上 下
361 / 430

第361話 絶対に諦めない聖女 - 残酷な運命に抗え!! -

しおりを挟む
「……な、どうして」

 兄様が『死神王の邪眼』を解放した瞬間だった。敵……ハロスはそれ以上に加速して、接近。兄様の身体を粉々に吹っ飛ばした。


「…………うそ、兄様。そんな……」


 目の前には血溜まり。
 血の海が広がっていた。


 わたくしは何が起こったのか分からなくて、赤い水溜りに崩れ落ちた。……あに、さま……どうして、どうして。

 あんなにお強い彼が、死ぬだなんて……信じられなかった。



「……うぅ、兄様ぁ…………」



「言ったろう。私は死神王・・・だと。人間如きが――喩え聖者であろうが、我が力の前では、赤子も同然なのだよ。……さて、眼だけは破壊せぬよう手加減したが――あったあった」


 ハロスは腰を下ろし、血の中から二つの眼を取り出して満足気に眺めていた。


「これで、私は完全態に戻れる。再び死神の時代が復活するのだ。フフフフフ、フハハハハハハハ……!」


 高笑いする死神王は、眼玉をペロリと舐め……自分の眼に押し込もうとした――


 ……もうだめだ、これで世界は終焉を向かえる。ただでさえ天帝という厄介な存在がいるというのに、そこに死神王。どうして、フォーチュン様はこんな残酷な運命を突き付けたの。おかしい、こんな事をする神様ではないはず。


「それとも、これが運命だったの……」

「そうさ、全ては導き。運命なのさ。聖女、お前はフォーチュンの加護があるようだな。それに免じて殺さないでやろう。良かったな、延命出来て……だが、直ぐに世界は死神によって支配され、滅びゆく。天帝などという愚かな存在は直ぐに抹消されよう」

「……させませんよ」


「なに?」


 兄様の為にも、みんなの為にも……わたくしは!


「――――たぁぁぁあぁあぁッ!!」

「フン、愚かな選択を。そこで泣き崩れていれば少しは安全に世界を眺められていたものを――!!」


 黒い魔力が襲ってこようとする――


 ……ああ、だめだ。


 あの火力は、確実に負ける。
 死神王の力はバケモノ……それ以上だ。


 これで、わたくしは兄様の元へ。


「……」

 


「――――諦めるんじゃねえええええ!!!」




 その時、声がした。

 女性の声。


 ……こ、これは、まさか。



「あ、兄様……というか、ヘデラ様!!」

「ああ、俺の肉体は二つ・・あるんだぜ!! サトルの方は吹っ飛んじまったけどな!! だからこそ、お返してしてやらあああああああああああああああ!! 全力全開……!」


「……な、なんだ! 何なんだ貴様は……!」


 兄様――いえ、ヘデラ様は上空から落ちてくると、最強の技を怒りのままに振り下ろした。




『――――――咆哮のエンデュランス!!!!!!!!』




「……馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! 馬鹿な! うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



 ――気づけば、わたくしはヘデラ様に抱えられていた。


「……フォル、無事か」
「あ……、兄様ぁ……死んじゃったかと……思いましたよ……」
「サトルは確かに死んだよ。でも、俺の存在は二つあるからな。なあに、安心しろって、サトルの肉体は【スターダスト】で何とか復元するよ」


 そっか。よく考えればそうだった。
 安心して、涙がいっぱい出た。

 ――本当に良かった。本当に。


「ごめんな、フォル。お前を守ってやれなくて」
「いいんです。兄様が生きてさえいてくれるのなら……」


 光が止むと、屋敷の庭には大きな穴が出来ていた。その深淵の果てに、きっと死神王は落ちたのだ。あれだけの激昂を正面から受けていたから、死神王とはいえ無事では済まないはず。


「とにかく、ここは危険だ。脱出するぞ」
「はいっ」


 抱えられたまま、去ろうとしたけれど――


「…………のれぇ」

「なんだと……死神王、まだ生きてやがるのか!」

「………ぁ、ァァァ」


 死神王ハロスの身体は左半分が失われていて、バケモノのような姿になっていた。普通の人間なら即死だけど、あれは死神。再生・治癒能力は異常なほどに高いようだ。

 けれども、ハロスは苦しみ、もだえていた。


「ぉぉぁぁぁ……ッッ」


「再生が追い付いていないようですよ、兄様」
「そのようだな。ならば――ここからは、死神の天敵である女神の出番だ。そうだろう、メサイア、ネメシア!」


 ふわっと現れる二人……いえ、三人。
 姉様とネメシア、それとリース。
 そっか、リースがテレポートを。


「皆さん!」


「待たせたわね、ヘデラ、フォル!」

 ニカッっと笑う姉様。かっこいい。


「まさか、ママに呼ばれた先が世界ギルドとか……って、なんで崩壊してるの!? あのバケモノなにー!?」


 状況が飲み込めないネメシアは混乱していた。
 相変わらず、落ち着きのない。
 誰に似たんだか。


「フォルちゃん。助けに参りましたよ」
「リース! さすが、わたくしの嫁!」


 ふわふわのエルフ、リースに飛びついて再会を悦びああった。……ああ、やっぱりリースの抱き心地は最高です。


「サ……ヘデラさんが緊急事態と仰ったので」

 それで駆けつけて下さった、と。
 さすが兄様です。


「……なるほど、あのドロドロのバケモノが死神王か。ふぅん、私は噂しか聞いた事なかったけど、あんなヤツだったんだ」


 姉様は白く輝き始めた。
 これは、女神の力。


「ママ、わたしも!」
「ええ、ネメシアの力も必要よ」


 ……二人の女神が動き始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。  ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~

剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

処理中です...