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第357話 怪しげな男達 - ぼったくりバー・えんじょいにて -

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「――サトル、私はお腹が空いたわ」


 ヘンなポーズで俺をエロイ目――もとい、赤い瞳で流し見る女神・メサイアは、晩飯をご所望だ。確かにもう遅い時間。深夜だ。空腹ハラペコだった。


「そうだな、なにか食っていくか。ぼったくりバー『えんじょい』なら空いてるだろ」


 俺とネメシアの思い出の場所だ。
 酒はまずいが、飯は一級品という食評判の高い店なのである。オーナーは、コックにでもなればいいと思うのだが、強いこだわりがあるのだとか。


「決まりね。じゃあ、行きましょうか」


 ◆


【 ぼったくりバー・えんじょい 】


 あらくれの集う酒場は、本日も犯罪者スレスレの客人でにぎわっていた。


「ねえ、サトル。一歩間違えれば、お縄になりそうな凶悪面をした冒険者達がジョッキを片手にうたげをしているわよ」

「おい、聞こえるだろうが。もうちょいボリュームを下げていえよ、メサイア」


 突っ込むと――、


「おうおう、そこの黒髪の姉ちゃん。そりゃあ、俺達の事かぁ!?」


 完全に酔っぱらている大男が現れた。
 でかっ……三メートルはあるぞ、この男。

 全身の傷とかすげぇな。まるで獰猛どうもうなクマ系モンスターと格闘しまくったって傷痕だった。


「ご、ごめんなさい。悪気は無かったの」

 メサイアは謝ったが、男は気が収まらなかったようで、興奮気味に『ビア』を振舞っていた。


「ほう、素直な姉ちゃんじゃねぇか。よく見りゃあ、どちゃくそ美人だなァ! よーし、このビアを飲め、飲め」


 ビア(俺の記憶の世界で言えばビール)を勧められ、メサイアはジョッキに手をばしていた。それをゴクゴクっと豪快ごうかいに飲み干す。って、そんな一気に!



「――――ぷはぁぁッ! まずい!」



 はやっ。
 なんだこの飲みっぷり。
 でもって、やっぱりマズイのかよ。


「ふっ、この程度ならまだまだ」
「やるなぁ、姉ちゃん。よ~し、今夜は俺のおごりだぁあぁ! そこの兄ちゃんも飲めよぉ!」


 巨人男、どうやら名を『トニトゥルス』というらしく、酒をどんどん注文していた。おごりかよ。そりゃあ、ありがたいけど。

 ジョッキを受け取り、金色の液体を胃の中へ流し込んでいく。……くそまじぃ。まるでドブ水だが、そんな間にもメサイアは、どんどん飲み干していく。いったい何杯行く気なんだ、この女神様。もうすでに十はいったぞ。


「まだまだ余裕ね」
「メサイア、お前、酒強すぎだろう」
「女神ですから!」


 えっへんと胸を張るメサイア。まさか、これほど酒が強かったとはな。家で飲む時は少量だったし、会話がメインだったからな。

 今はどんどんジョッキが山積みになっていく。

 これほど飲んでも酔わないとはな。既にトニトゥルスは、ダウンしており、顔が真っ赤。眠っていた。


「あーあ。こりゃ、メサイアの勝ちだな」
「楽勝ね。じゃ、これで心置きなく飲めるわね」
「あ、ああ」


 もともとトニトゥルスの座っていた席にお邪魔し、俺はメサイアと対面となった。こうして見ても、まったく酔っていないな。

 そうしていると、店のオーナーが複雑な表情で現れた。


「よう、マスター」
「サトルくん、お金は大丈夫だろうね。かなり飲んでいるけど」
「それなら、そこで寝ている巨人男のツケで」
「分かったよ。それで、ご注文はどのように?」


 正直もう満足なんだけどな。
 だが、メサイアは違った。


「ファジーネーブルふたつ」
「ほう、ファジーネーブルかい。それはお目が高い……最高の味を保証するよ」


 本当かよ。
 ビアですら絶望的な不味さなんだが。少し待つと、黄色いびんを持ったオーナーが現れ、机にそれを並べた。


「これが、ファジーネーブルだよ。かつて雷神に愛された娘が愛飲していたものなのだよ」


 これが噂の。
 オレンジジュースのようにしか見えないが。


「サトル、乾杯かんぱいしましょ」
「おう」


 乾杯かんぱいして味わうと――


「お……美味いな。普通に美味い」


 めっちゃ普通!!
 でも、美味かった。


「でしょ。だから……」


 そこでガタッとメサイアは倒れた。


「ちょ、おま……いきなり倒れるとか!」


 どうやら潰れたらしい。ここまでか。
 仕方ないので、俺はメサイアをおんぶした。


「オーナー、そこの巨人は任せたよ」
「ああ。また来てくれ」


 酔い潰れたメサイアを抱えて、店を出た――その直後だった。


「ひょ~、やっぱりイイ体の女だな!」
「よぉ、おっさん。その黒髪の女を寄越してもらおうか」
「女は、俺たちが楽しんでやるよ!」


 酒場にいた妙な三人組が現れた。かつてのチョースケ、パースケ、グースケを思わせる風貌だ。ってか、メサイア狙いかよ。珍しいな。


「やめておけ。この可愛い寝顔で潰れている女神は俺のだ。指一本でも触れれば、お前たちの股間こかんを一生使えなくしてやろう」



「んだとォ!?」
「この蛇のマークが分からねえのか!」
「俺達ァ、ヒュドラだぜ! シミター様が黙っちゃいないぞ」



 男の腕にはニョロニョロした『蛇』刺青。あれは、ヒュドラのマークなのか。


「――なら、倒すっきゃないよなあ」


 メサイアを抱えたままだが、問題ない。
 このままでもヤツ等を倒せる。
 俺には【オートスキル】があるからな。


 だが、なんだろう。男達がニヤニヤして余裕を見せている。嫌な予感が――的中した。



「――ぐっ!」



 俺の背後からもう一人・・・・が現れ、メサイアを奪った。


「くそっ、四人目がいたのか……」

「油断したな! この極上の女は貰って行くぜ! 四人で回して楽しんでやるよォ!! お前の目の前でな!!」


 ……ぶっ殺す。



「その薄汚い手で触れるんじゃねえええッ!!」



 瞬間的に移動した俺は、メサイアを奪った男の顔面をアイアンクローして、地面に叩き落とした。



「――――ぐふぁぁぁぁぁッ!?」



 地面に大きなクレーターが出来て、そこに男は沈んだ。その間に俺はメサイアを回収、おんぶして脱出。


「なっ! くそが!」
「作戦が台無しかよ」
「三人でいくぞ!」


 向かって来るアホ三人。
 その明確な敵意に反応した【オートスキル】が地面から生えた。槍だ。『グローパイク』という物理的ダメージしかない槍がニョキっと生えて、ヤツ等の股間こかんを強打した。



「ぶぎゃああああああああああ!!」
「おぐぅぅぅぅあぅぅぅぁっぁぁあああ!?」
「にょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁッ!!」



 見事に命中した槍は、三人の股間こかんを破壊した。あーあ、白目いて、泡噴いて失神してらあ。



「アマゾネスに報告して、こいつらは監獄行きだな」



 それにしても、ヒュドラがまぎれていたとはな。やはり、レメディオスの何処どこかにまだ敵がひそんでいるようだな。何とかしないと。
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