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第343話 敵か味方か - 時の魔法使いの思惑 -

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 ふわっとした金髪。するどく光る赤眼……どの角度から見ても流麗な容姿。それから、ワインレッドの貴族服。実に女性受けの良さそうな風貌ふうぼうだった。


「ようこそ、私の名は御存知ごぞんじかと思うが『ラグラス・アドミラル』だ。緊急クエストを受けてやって来たのだろう。全てお見通しさ」

「なぜ知っている」

「知ってるとも。世界ギルドがこぞって私を狙っているからね」


 ――という事は、やっぱりコイツが犯人か。スターゲイザーの重要な秘密を握っているのだろう。


「あんたを倒して、少女セルリアを取り戻す。それから、スターゲイザーの情報を洗いざらい吐いてもらうぞ」


 俺がそう断言すると、ラグラスは微笑んだ。


「ほう、キミは好戦的だね。……ふむ、失礼だがそのボサボサの黒髪、無精髭ぶしょうひげ。なかなかのご年齢のようだけど」

「ああ、自分でもスッカリ忘れていたけどな、これでも39歳のおっさんさ。けど、こんな俺でも好いてくれている女の子が――」


「………………」


 あれ。
 まて、フォルの挙動がおかしいぞ?


「フォル?」
「……あ、いえ、その……」
「まさか、お前……あのラグラス・アドミラルに見惚みほれていたんじゃ!」


 珍しくうつむいて顔を赤くしていた。

 おいおい……そりゃないだろう!

 ちょっと絶望しかけると――


「なにを仰るのです、わたくしの視線は常に兄様に固定されておりますっ!」

「なんだ、ただの気のせいだったか!」

「ええっ、気のせいです。いやぁ、あの方が兄様の魅力部分を仰ったので、ああ、そういえばと自分も納得していたのですよ」


 なんだ、そういう事か。
 良かったー…一瞬ビックリしたぞ。


「残念、てっきり聖女様を落とせたと思ったんだけどな。少し残念だよ」


 少し不服そうにするラグラス・アドミラル。……ふん、お前と俺じゃ、フォルと過ごしてきた時間とか信頼とかが違うんだよ。


「もういいだろ、ラグラス・アドミラル! さっさと少女を返せ。そして、スターゲイザーの情報を吐くんだ」


「分かった。いいだろう」


「ぶっとば――――へ!?」


 今、コイツ、なんて?


「分かったと言った」
「どういう事だ……」


 ラグラス・アドミラルは、くるっと背を向けて高級な椅子の方へ向かい――座った。それから、足を組んでこちらを向き話を始めた。


「いや、実を言えば私は味方・・でね」
「なんだと……」

「そうでなければ、この家に通さないし、庭にいた番犬『パンツァーウルフ』を解放していたし、ここまで通していないだろう」


 そう言われれば、そうだ。
 罠らしい罠もなかった。つまり、コイツは最初から会話を望んでいた事になる。そうか、敵意はなかったのか。


「では、貴方はわざと緊急クエストを作らせ、わたくし達を呼んだと?」


 フォルがラグラス・アドミラルにたずねた。すると彼は、呆気ない程に『ウン』とうなずき、フォルに極上のスマイルを送っていた。オイ、ヤメロ。


「そうだね、そういう事になる。そして、薄々感づいているかもしれないけれど、少女セルリアこそがスターゲイザーの一味さ」


「マジか……」


「ああ。数日前にね、辺境伯である私は、別の辺境地区を任されていたんだよ。その場所こそ『エロス』だ」


「「なっ……」」


 俺もフォルもシンクロして驚く。
 そうか、それで『通行証』が報酬になっていたのか。てか、コイツ、辺境伯だったのかよ。かなり上の爵位じゃねぇか。


「エロスは、円卓の騎士とグランドクロスが奪還した国でね。今や、彼らの重要拠点なのだが、管理自体はカルミア女王の命によって、この私がっているのだよ」


「は……はああああああ!?」


 待て待て。
 エロスに『円卓の騎士』と『グランドクロス』ぅ!? そうか、道理で姿を見ないと思ったら、そんな場所にいたのかよ。


 で、アレか。


 その少女は――


「キミは察しがいいね、サトル。そう、少女はエロスを襲ったんだよ。たった一人でね。けど、私が捕まえて今は『時の牢獄』の中さ」


 それを聞いて、俺は頭を押さえた。
 頭痛がするぜ。


「なんだそりゃ、最初から普通に教えてくれればいいじゃないか」


 ラグラス・アドミラル……いい加減に長いので、以降は、ラグラスとする――は、首を横に振った。


「残念だが、私はこの屋敷から動けないのだよ」

「何故だ」

「言ったろう、少女を捕まえたと。『時の牢獄』は、私専用の魔法スキルでね……この家を触媒しょくばいにしているから、離れると彼女が逃げ去ってしまうのさ。ここまで運んで来るのにも一苦労だったんだよ~」


 からっと笑うラグラス。
 なるほど、確かにひとりで国を攻めるような少女だ。危険度は高いってワケだな。てか、そんなスターゲイザーの一味を捕らえているコイツも、中々に凄いな。


「そんなわけさ、私の事を知って貰いたかったのさ。それと、スターゲイザーの情報もね」

「教えてくれるのか?」

「ああ、いいだろう。その代わり……」
「その代わり?」

「聖女様をしばらく貸して戴けないだろうか! 一目惚れでね」


「却下だ!」
「却下です」


 またも俺とフォルがシンクロした。
 いいね、シンクロ率100%じゃね!?
 やっぱり、俺とフォルは通じ合あっているな。


「そうかい。残念だ……聖女・フォルトゥナ様は、その人にしか眼中に無いわけか。うん、その絆しかと確認させて貰った」


 ちょいと悔しそうにうなずくラグラス。
 敗北を認め、やっと、スターゲイザーの情報を話す気になったらしく、話が始まった。
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