上 下
267 / 431

第267話 レッドウォー - 変わり果てた世界の真実 -

しおりを挟む
 どうやら、サイネリア&グーパーコンビは、単に襲い掛かって来たワケではなさそうだ。ネメシアと知り合いのようで、なんだか重い話を交わしていた。

「ネメシア、あなたの女神の力が大きくなりつつあります。それは、この方……ヘデラ様の『覚醒・・』が発端ほったんとなったのでしょう」

 そうサイネリアは、俺を意味有り気に見つめた。

「俺かよ。俺、ネメシアに何かしたっけなあ」
「ちょっと、ヘデラ。こっち来て」

 ――と、ネメシアは俺の腕を取り、みんなと離れた。

「おいおい、ネメシア。どうして皆から離れる」

「…………」

「黙っていても分からんぞ」

 で、急に抱きつかれた。

 ……うぉ。甘い匂いとか、柔らかい感触とか……ぅぅ。

「い、いきなりなんだよ、ネメシア。今この状況で百合ゆりは勘弁してくれ」
「違うの。わたし、ちょっと怖くて……」
「怖い?」
「ううん、気にしないで。少しの間だけこうさせて」

「…………」

 しばしの間、俺はネメシアを優しく抱きしめた。


 ★


 サイネリアから世界の裏事情を聞いた。

 まず、先の大戦『レッドウォー』だ。
 これは、全世界規模の大戦争だったらしい。聖者にして英雄とされた『ある男』が消え去って以降、世界は地獄と化し、突如とつじょとして出現した『スターゲイザー』が聖地を塗り替えたのだとか。その戦争であまりにも多くの血が流れたという。


 だから『レッド・・・』と言うらしい。


 それから、全滅した聖地は『パロブ・サンディエゴ・ホセ・フランシス・ステラ・パウラス・ホアン・ネポムセイノ・マリア・デイ・エロス・レメディオス・クリスピア・クリスティーナ・デン・ラム・サンデシマ・トリニダート・ルイス・イル』と分断された。そして、世界は『ヒカソ』と名を変えられたのだ。

 ――でも、それでも抵抗した者たち……『円卓の騎士』たちのおかげで、スターゲイザー側も七人のうちの六人を失っていた。で、その一人――自らを神と名乗る『天帝』という存在が、この世界を支配しているという。


「このレメディオスは、もともとは『花の都』といいましたの。クリスピアは『星の都』でした。聖地は『アーサー』、『ランスロット』などたくさんありました。それが本当の・・・世界の・・・姿だった・・・・のです……」


 少し悲しげにサイネリアは教えてくれた。

 そうか、そういう事だったのか。また少し記憶を取り戻した。……少しずつパズルのピースが埋まっていく。そして、なんとなく分かったぞ、俺はこの女性ひとと会った事があるんだ。かなり昔にな。でも、俺は何故か記憶がなくて――。


「ヘデラ様、このサイネリアさんのお話したことは全て事実です」
「エコ。そや、お前は長生きしているんだっけ。元はエルフだし」
「いえ、途中・・からですけどね。でも、世界が変わったことは理解していますよ。私はずっと見守っていましたから」

「ふむ……。だとしたらさ、【スターダスト】を集めればいいじゃね。それで『天帝』ってヤツを消してもらうとか、元の世界に戻すとか願えば……」

 その方が早いと俺は思うけどね。
 だが、サイネリアは首を横に振った。

「無理でしょうね」
「なぜだ!」
「その【スターダスト】は、別名を『女神の涙』といいますの。ある偉大な女神が残したものですけれどね。わたしたちも散々探しましたけど、見つかりませんでしたわ」

「いや……この国にふたつ・・・あるぞ」


「…………はい?」


 サイネリアは、ポカンとしていた。想定外だったらしい。

「ひとつは女王様のとこ。もうひとつは大会の優勝賞品だったよ。まだ送られて来てないけどな」
「はぁぁぁぁ!? そんな事ってありますの……ネメシア、どういうことですの」


「あははは……ごめんなさい、サイネリアさん。わたしも元々は【スターダスト】を探して旅に出ていたつもりだったのだけど、この聖女・ヘデラと出逢ったの。それから、ふたつ見つかった。もう希望はそこにあるの」


「そうでしたの……。さすがですわね。――となると、あとひとつ・・・・・ですのね。なるほど、これも『フォーチュンの導き』でしょうか」

 フォーチュンの導き? なんだそれ、うまいのか?
 でも、ネメシアはうなずいていた。どういう事だろうか。

「そう、あとひとつ見つけ出せば、元の世界に戻せるかも……でも」

 あれ、ネメシアのヤツなんだか悲しげだな。う~ん、なんかギコチナイっていうか、ソワソワしているっていうか。

「ネメシア、俺は世界を正常に戻したい。俺は断片的ではあるけれど、記憶を取り戻しつつあるんだ。今も大事だけど、かつての仲間たちも取り戻したいんだ。我儘わがままですまない、でも、そうしなければ俺は前へ進めない気がするんだ」

「――――――」

 顔をそらすネメシアは、やっぱり悲しそうだった。
 ……どうして、そんな顔をする?

 今の俺には、彼女の気持ちが理解できなかった……くそっ、俺のアホ。いや、違うな、理解してあげようとしてないだけだ。


 考えろ。

 俺の頭の中には、脳味噌のうみそが詰まっているだろ。


 ない思考でもいいから、巡らせろ。


「…………」


 ――――うん、わからん。


「ネメシア……答えが出なかった」
「うああああああああああああああああん、ヘデラのアホおおおおおおおおおおおおおお…………!!!!!」


 ネメシアは走り去った。


「えー…」


「ヘデラ、ネメシアを泣かせた」
 トーチカは、いつも以上に虚ろな目で俺を見つめた。ヤメテ!

「これはヒドイですね~。あれでは、乙女心ズタズタでしょう」
 あの猫でさえ引いていた。てめーはあとでシャミセンスペシャルコースだ。


 クソ~、やっちまったなぁ俺。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。  ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...