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第335話 第9998代皇帝ジークムント・ケッヘルの謎

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 アレクサンダーの赤い手袋が接近する。
 猛烈な勢いでメサイアとリースの胸を狙う。両手で今にも心臓・・鷲掴わしづかもうとしていた――って、させるかよぉぉぉ!! ふざけんな、ふざけんな!! そこだけは絶対に触れさせん!!


 オートスキルの発動は任意でいくしかない。



「いけよぉぉぉぉぉおぉぉ――!! 血の煉獄!!!!」



 炎は膨れ上がって、ヘンタイ貴族・アレクサンダーへ一瞬で到達する。彼の赤い手も、メサイアとリースの胸をタッチしようとしていた。すげぇギリギリ! あとわずか数センチだった。


 そんな超ギリギリで『血の煉獄』は火を噴く。



「なっ、なんだこの血のような炎はああああああああ、うぎゃあああああああああああああああ!!」



 タンっと軽快に飛び込むフォル。俺も彼女の背中を追った。フォルは、リースをお姫様抱っこでキャッチ。俺もメサイアを電光石火の如しマッハで救出した。


「メサイア!!」
「……サ、サトル? えっと……」


 ぽかーんと状況を把握できない女神は後にして、俺はメサイアをお姫様抱っこしながらも、一気に後退。アレクサンダーの状況を見守った。


「ぐあああああぁぁぁ、おのれおのれおのれえええ!! クソ、クソ、クソォォォォォ!! サ、サトルとか言ったな……覚えていろよ!!!」


 髪の毛が燃えながらも、アレクサンダーは逃げ出した。血の煉獄をまともに浴びて、ツルッパゲになっとる。そう、俺はヤツの髪の毛を狙ったというか、むしってやったのだ。


「……えっと」
 俺の腕の中にいるメサイアは、不安気にしていた。

「危なかったぞ、あと少し遅ければお前は胸を触られて、呪いを掛けられていたんだぞ」
「え……そうだったの。助けてくれたのね、サトル」
「当たり前だろ」
「……ありがと」

 それを聞いて安心したのだろう、メサイアは、ぎゅっと抱きついてくる。フォルの方も事情を話したらしくて、リースが混乱していた。


「えぇ……胸を。呪い!? うぅ……」


 俺は、メサイアとリースに詳しい事情を話した。


「実は、かくかくしかじか」

「……そう、屋敷とサイネリアさんを。その、神聖国ネポムセイノっていうのも怪しいわね。そんな貴族と手を組むとは思えないけれど」

 腕を組むメサイアは、そう言った。
 そう言われれば、たかが貴族ひとりの為に大事すぎる。いくらなんでも、世界の中心である【レメディオス】を攻撃するだなんて……普通、するか? なんのメリットがある?

「姉様、わたくしは彼が持っていた警告文書を見ました。そこには確かに、第9998代皇帝ジークムント・ケッヘルの署名サインがありました」


「偽造じゃないの?」

「そうかもしれませんね」


 二人は納得していた。
 マテ。そんあアッサリでいいのか!?

 いや確かに9998っておかしすぎだろ。突っ込みどころ満載である。そんな続く王家があるわけねえ! どうせ自称とかそんなのだろう。


「あのぅ、サトルさん」
「どうしたリース」
「サトルさんが……七人いるように見えますぅ~~~へろへろへろぉ~」

「へ」


 リースの呂律とか回っていなかった。目はグルグルしているし、酔ったままじゃないか。こりゃ寝かせた方がいいな。辺りもすっかり暗くなって夜だし。


「いったん戻るか」


 ◆


 ――翌日。

 世界ギルド・フリージアの屋敷で一泊した俺は、専用の部屋で寝ていた。どうやら、俺にだけは特別仕様らしく、ぼむぼむいわく、いつでも気軽に泊まってくれとの事だった。

 かなり広い部屋で、四人、五人いても窮屈きゅうくつではない。豪華なテーブルや椅子は中世を思わせるような煌びやかさ。
 絵画とか置物などあらゆるモノも、それっぽい。赤い絨毯じゅうたんも非常に質感がよくて、肌に触れると心地よかった。

 そんな部屋を独り占めしているはずだった。

 そうそう、みんなにも各部屋が振り分けられていた。だから、今は誰もいない。俺ひとりのはずだった。そう、はずだったんだ。


「――――」


 寝ぼけた頭で、ベッドから起き上がって直ぐに違和感を感じていた。椅子に誰か座ってる。視界がボヤボヤして、後ろ姿で分からんけど女の子のようだった。この雰囲気からして、フォルとかっぽい。体形も似ているし。アイツは直ぐ俺の部屋に侵入するからな。

 どうせフォルだろうと俺はゆっくり接近。後ろから抱きついてみた。

 すると、



「――――っ!?」



 驚く女の子。
 知らない女の子だった。

 いや、知ってたわ。


「…………」


「お、お前……」


 この虚ろな目。
 この桃色髪のネコミミメイドは、世界でひとりしかいなんじゃないか。まさか、サトルの姿で彼女と出会う事になろうとはな。


 ぼむぼむの娘なのだから、いつか会うとは思っていたけど……。


「トーチカ」

「…………」

「てか、なんで俺の部屋に」

「誰」

「誰って――あぁ、そうか」


 ヘデラの姿ではない。俺は今はただのおっさん。そりゃ分からんわな。でも、そもそもなんで俺の部屋に無断侵入を。

 なにか示すいい方法はないかと、俺は考える。このままでは、トーチカに不審者認定されてしまいそうだしな。


 ああ、そうだ。


「トーチカ、お前の胸の下にはホクロがある!」

「…………」


 あっ、ダメだ。余計に目が死んだっていうか、めっちゃにらまれてる。それから、トーチカは冷静にカップに口をつけてすすっていた。


「……ヘデラのえっち」

「おま……! って、え……知っていたのか」

「ホクロは、ヘデラしか知らない。彼女にしか見せた事ないから」
「そうだったか。親父から聞いたのか?」
「ううん、違う。お父さんは知らないと思う。でも今確信を得た」


 コトンとカップを置いて、トーチカは立ち上がって正面を向く。虚ろではなく、輝いた瞳で俺を見た。


「……ヘデラ、カッコイイ」
「……そう言われると照れるな」


「……ヘデラ、話がある」
「話?」
「うん、ネメシアのこと、あたしのこと」


 座ってと促されて、俺は椅子に座る。
 トーチカもまた椅子に座って、俺を虚ろな目で見た。元に戻っていた。ま、これがいつものトーチカなんだが。


「それで話って?」
「うん。更なる未来・・・・・の話。過去の話」

「更なる未来? 過去?」


 いったい、何がはじまるんです?
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