上 下
117 / 342

オーディンの子

しおりを挟む
 目の前に現れた黒髪の男。
 学者――というか、錬金術師の服装が目立つ。細身高身長の糸目。……あれ、見えているのかな。
 どうやら、ハーフエルフのようだな。

「テオドール様ではありませんか」
「どうも、スコル様。風の噂で戻られたと聞き及んでおりますが、本当だったとは」
「はい、ラスティさんに助けられたおかげです」

「ほう、第三皇子の助けと。それはそれは運命ですかな」

 細い目で俺を見るテオドール。


「テオドールさん、俺は農業とか学びに来たんです。頼れそうな人が貴方だったんですが……ルドミラとエドゥアルドの仲間ですよね」

「おぉ、彼女たちを御存知とは! 二人とも元気ですか?」
「エドゥは、俺の島にいるんです。ルドミラは来る予定ですね」

「なんと! そんな話になっていたとは……世界聖書に動きが見られるようですね。今や、世界は傾きつつありますし、悪い方向に向かっている。世界は再び滅びの道へ向かうでしょう」

 何気にとんでもない事を言っているな、この人。伝説の人物だけあって説得力があるな。本当っぽいぞ。


「破滅を選んでいるのは『帝国』だ。ならば、ルドミラ、エドゥ、テオドールで止めんかい!」


 話を近くで聞いていたハヴァマールが介入してくる。……って、いいのかよ。一応、魔王なんだろ。――いや、今更か。


「おや、猫耳の可愛いお嬢さん。む……? これはこれは、驚きました。三百年振りじゃないですか! 我が宿敵、オーディン殿!」

「にゃ! 手、手を握るな気色悪い!!」

 テオドールは、ハヴァマールの手をがっつり握っていた。お~い、敵対関係はどこいった!? てか、なんか距離感近くないか。

 ――って、オーディン?
 初めて聞く名称だな。


「オーディン殿、再び聖魔大戦を始めるのですか!?」
「手を放せ、馬鹿者! 余は、ハヴァマールの名を父・オーディンから受け継いだだけ! 父はとっくにこの世から消えとるわいッ」

「おや……そうでしたか。それは非常に残念です。貴女の父も、同じような外見をしておられましたし――しかし、娘がいたとは」

「兄妹だ」
「はい?」

「余とラスティこそがオーディンの子だ。その昔、父は帝国に裏切られ……子を奪われ、魔王の名を着せられた。それが真実だ!」


 そ、そうだったのか。俺ってオーディンの息子だったの!? ていうか、オーディンって誰だよ! ……ああ、そうか道理でクソ兄貴達と似てないわけだわ。性格とか。

 なんとなく、聖魔大戦の全容が見えて来たかもしれない。


「ええ、かつてのオーディンは世界を豊かにした。ひとつの国を作り、人類の王だった。ですが、それは昔の話。人々は独立を選択し、ドヴォルザーク帝国など数々の国を誕生させた。その時点で神は不要になった……。だから、オーディンは魔王になった。そうして現在があるのです」

「よし、よく分かった。貴様を倒す」

 珍しく怒るハヴァマールは、聖槍・グングニルを生成して構えていた。おいおい、ブチギレているじゃないか。これは兄として止めないと。


「やめんかい、ハヴァマール」


 脳天にチョップを食らわせた。


「うにゃ……! あ、兄上……コヤツは敵だぞ」
「いや、俺にはそうは思えないな。エドゥやルドミラに敵対心がないし、テオドールこいつもそうだ。まったく敵意を感じない。お前を煽って楽しんでいるだけだ」

「がっ……」

 ふにゃーんと肩を落とすハヴァマール。気持ちは分からんでもないが。とにかく、今は聖魔大戦がどうとか置いておく。島の発展には、テオドールの力が必要だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

王妃は離婚の道を選ぶ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,006pt お気に入り:1,505

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:7,074

無敵の力で異世界無双~ただし全裸~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:98

ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:45

World of Fantasia

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:290

ゴーレム転生 瓦礫の中から始めるスローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:99

転生王女は現代知識で無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:3,887

処理中です...