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第340話 世界の理

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 レメディオスに平和が戻った。
 世界ギルド・フリージアでドンチャン騒ぎの毎日――その三日目、俺の部屋。


 広々としたベッドの上には、女神メサイア聖女フォルエルフリースが、みんな俺を中心に添い寝している。

 そんな最高の日々を送っているわけだが、動けないのが難点かな。そんな中で一番にメサイアが目を覚ます。眠たそうに目を擦り、赤い瞳で俺の顔を視認すると「おはよう」と挨拶をくれる。


「おはよう、メサイア」
「……うん、フォルとリースはまだ寝ているのね」
「昨晩もあんだけ騒いだからな」

 気づけば30人、50人、100人と宴会の規模がどんどん大きくなった。飲んじゃ食っちゃしていた。勝利の余韻よいんに浸りすぎたな。

 幸い、不穏な動きは無かった。


「まあ、たまにはいいけどな」
「うん。あ、そうだ」


 パンと手を叩き、メサイアは提案した。


「たまには一緒にお風呂行かない?」
「朝風呂か、いいね」


 ◆


 この世界ギルドの屋敷には、俺の作った『露天風呂』があった。早朝のせいか誰もいない。


「やった、二人だけね」

 バスタオル姿で現れるメサイアさん。
 少し顔を赤くして登場だ。
 俺も少しドキッとする。

「じゃあ、入るか」
「待って。ちゃんと掛け湯してね」
「ああ、そうだな」

 すぱっとお湯を流し込み、自分の身体を清める。ついでに、メサイアの身体にも丁寧にお湯を流す。

「あ、ありがと……」


 いやな顔はしていない。
 むしろ照れてるなぁ。


 それから露天風呂へ。
 メサイアは、タオルに手を掛けて外す。

「おまっ……って、なんだ水着つけてたのか」
「まあね。世界ギルドの人たちもいるから、誰か入って来るかもしれないし、念の為よ」

 納得。この屋敷には今や100人規模のメンバーが集結しているからな。誰か朝風呂に来てしまうなんて事も十分に有り得る。ただでさえ女神の貴重な柔肌。そう簡単に見せるワケにはいかない。

 つっても、この花火柄ビキニも中々に面積が少ない気が。そんな事を気にしながらも、お湯に浸かった。


 広々としているのに、メサイアは俺の隣に肩をピッタリくっ付けてきた。


「……」
「メサイア」

「……」
「緊張しているのか」

「……久々だもの」
「そうだな」


 しかし、会話が途切れる。
 困ったな。

 う~ん……。

 腕を組んで悩んでいると、メサイアが突然立ち上がる。すると、ツルっと足を滑らせて俺の股の間に入って来た。彼女の背中を自然と支える形となった。


「!? メサイア!?」
「……う、ごめん」


 なんか、ちょっとワザとらしさもあったような。気のせいか?_――にしても、こんなドジっ子は珍しいな。とはいえ、これ以上は何も出来んがな。誰か来たらマズイので!

 しかしながら、メサイアとこれほど至近距離とか幸せすぎる。色々壮観なのもある。……こうして近くで見ると漆黒の髪には驚くほどつやがあった。すげぇ手入れされてる。あと、うなじ最高な。俺的ポイント百点満点。

 俺は最近、うなじフェチに目覚めたかもしれん。

 メサイアは、俺から離れず――湯から腕を出して、塗りたくるような動作を見せた。傷ひとつない白い肌で、ツヤツヤしてんなあ。更には黒い爪。なぜか『放射性標識』マークの入ったマニキュアが変わらずそこにはあった。一体アレは何だろうな。女神七不思議のひとつである。


 まあ、こうして、二人でのほほん温泉を楽しむのも最高だな。


「良いお湯ね」
「そうだな、さすが俺の作った露天風呂。ギルドメンバーにも大好評だぜ」
「サトルって温泉作る才能あるわよね。レメディオス中に露天風呂開いたら大儲け出来るんじゃない~?」


 などと提案するメサイア。
 俺は、それ名案だなと心の中で思った。


「ひと稼ぎしてみるか……」
「ギルドの活動資金にもなるし、いいんじゃない? ほら、冒険だけでは稼ぎに限界があるし」


 ふむ、考えておくか。


 金はいくらあっても困らんからな。と、今後の活動方針を練っていると、メサイアはまた立ち上がった。


 ――が、またも足を滑らせて『ドボ~ン』と豪快に落ちた。


「今日はよく滑るな」


 って、あれ……この浮いている水着はもしかして――。


「――ぷはぁ……」


 正面に現れる裸の女神。


「……お、おい! メサイア!」

「――え? ……って、わたし!!」


 俺の視線に気づき、顔を真っ赤にするメサイア。神の悪戯か、幸い(?)な事に濃い湯気がタイミングよく発生して彼女の身体を覆った。なにも見えなかった。


「何も見えねええええ――――ッ!!!」


 クソ、湯気めぇええええ!!


