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温泉事件(番外編)
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ドヴォルザーク帝国は不気味なほど静寂を保っていた。
魔王アントニンの消滅から三日経った、ある日。俺は、無人島の復旧作業に追われていた。あの激戦で家を失い、防衛設備も破壊されまくっていた。
また初めからやり直しだ。けれど、俺には大量の材料があったし、能力も以前とは桁違い。万能のつるはし『ゲイルチュール』さえあれば、何とでもなった。
自然に囲まれた島を回り、木材、石、土をひたすら採集していく。
「へえ、それがラスティくんの武器なのですね」
珍獣でも見るかのように俺のつるはしを見つめるルドミラ。美しい桃色の髪が風に靡く。今日もビキニアーマーを装備し、面妖な剣を携えていた。
「まあな。このゲイルチュールで材料を獲得し、建物を作ったり、川と湖も設置できる。罠も設置できるぞ」
「大変面白い能力ですね。そんなスキルは聞いたことがない。いったい、どのようにしてそんな能力を?」
「妹さ。ほら、あの銀髪猫耳の」
「あぁ、ハヴァマールちゃんですか。あの子は、妹さんでしたか」
そう、この無人島もゲイルチュールも全てはハヴァマールのおかげ。俺もアイツもオーディンの子であり、特殊な能力を持っていてもおかしくはなかったわけで……。しかし、同時に帝国の皇帝陛下は、俺の本当の親父ではなかった。
なら、本物の親父はいったい……。気にならないといえばウソになるが、もうこの世にいないらしいし、会う事はないだろう。
「それより、ルドミラの事も教えてくれよ。伝説の人物がなんで存命で帝国に仕えていたのさ」
「エドゥから聞いているとは思いますが“エインヘリャル”による不老不死です。我々は、その昔の魔王に立ち向かうべく、神器を欲した。世界の各所を回り、ついに手に入れたわけです」
ルドミラの瞳には【Ψ】が刻まれている。あれこそが“エインヘリャル”だ。エドゥアルドの場合はお腹にあった。となると、テオドールも体の何処かに刻まれているんだろうな。
「で、帝国で騎士団長をやっていた理由は?」
俺は、土を掘りながら聞いた。
「世界聖書の奪還と破壊の為ですよ。魔王を蘇らせるわけにはいかなかった……ですが、まさか皇帝陛下が魔王だとは想定外でした」
どうやら、昔の魔王に名前はなかったらしく、単に“魔王”と呼ばれていたようだ。けれど、その正体は“魔王ドヴォルザーク”だった。
世界聖書は、実際は破壊の書。魔王の封印を偽装する為だったようだ。更なる力を蓄えるため、魔王は密かに人間の姿に変えた。それが親父だったらしい。
「なら、兄貴達には魔王の血が流れているのか?」
「そうでしょうね。ワーグナーとブラームスには、魔王の資格がある。つまり、野放しにしていれば大変な事になってしまうわけです」
「そうか……」
現状、帝国の代理騎士団長がワーグナーとブラームスを捕らえて幽閉しているらしい。だから、王座は不在。国としての機能を失った帝国は、更なる衰退へ拍車をかけているようだが――。
「きっと大丈夫でしょう。あれだけラスティくんから痛い目に遭わされたのですから」
「また来るようなら、次は徹底的にボコるさ」
「ええ、この私もお手伝いしますし」
どうやら、ルドミラ一行はしばらく島に滞在してくれるようだな。特にエドゥがこの場所を気に入ってくれているから、ルドミラもテオドールも自然と住人となっていた。
「ああ、人数は多い方が賑やかでいい。……さて、ここに温泉を作る」
以前の戦いで温泉も失っていたから、次は大きな露天風呂を作る。材料も多めに使うぞ。木材300個、石300個、土300個を投下。
屋根付き、仕切りありの男女別露天風呂を建設! ドンッとそこに温泉が出現した。……我ながら、完璧じゃないか。
あとは水を入れれば、無人島開発スキルの魔力で勝手にお湯になる。湖から水を引っ張ってこよう。
◆
「こんなところか」
「素晴らしい! こんなお風呂は帝国にもありませんでしたよ」
目の前にはお城のような大きさの建物があった。一歩入れば、そこは露天風呂だ。みんなを招待し、スコル、ハヴァマール、ストレルカ、ルドミラ、エドゥアルドは女湯へ。俺とテオドールは男湯へ。
「……ふぅ、いい湯だなぁ」
「ラスティ、これを君が作ったのかい」
「ああ、テオドール。こういう風呂は初めて?」
「異国にあったけど、この規模は初めての経験だ。大海原を見渡しながらの風呂……なんて贅沢だ。お客を入れたらきっと儲かるだろう」
いつか人が増えたら、それも考えたいな。……それにしても、隣から騒がしい声が聞こえる。
『――わぁ、スコル様ってば……おっぱい大きいですね!!』
なああああああああ!?
