421 / 481
第421話 とある賢者の幻のご飯
しおりを挟む
賢者の街・ギンヌンガガプ、この街はどうなっていやがる。
弱者を暴力で支配しているようにしか見えない。一方で、階級の高そうな貴族や兵は堂々と街中を闊歩し、自由を謳歌しているような――そんな風に見えた。
なんなんだこれは。
こんな街があっていいのかよ。
そもそも“賢者の街”って名前がついているくらいなのだから、もう少し穏やかだと思ったんだがな……。
頭を痛めていると、奥に見える駐屯地らしき広場が騒がしくなっていた。まるで兵隊アリのようにワラワラと現れ、こちらに向かっているような気がした。
マズい。さっきの騒動を知らされたかッ!
「ねえ、理くん。これってマズイんじゃないの~?」
俺と同じく目の良いベルは、そう警戒感をあらわにした。そうだな、これは正直面倒なことになりそうだ。
けどな、どのみち将軍ルキウスとかいう暴君をどうにかせにゃーならん。将軍をぶっ飛ばして山を越えねば聖地には辿り着けないのだからな。
それに、こんな支配が強い街はあってはならない。人間は自由であるべきだ。……そうだろう?
数十人、数百人と集まりつつある兵。こりゃ、ヤバい。
けど逃げる気もなかった。
将軍の居場所を吐かせてやるさ。
腕をまくっていくと、メサイアが俺の腕を掴んだ。
「ちょっと待ちなさいよ」
「大丈夫。死なない程度にやるし、住人の為だ」
「ダメよ!」
珍しく真剣な表情を浮かべるメサイアは、俺の腕をぎゅっと握る。な、なんだよ、調子狂うな。いつものお前なら止めないだろう?
「どうしたのさ」
「お腹空いたの……! 先にご飯食べましょ!」
「って、そっちかよぉ!?」
このアホ女神ィ!
こんな時に空腹で倒れそうときたモンだ。しかも地獄の雄叫びのように『ぐぅ~』っとお腹を鳴らしていた。
さらに、メサイアだけではない――。
フォルにリース、ベルまでもお腹を鳴らした。
そして、みんな恥ずかしそうにお腹を抱えた。
「あぅ」
「……あたしも」
「あはは……」
おいおい、みんなお腹減ってるのかよ!
だけどなぁ、こんな街に安全に食える飯屋なんてあるのだろうか。……ええい、考えているヒマはないな。
急いで撤退《てったい》して、まずは腹ごしらえといこうじゃないか!
人混みに紛れ、駐屯地から離れた場所へ。
広い街だから兵を撒くのは容易だった。
明らかにボロい家が立ち並ぶ貧民街らしき場所に到着。こりゃヒデェな。一目で見ても、ボロボロで不当な扱いを受けていると見て取れた。
「なんだか貧富の差が激しいですね……」
不安げに声を漏らすリース。その通り、さっき居た場所とはずいぶんと光景が違った。少し離れるだけで、この差かよ。
将軍ルキウスは、弱者から搾取もしているというのか。分かりやすいヤツだな。
いったい、どこに賢者の要素があるっていうんだ……?
しかし、ここの住人は貧しいなりに頑張っているようで、割と活気があった。
廃墟のようなボロイ出店が複数構えられており、良い匂いが漂っていた。
おぉ、美味そうな食べ物が売っているじゃないか。
「よかったな、メサイア。飯は売ってるぞ」
「さっそく何か買いましょ!」
早歩きでお店へ向かうメサイアと俺たち。
歩いて見回って目についたお店に立ち寄った。
そこはベーコン肉を串刺しにした食べ物を売っていた。ほぉ、これは美味そうだな。
「…………」
しかし、店の人は立ち尽くして挨拶もしない。……やる気ないのか? というか、明らかに覇気がないというか。
「おっちゃん、その串焼きをくれ」
俺が注文をすると、おっちゃんはピクッと反応して虚ろな目でこちらを見た。な、なんか怖いぞ。
「……お客さん。これが肉に見えるかね」
「え。まあ……匂いは肉だし」
「じゃあ、掴んでみな」
「? どういうこと?」
言われるがままに串を持ち上げた。しかし“するり”とすり抜けてしまった。……は? なんだこれ? 食べ物じゃない!?
「え……! サトル、その食べ物って……掴めないの?」
「あ、ああ。これは驚いたな。見せかけかよ。にしては匂いはあるが……」
混乱気味に陥っていると、店のおっちゃんが事情を説明してくれた。
「これはね。とある賢者様が作った見せかけの食べ物さ。実際のところ、俺たちはロクな食い物を食べちゃいない。だから、こうして『幻』の食べ物で……せめて匂いを楽しんでいるのさ」
「……マジかよ」
な、なんだそりゃ!
匂いだけは本物で、実際は食べられないって……。普段はいったい何を食っているんだか。
その疑問は直ぐに答えてくれた
「この貧民街では野ネズミだとか貴族の残したゴミを食っているのさ」
「……ひどい」
ギリッと歯を噛むフォルは、明らかに怒っていた。俺もその事情を聞いて、久しぶりにキレそうになった。
なんだよそれ……!
将軍ルキウスは、弱い立場の住民たちをこんな風に扱っているのか。とんでもないクズ野郎だ
やはり、俺がなんとかするしかないだろう。
山ダンジョン『ケントゥリア』を突破する為にも!
