無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗

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勇者の契約・神器プロメテウス

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 ※ルドミラ視点

 この島は、他の国とは違った強力な防衛力がある。ラスティくんの『無人島開発スキル』なる奇跡の力によって島は非常に安定していた。

「行っちゃったねえ、ルドミラちゃん」

 エドゥは、素の表情でニコニコ笑う。本来はキャピキャピした性格なのに、ラスティくんを前にすると緊張するようだ。それを誤魔化すために真面目な性格を演出しているようだけど、もう猫を被らなくてもいい気がする。

「ええ、ラスティくんならきっと大丈夫でしょう。テオドールもそう思うでしょう」
「さて、どうかな。彼は肝心なところで抜けている気がする」
「どういう意味です?」

「帰りのことを忘れている。エドゥを連れていくべきだったんだ」


 あー…、なるほど。
 帰りにエドゥがいないとテレポートできない――と。それは困った。これでは、ラスティくんたちは帰って来られない。


「エドゥ、今すぐにラスティくんを追うべきです」
「大丈夫。そのうちソウルウィスパーで通信するから」
「ですが……」
「元副団長の自分がいては騒ぎになっちゃうし、今は三人にしてあげよう~」

 少々不安もある。けど、エドゥがそういう言うのならと私は強く要求しなかった。

「分かりました。となれば、私は島の警備を……ん? ハヴァマールさん、私を見つめてどうしたのですか」

 ラスティくんの妹君、ハヴァマールが驚いた顔でこちらを見つめていた。

「ルドミラ、大変なのだ。島の外に曲者くせものがおる。恐らく、奴隷商人の仲間だろう」
「……! まさか、また敵襲ですか」
「ああ、余にはある程度の気配が探れる。これは“敵”で間違いない。エドゥも感じているのではないかな」

 そう話を振られ、エドゥは「お客様だねえ」と笑う。ついさっき、ラスティくんが奴隷商人を追い出したばかりだというのに、また来客。
 だけど、島を守護するのが私の義務なのだ。

「城を守らねばなりません。ハヴァマールさんとテオドールは残ってください」

 二人とも素直にうなずく。
 この二人だけを残すのは正直心配だけど城は鉄壁だ。ゴーレム兵にアクアナイトが城内をウロウロしている。並の冒険者にアレは倒せない。上級者でも骨が折れるはず。

 それは長年、世界を旅した経験則からも理解できた。

 なら、私は島を守る。


 * * *


 海へ出て浜辺に出た。
 そこでは、大砲三門、ボウガン三門が世話しなく砲撃を続けていた。敵はたった一人で砲弾や矢を破壊し尽し、余裕の笑みを浮かべていた。いったい、何者だ。

「面白いオモチャだった。だが、この程度の兵器ではオレは倒せねぇぜ」

 ニヤニヤと笑い、立ち尽くす青年騎士がいた。SSS級の武具装備で全身を固めているようで、剣も見たこともないような異形をしていた。
 コイツ……血の臭いがする。

「貴方は何者です? 先ほどの神聖王国ガブリエルの関係者ですか」
「そうとも。その神聖王国ガブリエルの騎士さ。オレは、あの奴隷商人共がしくじらないか遠くから監視していたわけさ」

「それで、何用ですか。もう用件が済んだのなら帰りなさい。ここは、ある方の島ですよ。不法入国は許されません」

「不法入国だぁ? 国でもないこの島が? 笑わせるなよ。それに、お前達は“使者”を攻撃した。これは紛れもない敵対行為。戦争のはじまりを意味する。馬鹿だったな、あの男は。普通、一国の主は冷静に行動し、戦争をする口実を与えないものだぜ」

 もっともだ。だが、奴隷商人を使者として寄越す神聖王国ガブリエルもどうかと思う。それも五人も献上するとは下衆の極み。
 この男もまともではないのは確かだ。

「警告は一度だけです。さっさと出て行かなければ、死を招きますよ」
「死を!? このオレに死ィ!? 上等だァ!」


 剣を抜く青年。

 ――いや、あれは剣というより!

 異国のカタナ・・・・・・


「そ、それは……!」
「そうさ、これはとある国にしかないSSS級の『ドウジギリ』だ。これは子供を何百人と惨殺したと言われているいわくつきのカタナなんだよ。オレにぴったりだと思わないか」

 なんと悪趣味な武器。
 そうか、道理で血の臭いがしたわけだ。それに、あの赤い刀身。人間を切りまくった結果、血で染まったような――そんな鮮血に染まっていた。

 あの武器のせいか、異様な空気に包まれつつあった。エドゥが息苦しそうに口を開く。

「ルドミラちゃん、あの男は排除しないと……」
「分かっています。エドゥは下がっていてください。手出し無用ですよ」
「うん。でも、エインヘリャルを過信しすぎないでね。不老不死とはいえ、やりようによっては殺されるから」