 その内に早着替えしたのだろう、メサイアは水着に戻っていた。……チキショウ。


「…………サトル!」
「濃い湯気に邪魔されて、何も見えなかったって。そうにらむな」
「な、ならいいわ!」


 いいのかよ。
 なんて油断していると、脱衣所の方から複数の声が。


「フォルちゃん、早く早く!」「リース、腕を引っ張らないで下さいまし……。それにしても、兄様と姉様はどこに――」


 この声は、まさか!!


「…………あ」


 そこには裸の――。
 が、濃い湯気がブワァッと光の速さで遮って見えなかった。今のはリースとフォルだったな。おい、湯気! 仕事しすぎだろ!!


 しかし、湯気は風で飛んでいく。


「……は、恥ずかしいです」
「わたくしは別に構いませんのに」


 湯気が消え去ると、リースもフォルも水着になっていた。……得意の早着替えか! まあいいか。その方が問題はない。


 結局、みんな水着・・かよ!


 もうしばらく温泉を楽しもう。


 ◆


 サイネリアに呼び出された。
 彼女専用の執務室の前。

 俺は軽くノックして、返事を待った。


「どうぞ」


 返事があったので、俺は扉を開けて中へ。


 そこには後ろ姿のサイネリア。
 グーパーコンビの姿はない。不在か。


「――で、話ってなんだ、サイネリア」

「今日、貴女・・を見ましたわ」


「そうか。別に隠すつもりはなかった。この俺、サトルも存在すれば……あの俺、ヘデラも存在する。同時に存在しているんだよ、スターダストでな。俺は、メサイアもネメシアも……みんな大切だ」



「そうだろうと思いましたわ。……了解です。そうなってしまったのだから、仕方ありませんわね。本来はありえない事象ですけれど……認めましょう。いえ、認めるしかないのです。それが……世界の理・・・・なのですから」



 サイネリアは、こちらを向き微笑む。



「俺は我儘わがままな理なんだよ」
「……ええ、ですが。ですけれど『天帝・ツァラトゥストラ』には要注意ですわよ。あの存在は【死の要塞国・デイ】で構えているとの情報が入りました。神聖国ネポムセイノとは『同盟』を組んだとか――」


「なんだと……」


 以前、ネメシア達と向かったあの塔の国……【死の要塞国・デイ】……が! 死の招待状がなければ入る事すら出来ないという。


 そうか、あそこに。


「今後は、大幹部の奇襲もありましょう。でも、貴方を誰よりも信じていますわ」

「ああ、期待は裏切らんよ。この拳で天帝をブン殴る、そう決めたからには、スターダストにはそれほど頼らずに頑張るよ。つっても大ピンチの場合は容赦なく使うけどな」

「分かりました。……ところで、その」


 モジモジとサイネリアは、言いにくそうにする。なんだぁ?

「この後、予定がなければ……お茶を」
「へえ、いいね。俺もサイネリアに話があったんだよ
「う、嬉しいですわ! では、せっかくなのでお庭で」
「分かった」


 ◆


 俺は『温泉事業』を提案した。
 すると、サイネリアは「素晴らしい」と一言をくれ、快諾してくれた。俺はしばらく温泉作りに励む事にした。


 これも稼ぐ為だ。

 がっぽがっぽ稼いで楽な生活をしたいし、そろそろ武具とかアイテムも揃えたいと思っていた。あと、新スキルもオークションで購入しようかなと検討していた。


 サイネリアと別れ、ついに【世界ギルド・フリージア】を後にする。門の前には、メサイア、リース、フォル、グースケ、パースケの姿が。


「って、グースケ、パースケはいらんだろ!」

「ひ、酷いですよ、アニキ!」
「そうですぜぇ、アニキ!」

「てか、いつから俺がお前たちのアニキになったんだよ!! 呼び方変わってるし! お前等はこれから、どうするんだ?」


「俺等二人は、しばらくレメディオスで情報屋を営むので、噴水広場付近で店やってますぜ! いつでも頼って下さい!」
「では、俺等は行きます! アニキも達者で!」


 グーパーコンビは去った。
 いつでも会えるのならいいか。


「メサイア、リース、フォル」


 それと、ここには居ない……ベル。


「帰ろう」


「ええ、そうしましょ。温泉作らなきゃだし」

 メサイアは微笑む。
 そうだな、温泉計画を練らねば。


「家に戻ったらマッサージとかしますねっ」

 ほぉ、リースがマッサージを。
 そりゃあ楽しみだ。


「兄様、兄様! わたくしは、あ~~~んな事や♡ こぉ~~~な事してあげますっ♡」

 と、フォルは、激しくエロイ視線を俺に向け、修道服のスリットをそぉぉっと上げる。……そ、そのまま! そのまま上へ! ――って、ダメだろうがっ!!



 そんなこんなで、俺たちは『家』へ帰ったのである――。
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