この声は、ルドミラか!?
『ちょ、ルドミラさん、ど、ど、どこを触って……ひゃんっ!!』
ス、スコルが凄い声を……あわわ。なんか興奮してきた。でも、俺は紳士だから、背を向ける。
「おや、ラスティ。まさか、女の子達の声に興奮したのかい?」
「か、からかわないでくれよ、テオドール。俺は別に……」
「まだまだ若いねぇ。でも、この私もすっごく滾っている。やっぱり、温泉とはこうではなくてはな……! とくにスコル様。あのスタイル抜群な彼女が、今は隣で裸なわけだ……想像しただけで……ヤバいな」
くっ……テオドール、俺を煽るなっ! その通り、想像しちゃうだろうがっ! 悔しい……でもっ!
――って、あれ?
テオドールの気配が消えた。
振り向いてみると、仕切りを攀じ登るテオドールの姿があった。何してやがるぅー!?
「ちょ、テオドール! 止せって……覗きなんてよくないぞ」
「ラスティ、大人の階段を上りたいなら攀じ登れ。それが立派な大人になれる秘訣だぞ」
そういうものなのか?
いやけど、女性の裸を無断で覗くだなんて……俺にはできない。とりあえず、テオドールを見守っていると、てっぺんまで上がっていた。
家の二階ほどある仕切りを登り切るとはね。しかし、その直後だった。
『きゃあああああああ!!』『覗き!!』『サイテー!!』『この変態!!』『テオドール、何してるの!』
当然だけど、女性陣がブチギレている。しかも、誰かがスキルを放ったらしく……テオドールはぶっ飛ばされていた。
「ちょ……私はただ! うああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!!」
ドンっと吹き飛ぶテオドールは、空高く打ち上がって何処かへ落下していった。……ダメじゃん。
俺はひとりぼっちになってしまった。
「……出るか」
温泉って気分でもなくなったので、俺は立った。だけど、エドゥがテレポートでこちらに飛んできた。
「迎えに来たのですよ、ラスティ様」
バスタオルを体に巻いているエドゥが俺の手を引っ張る。いきなりなんだ……?
「え、でも……」
「飛びますよ」
「飛ぶ?」
その瞬間、テレポートが始まってドボンとお湯に落ちた。えっと、これは……え? 周囲を見渡すと、スコル、ハヴァマール、ストレルカ、ルドミラがいた。
うわ、みんな裸……!
濃い湯気で肝心な部分は見えないけど!!
「ラスティさん」「兄上」「まあ、ラスティ様!!」「ラスティくん」
「えっと……みんな、怒らないの?」
スコルが首を横に振る。
「怒りませんよ。ラスティさんの事は信じていますもん」
「そ、そういうものなの!?」
うんうんと一同は頷く。
なんだかテオドールに悪いなぁ。
「せっかくですから、ラスティ様も入りましょうよぉ!」
ストレルカに腕を引っ張られ、俺は心臓がバクバクした。……うわぁ、女の子達に囲まれてしまった。逃げられないっ。ていうか、逃げ道なんてない!