弱者を暴力で支配しているようにしか見えない。一方で、階級の高そうな貴族や兵は堂々と街中を闊歩し、自由を謳歌しているような――そんな風に見えた。
なんなんだこれは。
こんな街があっていいのかよ。
そもそも“賢者の街”って名前がついているくらいなのだから、もう少し穏やかだと思ったんだがな……。
頭を痛めていると、奥に見える駐屯地らしき広場が騒がしくなっていた。まるで兵隊アリのようにワラワラと現れ、こちらに向かっているような気がした。
マズい。さっきの騒動を知らされたかッ!
「ねえ、理くん。これってマズイんじゃないの~?」
俺と同じく目の良いベルは、そう警戒感をあらわにした。そうだな、これは正直面倒なことになりそうだ。
けどな、どのみち将軍ルキウスとかいう暴君をどうにかせにゃーならん。将軍をぶっ飛ばして山を越えねば聖地には辿り着けないのだからな。
それに、こんな支配が強い街はあってはならない。人間は自由であるべきだ。……そうだろう?
数十人、数百人と集まりつつある兵。こりゃ、ヤバい。
けど逃げる気もなかった。
将軍の居場所を吐かせてやるさ。
腕をまくっていくと、メサイアが俺の腕を掴んだ。
「ちょっと待ちなさいよ」
「大丈夫。死なない程度にやるし、住人の為だ」
「ダメよ!」
珍しく真剣な表情を浮かべるメサイアは、俺の腕をぎゅっと握る。な、なんだよ、調子狂うな。いつものお前なら止めないだろう?
「どうしたのさ」
「お腹空いたの……! 先にご飯食べましょ!」
「って、そっちかよぉ!?」
このアホ女神ィ!
こんな時に空腹で倒れそうときたモンだ。しかも地獄の雄叫びのように『ぐぅ~』っとお腹を鳴らしていた。
さらに、メサイアだけではない――。
フォルにリース、ベルまでもお腹を鳴らした。
そして、みんな恥ずかしそうにお腹を抱えた。
「あぅ」
「……あたしも」
「あはは……」
おいおい、みんなお腹減ってるのかよ!
だけどなぁ、こんな街に安全に食える飯屋なんてあるのだろうか。……ええい、考えているヒマはないな。
急いで撤退《てったい》して、まずは腹ごしらえといこうじゃないか!
人混みに紛れ、駐屯地から離れた場所へ。
広い街だから兵を撒くのは容易だった。
明らかにボロい家が立ち並ぶ貧民街らしき場所に到着。こりゃヒデェな。一目で見ても、ボロボロで不当な扱いを受けていると見て取れた。
「なんだか貧富の差が激しいですね……」
不安げに声を漏らすリース。その通り、さっき居た場所とはずいぶんと光景が違った。少し離れるだけで、この差かよ。
将軍ルキウスは、弱者から搾取もしているというのか。分かりやすいヤツだな。
いったい、どこに賢者の要素があるっていうんだ……?
しかし、ここの住人は貧しいなりに頑張っているようで、割と活気があった。
廃墟のようなボロイ出店が複数構えられており、良い匂いが漂っていた。
おぉ、美味そうな食べ物が売っているじゃないか。
「よかったな、メサイア。飯は売ってるぞ」
「さっそく何か買いましょ!」
早歩きでお店へ向かうメサイアと俺たち。
歩いて見回って目についたお店に立ち寄った。
そこはベーコン肉を串刺しにした食べ物を売っていた。ほぉ、これは美味そうだな。
「…………」
しかし、店の人は立ち尽くして挨拶もしない。……やる気ないのか? というか、明らかに覇気がないというか。
「おっちゃん、その串焼きをくれ」
俺が注文をすると、おっちゃんはピクッと反応して虚ろな目でこちらを見た。な、なんか怖いぞ。
「……お客さん。これが肉に見えるかね」
「え。まあ……匂いは肉だし」
「じゃあ、掴んでみな」
「? どういうこと?」
言われるがままに串を持ち上げた。しかし“するり”とすり抜けてしまった。……は? なんだこれ? 食べ物じゃない!?
「え……! サトル、その食べ物って……掴めないの?」
「あ、ああ。これは驚いたな。見せかけかよ。にしては匂いはあるが……」
混乱気味に陥っていると、店のおっちゃんが事情を説明してくれた。
「これはね。とある賢者様が作った見せかけの食べ物さ。実際のところ、俺たちはロクな食い物を食べちゃいない。だから、こうして『幻』の食べ物で……せめて匂いを楽しんでいるのさ」
「……マジかよ」
な、なんだそりゃ!
匂いだけは本物で、実際は食べられないって……。普段はいったい何を食っているんだか。
その疑問は直ぐに答えてくれた
「この貧民街では野ネズミだとか貴族の残したゴミを食っているのさ」
「……ひどい」
ギリッと歯を噛むフォルは、明らかに怒っていた。俺もその事情を聞いて、久しぶりにキレそうになった。
なんだよそれ……!
将軍ルキウスは、弱い立場の住民たちをこんな風に扱っているのか。とんでもないクズ野郎だ
やはり、俺がなんとかするしかないだろう。
山ダンジョン『ケントゥリア』を突破する為にも!
10
お気に入りに追加
1,270
あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる