追放された引退勇者とメイド魔王のスローライフ

桜井正宗

文字の大きさ
上 下
5 / 6

第5話 難攻不落のダンジョンへ

しおりを挟む
 準備を終え、宿屋を後にした。
 ドライデンの街は、朝から活気があって子供から老人、そして冒険者までが闊歩している。

 俺とヘリオスは、そんな和やかな雑踏の中を歩み続けていく。

 なんて清々しい天気なのだろう。
 この街の住人はみんな活力に満ちているな。

「今日はどちらへ?」
「昨日言ったろ。ダンジョンへ行くって。今日は城塞ダンジョン『ジェミニ』へ向かう」
「ジェミニですか」
「知っているのか?」
「いいえ。城塞のダンジョンがあるとは珍しいなと」

 高難易度のダンジョンだからな。
 並みの冒険者では、まず攻略不可能と聞く。
 それに少人数ではダメだ。
 パーティあるいはギルド単位ではないと。

 少なくとも最低十人はいるだろうな。
 けど、俺に仲間を増やす気はない。
 俺とヘリオスだけで十分だろう。

「行ってみれば分かるさ。行くぞ」
「分かりました」

 少し歩くと、偶然にも宿屋のお姉さんに話しかけられた。

「お出かけですか、アトラス様」
「ああ、コイツと一緒にダンジョンへ潜るよ。レアアイテムをゲットできたら、お姉さんに手土産として持ってくるよ」

「そんな、私なんかに……」

「たった一日だけど世話になっているし、いいんだ」
「お優しいのですね、アトラス様。ありがとうございます」

 お姉さんと別れ、街の外へ。
 草原フィールドは落ち着いている。
 モンスターも最弱のスライムが転がっているだけ。

 そんな、ほのぼのした自然の中を歩いていく。

 そうして真っ直ぐ歩いていると道のど真ん中で、女の子が襲われていた。


「きゃー! 助けてー!」
「おい、コラ! 叫ぶんじゃねえ!!」


 複数の男達が小さな女の子を取り囲んでいたんだ。
 な、なんてことを!

 俺はいてもたってもいられず、男達に声を掛けた。

「おい、やめろ」
「あぁ!? なんだお前は」
「女の子が嫌がっているだろう」
「てめぇに関係ねぇよ!」
「か弱い女の子を襲うとか、見過ごせるわけがない」

「んだとォ!? 野郎は黙ってろッ!」

 男のひとりがカッとなって殴りかかってきた。
 俺は当然そんなヘナチョコパンチを回避。弱いな。

「そんなもん当たるか」
「――っ!? こ、こいつ早ぇ」

「さっさと立ち去れ」
「ふざけんじゃねえ!」


 再び殴りかかってきたので、俺はそのまま立ち尽くした。
 男の拳が俺の顔面に命中する。

 だが。


『ボキッ!!』


「あんぎゃあああああああ!?」


 本当は回避するまでもなかった。
 男の拳の骨が砕けた。


「だから言ったろ、立ち去れって」
「お、お、俺の手がああああああ!?」


 周囲の男達も焦って困惑していた。


「ど、どうなってんだよ!」
「あのアンちゃんの顔、固すぎだろ!」


 ついに三人の男たちは逃げ出した。
 やれやれ、行ったか。

 俺は女の子の方へ向かい、無事を確認した。

「大丈夫か?」
「は、はい……あなたは?」
「俺はただの旅人さ。こっちのメイドは……見たままだ」
「な、なるほど。助けていただき、ありがとうございました」
「いや、ただの通りすがりさ。じゃ、気をつけて」

 立ち去ろうとすると、女の子が俺の腕を引っ張った。


「待って下さい!」
「……ど、どうした」

「わたしの名はマリナ。城塞ダンジョンに行きたいんです!」

「え……城塞ダンジョンって、ジェミニに?」

「そうなんです! そのジェミニに行きたいんです! 行こうとしたら、近所のおじさんに止められて……」


 って、まて!
 さっきの近所のおじさんかよ!!

 まぎらわしいな、おい。


「そもそも、女の子ひとりで行くような場所じゃないぞ」
「知ってます。でも、道中で誰かに拾って貰えるかなって」

「いないことはないだろうけどね。難しいと思うよ」

「目の前にいました」
「そ、それは……そうだけど、無理だ」


 さすがにこんな少女を連れていくなんて、リスクが高すぎる。守れるかどうか分からない……。

 そんな風に思案していると、ヘリオスがマリナに話しかけていた。


「マリナさん、城塞ダンジョンへ行きたいのですね」
「はい……」
「理由を教えていただけませんか」
「母の病を治す為です」
「お母さんの?」
「そうなんです。ジェミニに現れるモンスターが秘薬を落とすって聞いたんです。それさえあれば……治せるんです」


 そんな事情があったとは。
 それで一人でも向かおうとしていたんだ。

「だからって無茶だ。俺が取ってきてやる」
「ありがとうございます。でも、自分の手で入手したいんです」
「そこまでの覚悟か」
「はい……」

 少女の目は本気だった。
 ……家族を思い出した。

 アリス・ヴァンガードは、今目の前にいるマリナと変わらない歳の少女だった。

 義理の妹であり、戦災孤児で俺が拾った。幼い頃から生活を共にしていた。
 ある日、俺が勇者になると一緒に旅をすると言い出した。断ったけど、それでもついてきた。

 彼女マリナは、あの時の義妹と同じ目をしている。


「分かった。一緒に行こう、ジェミニへ」
「本当ですか!」
「ああ、ただし危険だぞ」
「承知の上です!」
「よし、出発だ」


 秘薬とやら絶対に見つけださないとな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜

幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。 魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。 そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。 「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」 唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。 「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」 シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。 これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~

秋鷺 照
ファンタジー
 強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ダンジョンでLv.999温泉経営 ~聖女からもらった【温泉開発スキル】でダンジョンに温泉を作ってスローライフ~

桜井正宗
ファンタジー
帝国を追放された元貴族のソルは、ひとりぼっちで地下迷宮ダンジョンを彷徨っていた。 ある場所で聖女・アニマを救う。 聖女を助けるとダンジョン内に温泉を作る能力『温泉開発スキル』(スプリング)を授かった。ソルは、その力を使って冒険者のよく出入りする地下ダンジョンに有料の温泉を作っていく。 回復力のある温泉と噂が広まると、需要が一気に高まるようになった。 温泉経営で稼いで大儲けの成り上がりへ――!!

処理中です...