う~ん……困ったなぁ。
顔を湯船につけ、僕は縮み込むしかなかった。
…………ぶくぶくぶく。
魔王アントニンの消滅から三日経った、ある日。俺は、無人島の復旧作業に追われていた。あの激戦で家を失い、防衛設備も破壊されまくっていた。
また初めからやり直しだ。けれど、俺には大量の材料があったし、能力も以前とは桁違い。万能のつるはし『ゲイルチュール』さえあれば、何とでもなった。
自然に囲まれた島を回り、木材、石、土をひたすら採集していく。
「へえ、それがラスティくんの武器なのですね」
珍獣でも見るかのように俺のつるはしを見つめるルドミラ。美しい桃色の髪が風に靡く。今日もビキニアーマーを装備し、面妖な剣を携えていた。
「まあな。このゲイルチュールで材料を獲得し、建物を作ったり、川と湖も設置できる。罠も設置できるぞ」
「大変面白い能力ですね。そんなスキルは聞いたことがない。いったい、どのようにしてそんな能力を?」
「妹さ。ほら、あの銀髪猫耳の」
「あぁ、ハヴァマールちゃんですか。あの子は、妹さんでしたか」
そう、この無人島もゲイルチュールも全てはハヴァマールのおかげ。俺もアイツもオーディンの子であり、特殊な能力を持っていてもおかしくはなかったわけで……。しかし、同時に帝国の皇帝陛下は、俺の本当の親父ではなかった。
なら、本物の親父はいったい……。気にならないといえばウソになるが、もうこの世にいないらしいし、会う事はないだろう。
「それより、ルドミラの事も教えてくれよ。伝説の人物がなんで存命で帝国に仕えていたのさ」
「エドゥから聞いているとは思いますが“エインヘリャル”による不老不死です。我々は、その昔の魔王に立ち向かうべく、神器を欲した。世界の各所を回り、ついに手に入れたわけです」
ルドミラの瞳には【Ψ】が刻まれている。あれこそが“エインヘリャル”だ。エドゥアルドの場合はお腹にあった。となると、テオドールも体の何処かに刻まれているんだろうな。
「で、帝国で騎士団長をやっていた理由は?」
俺は、土を掘りながら聞いた。
「世界聖書の奪還と破壊の為ですよ。魔王を蘇らせるわけにはいかなかった……ですが、まさか皇帝陛下が魔王だとは想定外でした」
どうやら、昔の魔王に名前はなかったらしく、単に“魔王”と呼ばれていたようだ。けれど、その正体は“魔王ドヴォルザーク”だった。
世界聖書は、実際は破壊の書。魔王の封印を偽装する為だったようだ。更なる力を蓄えるため、魔王は密かに人間の姿に変えた。それが親父だったらしい。
「なら、兄貴達には魔王の血が流れているのか?」
「そうでしょうね。ワーグナーとブラームスには、魔王の資格がある。つまり、野放しにしていれば大変な事になってしまうわけです」
「そうか……」
現状、帝国の代理騎士団長がワーグナーとブラームスを捕らえて幽閉しているらしい。だから、王座は不在。国としての機能を失った帝国は、更なる衰退へ拍車をかけているようだが――。
「きっと大丈夫でしょう。あれだけラスティくんから痛い目に遭わされたのですから」
「また来るようなら、次は徹底的にボコるさ」
「ええ、この私もお手伝いしますし」
どうやら、ルドミラ一行はしばらく島に滞在してくれるようだな。特にエドゥがこの場所を気に入ってくれているから、ルドミラもテオドールも自然と住人となっていた。
「ああ、人数は多い方が賑やかでいい。……さて、ここに温泉を作る」
以前の戦いで温泉も失っていたから、次は大きな露天風呂を作る。材料も多めに使うぞ。木材300個、石300個、土300個を投下。
屋根付き、仕切りありの男女別露天風呂を建設! ドンッとそこに温泉が出現した。……我ながら、完璧じゃないか。
あとは水を入れれば、無人島開発スキルの魔力で勝手にお湯になる。湖から水を引っ張ってこよう。
◆
「こんなところか」
「素晴らしい! こんなお風呂は帝国にもありませんでしたよ」
目の前にはお城のような大きさの建物があった。一歩入れば、そこは露天風呂だ。みんなを招待し、スコル、ハヴァマール、ストレルカ、ルドミラ、エドゥアルドは女湯へ。俺とテオドールは男湯へ。
「……ふぅ、いい湯だなぁ」
「ラスティ、これを君が作ったのかい」
「ああ、テオドール。こういう風呂は初めて?」
「異国にあったけど、この規模は初めての経験だ。大海原を見渡しながらの風呂……なんて贅沢だ。お客を入れたらきっと儲かるだろう」
いつか人が増えたら、それも考えたいな。……それにしても、隣から騒がしい声が聞こえる。
『――わぁ、スコル様ってば……おっぱい大きいですね!!』
なああああああああ!?
