上 下
81 / 436

帝領伯令嬢の商船にて

しおりを挟む
 浜辺を歩き、先に商船が停泊しているがけを目指した。まずは、ストレルカに挨拶をしに行こうと考えた。それと交渉・・だ。

 ストレルカに船を出してもらい、エルフの国『ボロディン』へ目指す。向こうで農業やその他諸々もろもろの知識や能力を得られれば、この島にとっても有益なものとなる。

 でも、一筋縄ではいかないかも。
 彼女は、ドヴォルザーク帝国のゲルンスハイム帝領伯を父に持つ、貴族の娘。つまり、帝領伯令嬢。祖国を思えば、この交渉は厳しいものになる。でも、ストレルカは話せば分かってくれそうだし、交渉する価値はあると思った。


「あそこだ、エドゥアルド。この前、顔を合わせたとは思うけど、あの商船にストレルカという女の子がいる。最近は、よく物資を支援してくれるんだ」

「ええ、会話は交わしませんでしたが、ストレルカ様は存じ上げていますよ」
「知ってるんだね」
「ゲルンスハイム帝領伯の要請で領地防衛の為に何度かお会いしました」
「マジか。詳しく教えてくれ」

 話を聞くと、どうやら『連合国ニールセン』の二十か国ある内の小国がたまに領有権を巡ってちょっかいを出してくるらしい。そういえば、ドヴォルザーク帝国と連合国ニールセンは度々戦争を起こしているな。

 なので常にレオポルト騎士団は遠征を繰り返している。昔も今も小競り合いから大規模な戦争は無くならない。そのような情勢を熟慮すると、我が島も無関係とはいかない。

「――なので、この島でお会いできるとは思いませんでした。ストレルカ様は、大精霊と契約を結ばれている世界屈指の召喚士サモナーですからね」

 つまり、この大賢者であるエドゥアルドから見ても、ストレルカという少女は凄腕なんだ。確かにあの大精霊は驚くべき力を持っていたな。


 崖に着き、以前俺が作った橋というか“渡り板”を歩く。これで島との行き来可能になっていた。


「お~い、ストレルカ。来たぞー!」


 大声で呼ぶと、船の中で物々しい音がした。なんか慌ててる様子だな。


『も、もしかして……ラスティ様ですか!?』
「そうだよ。って、なんで声だけ?」

 ストレルカは、なぜか船内から姿を現さなかった。その事情が直ぐに判明。

『ご、ごめんなさい。今まで寝ていて……その、まだ裸なんです』
「は、裸!?」

『実は、わたくしは裸でないと寝れないタイプなんです。着替えるので少々お待ち下さいまし』


 意外というか何と言うか……いわゆる裸族か。見えないけど、なんか落ち着かないな。ソワソワしていると、エドゥアルドが冷静に蟀谷こめかみを押さえていた。なんの儀式だろう?

「どうした、エドゥアルド」
「――これは『ソウルウィスパー』という異能です」

「へ……ソウルウィスパー?」

 力の正体を教えてくれた。


 [ソウルウィスパー][Lv.5]
 [補助スキル]
 [効果]
  離れている相手と精神を介して“交信”が出来る。会話時間は無制限。最大レベル5の場合、傍受されないようになり、盗聴スキルを無効化する。


 この大賢者、スキルをポンポン教えてくれるな。そんな秘密を簡単に教えていいのか? という疑問は置いておき、これはテレパシーみたいなものか。


「ドヴォルザーク帝国にいる友人と話していました。どうやら、帝国の動きが不穏のようです」

「なにか動きがあったのか?」
「まだそこまでは。ですが、情報収集はお任せ下さい」
「助かるよ。帝国むこうの情報なんて入って来ないからな、エドゥアルドだけが頼りだ」


 見つめるとエドゥアルドはコクコクとうなずき、少し嬉しそうだった。おぉ、可愛い。ちょっと気持ちが浮ついていると、ようやくストレルカが姿を現した。


「お待たせいたしました、ラスティ様。……それと、あれ? そこの草原の大地を彷彿ほうふつとさせるライムグリーンの髪をした方は……ああっ、まさか」


 口元を上品に押さえ、ストレルカは目を白黒させていた。

「レオポルト騎士団の副団長エドゥアルドです」
「お久しぶりです、エドゥアルド卿」

「この前は慌しかったので、あまりお話出来ませんでしたが、これからよろしくお願いします」

「は、はい……。というか、エドゥアルド卿を仲間にしているラスティ様、凄いですよ。さすが第三皇子様です!」


 尊敬の眼差しを向けられる。
 けど、俺はもう“元”だけどなっ。

 ――さて、交渉開始だな。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

処理中です...