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第342話 時の魔法使い - ラグラス・アドミラル -

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 家の外に出て、レメディオス王国の街を歩いた。
 聖女であるフォルと一緒に歩くと、ほぼ一瞬で周囲の注目を集める。誰しもが腰まで伸びる雪のような銀髪に魅入みいってしまう。それは俺もだが。


「今日はフォーチュンの信者が多いな」


 この国に多く存在するフォルの信者。
 その神聖度と美貌びぼうから男性人気も高かった。


「さて、兄様、ラグラス・アドミラルの居場所ですけれど……兄様?」
「ん、ああ……すまん」
「? ぼうっとされて、どうされたのですか」
「……いや~、フォルって、やっぱり人気があるんだなって」


 そうポツリと言えば、フォルはニヤッと笑う。


「大丈夫ですよ、信者の方達からのアプローチは毎日ですから。そりゃあ、たまに殿方から告白とかされますけれど」


「……むぅ」

「兄様ってば可愛いです……。そんないて下さるとは♡ でも安心して下さいまし~、わたくしは未来永劫、兄様にしか興味ありません♡」


 フォルは、そうまぶしすぎる笑顔で言い切って、腕に抱きついてくる。うん、まあ、そう言ってくれるのならいいか。少し前まで離れている時間も多かったからな……。

 そう、ほんの二週間前までは、聖女に転生していて、一年ほど会う機会も無かったのだ。しかも、ヘデラの時は記憶も定かではなかったし。いざ記憶を取り戻してからは、心配になっていたのだが――杞憂きゆうのようだったな。


 ◆


 なんと『アドミラル家』は、レメディオス内にあった。

「ポインセチア城から近いな」
「それはそうですよ~。ラグラス・アドミラルは、あのカルミア女王も認める貴族ですよ。時の魔法使いの家系だとか」


「マジか。そんなヤツがスターゲイザーと関りが?」


「あくまで容疑ですけれどね。もしかしたら、その囚われている少女が……って事もあるかもしれません」
「確かに、そのラグラス・アドミラルなのか少女なのかハッキリしていないしな。とりあえず、とんでもねぇ家だな」


 目の前には城に匹敵する屋敷があった。


「これはデケェ」
「ええ、でかいです」


 てか、女王も認める貴族から少女を取り返す? なかなか難易度高いな。正面堂々ってワケにも――。


 そう思っていると、門が勝手に開いた。


「おっ……」
「び、びっくりしましたね」


 一瞬、微量の魔力を感じた。
 これは何かのスキルらしいな。
 入って来やがれって事かね。


「招かれているらしいし、入ってみるか」
「え、ええ……」


 ぎゅっとフォルの手に力が入る。ちょっとおびえているみたいだな。うんうん、俺が守ってやらないとな。


 ◆


 屋敷の中に入って、長い庭を歩く。
 警戒しながら玄関前に到着。

 番犬らしきテイムモンスター『パンツァーウルフ』が五体ほどウロついていやがった。超防御力特化のウルフだ。突破は容易ではない。


「なるほど、中々に厳重なセキュリティらしいな」
「ええ、どこになんのトラップが仕掛けられているやらです」
「フォル、足元に気を付けろ」
「は、はいっ……」


 彼女の腰に手を当て、身をグイッと寄せた。それから、扉をノックしようとすれば、また勝手に開く。……やれやれ、ここまで行動を読まれていると、直接対決をご所望かね。


「行くぞ」
「はい……」


 不安気なフォルを抱えながら、俺は中へ進む。長い廊下を二人で慎重に歩いて行けば、室内灯がこっちへ来いと示すように点滅した。ここまで誘導するとはな。明らかな罠っぽいニオイがするが……まあいい、乗ってやるさ。


 その灯りの通りに進んでいけば、突き当たり。怪しい部屋の前に辿たどり着く。


「これまたデケェ扉だな」
「ええ、この先にラグラス・アドミラルがいらっしゃるかと……」

「ああ、いるだろうな。とんでもねぇ魔力だ。そんなヤツがどうして、今まで潜んでいたんだ? このレメディオスに何度危機が訪れたと思ってやがる。中にいるヤツは、これだけの魔力を持ちながらも、のほほんとしていたわけか」

「まあまあ、兄様」


 落ち着いて下さい、とフォルになだめられ――俺は興奮を抑えた。冷静になって、扉に手を掛けようとすれば――


 やはり、勝手に開く。
 やれやれと俺は中へ進むと、そこには男の姿が。


「コイツが……ラグラス・アドミラル!」
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