この声は、ルドミラか!?
『ちょ、ルドミラさん、ど、ど、どこを触って……ひゃんっ!!』
ス、スコルが凄い声を……あわわ。なんか興奮してきた。でも、俺は紳士だから、背を向ける。
「おや、ラスティ。まさか、女の子達の声に興奮したのかい?」
「か、からかわないでくれよ、テオドール。俺は別に……」
「まだまだ若いねぇ。でも、この私もすっごく滾っている。やっぱり、温泉とはこうではなくてはな……! とくにスコル様。あのスタイル抜群な彼女が、今は隣で裸なわけだ……想像しただけで……ヤバいな」
くっ……テオドール、俺を煽るなっ! その通り、想像しちゃうだろうがっ! 悔しい……でもっ!
――って、あれ?
テオドールの気配が消えた。
振り向いてみると、仕切りを攀じ登るテオドールの姿があった。何してやがるぅー!?
「ちょ、テオドール! 止せって……覗きなんてよくないぞ」
「ラスティ、大人の階段を上りたいなら攀じ登れ。それが立派な大人になれる秘訣だぞ」
そういうものなのか?
いやけど、女性の裸を無断で覗くだなんて……俺にはできない。とりあえず、テオドールを見守っていると、てっぺんまで上がっていた。
家の二階ほどある仕切りを登り切るとはね。しかし、その直後だった。
『きゃあああああああ!!』『覗き!!』『サイテー!!』『この変態!!』『テオドール、何してるの!』
当然だけど、女性陣がブチギレている。しかも、誰かがスキルを放ったらしく……テオドールはぶっ飛ばされていた。
「ちょ……私はただ! うああああああああああああああああああああああああああああああああ……!!!」
ドンっと吹き飛ぶテオドールは、空高く打ち上がって何処かへ落下していった。……ダメじゃん。
俺はひとりぼっちになってしまった。
「……出るか」
温泉って気分でもなくなったので、俺は立った。だけど、エドゥがテレポートでこちらに飛んできた。
「迎えに来たのですよ、ラスティ様」
バスタオルを体に巻いているエドゥが俺の手を引っ張る。いきなりなんだ……?
「え、でも……」
「飛びますよ」
「飛ぶ?」
その瞬間、テレポートが始まってドボンとお湯に落ちた。えっと、これは……え? 周囲を見渡すと、スコル、ハヴァマール、ストレルカ、ルドミラがいた。
うわ、みんな裸……!
濃い湯気で肝心な部分は見えないけど!!
「ラスティさん」「兄上」「まあ、ラスティ様!!」「ラスティくん」
「えっと……みんな、怒らないの?」
スコルが首を横に振る。
「怒りませんよ。ラスティさんの事は信じていますもん」
「そ、そういうものなの!?」
うんうんと一同は頷く。
なんだかテオドールに悪いなぁ。
「せっかくですから、ラスティ様も入りましょうよぉ!」
ストレルカに腕を引っ張られ、俺は心臓がバクバクした。……うわぁ、女の子達に囲まれてしまった。逃げられないっ。ていうか、逃げ道なんてない!
う~ん……困ったなぁ。
顔を湯船につけ、僕は縮み込むしかなかった。
…………ぶくぶくぶく。
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