「心得ています。では――」


 駆けだして男の前に立つ。
 ヤツは不敵に体を揺らし、カタナを構えた。

「さあ、女。貴様の武器を見せろ」
「言われなくとも“神器プロメテウス”を今世ここに顕現します」

 魔力で武器を生成召喚。
 その武器を手にした。

「ほう、それが武器……だと?」
「そうです。これは神器プロメテウスのアックスフォーム。私は優しいので忠告しておきますが、火力重視なので厄介ですよ」

「斧……女騎士が斧とは、これは面白い!!」

 地面を蹴り上げ、男は風となって接近してきた。早い。なんて突風のようなスピードだ。カタナが首元へ向かってくるが、私は仰け反って回避。そのまま距離を取った。

「良い太刀筋ですが、私には当たりませんよ」
「なッ! このオレが外した、だと!?」

 私はそのまま斧の形を膨らませ、巨大化させた。そう、この神器プロメテウスは様々な武器形態を持ち、自由自在に形を変えられるのだ。

 今は、大戦斧となり男の頭上へ落ちようとしていた。


「ヘルズイラプション!」


 斧専用スキルを叩き落とす。
 男は、男なりに抵抗してカタナで受け止める。なるほど、耐えるだけの力はあるようだ。けれど、神器プロメテウスは更なる変形を始め――鎖をいくつも放出。刀を絡めとっていった。


「ばばば、馬鹿な! なんだその武器は……斧かと思えば、今度は鎖ィ!? なんでそんなモンが出てくるんだ!!」

「神器プロメテウスは、あらゆる武器になれるのです。私の意思に応え、神器もまた意思を持ち、私を守護する。それが勇者の契約・・・・・なのですよ」

「ゆ、勇者……ま、まさか! 貴様、貴様はあああああああああ!!」
「今頃気づいたのですか。我が名はルドミラ。それだけで十分でしょう」

「お前が! ビキニアーマーの貴様がぁ!? ふざけるな!! こんな女に魔王は倒されたというのか!! 認めん、オレは認めんぞ。ならば、あの少女を!!」

 私のスキルを受けて余裕がないはずなのに、男は魔力を使い、姿を消した。避けられた……転移魔法か!

 男はいつの間にかエドゥを人質にしていた。

「エドゥ!」
「ふはははは! 驚いただろう、ルドミラ。この少女はオレのモンだぜ」
「貴方、テレポートが使えるのですか」

「いいや、オレが早すぎた・・・・のさ。実を言えば、オレの装備している靴が『SSS級バリアント』という神器に匹敵する防具なのさ。これは自身の移動速度を底上げしてくれるのさ。任意でな」

 なるほど、防具の効果か。
 それで異常なスピードで逃げ出せたわけか。

「すみません、エドゥ。直ぐ助けますから」
「ル、ルドミラちゃん……自分の方こそごめんなさい。油断していました」
「いえ、エドゥのせいではありませんよ」

 私は、悪魔のような笑みを浮かべる男を睨む。

「さあ、どうするルドミラさんよォ! この少女が大切だよなぁ……どれ、少しだけ味見してやろう」


 カタナでエドゥの腕を切りつける男。血が零れていく。彼女は泣いて必死に痛みに耐えていた。不老不死とはいえ、痛みまでは制御できない。痛いものは痛いし、辛いものは辛い。


「男。お前はやってはならない事をしてしまった。秒で殺す」
「はぁ!? この状況見て言ってんのかよ!? いいか、一歩でも動けばこのガキが死ぬ――ううぅうおおえええええええ!?」


 その直後には、男の右腕が吹っ飛んでいた。私は怒った。心の底から怒って本気を出した。こんな激情に駆られるのは何十年振りだろうか。でも、許せなかった。仲間が、エドゥが傷付けられて。

 そうだ、私は随分と腑抜けていた。

 帝国で騎士団長をして、この島に流れ着いた。随分と長く“人間を守る”という行動をしていなかった。今までは戦いに身を投じ……敵国の兵士をただ薙ぎ倒し、一方的に蹂躙じゅうりんする日々だった。けれど、今はもう違う。

 私は、大切な仲間を守るためにこの神器を振るう。


「大丈夫ですか、エドゥ」
「う、うん。ルドミラちゃんが守ってくれたから……ていうか、今のまったく見えなかったんだけど!?」

「毎朝、牛乳を飲めば誰でも出来ます」
「ウソぉ! でも、ありがとうね」

 腕の傷が癒えていく。
 同じ力を持つ者が触れ合えば、治癒能力も倍となる。エドゥの酷いケガは、もう塞がって回復した。さすが、エインヘリャルの力。

 ……さて、あの男をどうしたものか。
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