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第352話 女神の手 - ゼロからスタートする温泉生活 -

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 再びメサイア邸に戻ると――

「ヘデラ……」

 ネメシアが意識を取り戻していて、俺を出迎えるかのように立っていた。


「ヘデラぁぁああぁ……」
「ネメシア、俺が悪かった」


 飛びついてくるネメシアを、俺を優しく受け止めた。頭を撫でた。


「ううん、ヘデラは何も悪くないの。助けてくれて、ありがと……」


 ……あぁ、良かった。
 本当に無事で。


 この子がいないと、俺は笑顔で暮らせないからな。ネメシアがいない生活なんて、ありえない。このヘデラが存在していられるのも、ネメシアのお陰なのだから。


「ネメシア、ネメシア……」


 実の娘を本当の父親として、ぎゅっと抱きしめて、生きている事に安堵した。……そうか、子供が元気でいるってだけで、こんなにも喜ばしい気持ちになるのか。


 これが親心か。


 ◆


 メサイアに奥の部屋に連れてかれて、殴られるかと覚悟した。だが。


「なによ、そんな警戒しちゃって。期待させちゃって悪いけど、ビンタとか鉄拳制裁とか、そんな在り来たりなシリアス展開はないわよ」

「へ……メサイア?」

「ネメシアのアレは、サトルの……いえ、ヘデラの事を想っての行動だったのよ。昔も今も、これからも。だからさ、貴方を叱る権利なんて、私にはない。それに、私は母親らしい事もあんまり出来ていないし」


 寂しそうに落ち込むメサイアは、今にも泣き出しそうだった。そんな顔をして欲しくはない。

「メサイア」
「……まさか聖女姿のサトルに抱きしめられるとか……」

 俺の胸に顔を埋めるメサイアは、ほっとした表情をしていた。きっと、ネメシアの事をずっと心配していたに違いない。でなければ、こんな心身ともに疲れている筈がないのだから。

「……ていうか、サトル、あんた……胸大きすぎない!?」
「な!? う、うるさいな……仕方ないだろう。フォルをベースにしているんだから」


「ちょっと腹立ってきたわ! むう」

「ば、馬鹿! そんな顔をグリグリするなって! くすぐったい……」


 やべ……なんかヘンな気分になってきた。


「や、やめっ……ぅわぁ」


 メサイアを引き剥がした。



「…………はぁ、……はぁ」



 くっそ、息が上がっちまった。
 メサイアの小顔は、威力高いな。


「むぅ」


「もっと俺の胸に埋まりたかった風な顔するな! どうせなら、男の方でしてくれよ」
「えー…、だって男の方じゃ平じゃん。気持ち良くないし」

「気持ち良くないとか言うな!? まあ、あっち・・・は今、緊急クエスト中だからな」
「そうね、じゃ、ネメシアを頼んだわよ」


 サムズアップを交わし、俺は部屋を出た。


 ◆


 ――後日。
 ネメシア達の方の邸宅いえでのんびりしていた。


「――ん、女王様が?」
「うん、ポインセチア城に来いってさ」
「そうか。じゃあ、ネメシアも一緒に行くか」
「もちろんよ! じゃあ、トーチカやエコも」

 そうだなと返事を返し、俺たちは城へ。


 ◆


【 ポインセチア城 - 女王の間 】


「ヘデラ、お前の望みはメイドール家の『宿屋』らしいな。この場所におるメイドールがそう発言しておる。相違ないな」

「ええ、俺は宿屋を手に入れて、温泉をやろうと思っていました。10億という負債があって、デメリットも多いですけど……」

「分かった。メイドール、その宿屋は、ヘデラに譲る。これでは間違いないな」


 女王が確認すると、メイドールはハッキリうなずいた。


「ええ、間違いありません」
「よろしい。では、負債は免除じゃ」


「ふぇ!?」


「ヘデラよ、その『温泉』とやら、あまり聞かぬ施設じゃ。楽しみにしておるぞ」

「ま、まさか……カルミア女王様!?」


「何を驚いておる、ヘデラ。お前の望みを叶えてやったのじゃ。スターダストで呪いを解いてくれたじゃろう。それに、あの悪漢ファルシオンの撃退……見事じゃった。だから、その礼じゃ」


 ……ま、まじかよ。


「ありがとうございます!!」


 こうべを垂れ、俺は感謝を表した。



「それと、メイドール。お主は、時の魔法使い『ラグラス・アドミラル』同様に、我が手となり足となり、余を補助するのじゃ」


「……み、身に余る光栄です!! 女王陛下!!」


 メイドールは、涙し、土下座していた。彼は……ほとんど何もしてない気もするが、棚ぼただな。



 ――――こうして、俺は【レメディオス王国】中央にある『宿屋』を手に入れた。負債はゼロ。だから、全部ゼロからスタートだ。


「ここから温泉が始まるんだ」
「そうね、ヘデラ」


 手を重ね合わせてくるネメシア。俺はそれに応えて、指を絡めた。これは自然な行為だ。親が子供を連れていくように。


 俺はこれからも、この手で、ずっと彼女めがみを引っ張っていく――。
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