったのも何もかも、あの男の仕業。恨むなら、父親を恨め!!」


 マントをひるがえし、ルーシャスは去って行く。まてまて、オーディンがそんな契約を? ふざけやがって。好き勝手やりやがって。俺は、この行き場のない感情をどこにぶつければいい!?


「ルーシャス、俺はどうすれば!!」

「お前は、お前の国を守ればいい。私は、この帝国を守る。それが騎士団長としての務めだ。直にガブリエルは、しびれを切らして宣戦布告をしてくるはずだ。――となれば、お前の島も無関係とはいかないはずだ。
 いいか、ラスティ。こうなった以上は、第一か第二皇子を皇帝にする。あんな無能皇子でも飾りにはなる。あとは戦争だ」


 それだけ言い残し、ルーシャスは去っていく。宣戦布告だと……いやだけど、それ以上に第一、第二のバカ兄貴が皇帝陛下になるのはまずい。それこそ、ドヴォルザーク帝国は終わる。……いや、だけどまあ、勝手に自滅してくれるなら、それはそれでいい。でも、民に罪はない。

 そうだ、俺は――俺の出来ることをしよう。少しでも多くの命を助ける為に。


 * * *


 レオポルド騎士団を立ち去り、ホテルへ戻る。スコルとストレルカは、すっかり沈黙して気まずそうにしていた。……だよなあ、まさかあの騎士団長がアルフレッドの兄だとは思わなかったんだろうな。

 俺もだけど。
 いや、本当にビックリした。

 アルフレッドは、一度も兄がいるだなんて言わなかったし。どうして、教えてくれなかったんだろうな。

 くそ、どうしてなんだ。

 悩んでいると、スコルが前から抱き着いてきた。ストレルカも続くように後ろから抱き着いてくる。


「な!?」


 二人にはさまれてしまった。


「ラスティさん、気持ちは分かります。わたしも心が痛いです……」

 そうか、スコルも辛かったんだな。

「辛いなら、わたくしたちに言って下さい。癒して差し上げますから」

 ストレルカは、いつも俺に気をつかってくれる。優しいな。


 こんなに“ぎゅ~”とされると、落ち込んでも居られない。二人を心配させるわけにもいかない。本来の目的に移ろう。


「よし、二人とも! 島への移住者を募るぞ」


 ――って、まてよ!!

 俺は今更気づいてしまった。
 ギルドの受付嬢・トレニアさんが言うには『騎士団長の承認』が必要だということに。

 あ……

 ああああああああああああ!!
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