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第180話 聖女は諦めない

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 ――まるで心が星屑ほしくずになったかのようだ。
 心はバラバラに砕け散り、闇の中にその破片が散らばっていった。

 私はそれを悲愴ひそうの眼差しで見つめた。

「――――――」

 理。あなたは心を失くしてしまったのですね。
 一度壊れてしまった心を元に戻すことは容易よういではない。

 だが、女神ならきっと。

「私にできる唯一の救済はこれだけ――」

 メサイア様をこの場所に連れてくることくらいだ。

「申し訳ない。そしてお願いします。女神メサイアさま」

 ・
 ・
 ・

 気づくと、私はかつて見た闇の中にいた――。
 これは死神の力に近い。いや、そのものなのかもしれない。だけど、確証はない。ないけれど、ひとつ分かっていることは、サトルが突然消えてしまったこと。

 あの時、彼は突然倒れ、意識を失った。

 おそらく、敵のなんらかの攻撃を受けた。それが何なのかは分からないけど、これ・・を目の当たりにしている限り、心や精神への直接的なダメージがあったと理解できた。

「サトル……。今助けるわ……まってて」


 私は果ての無い闇の中をひたすら走り続けた。
 すると、ある場所で破片を見つけた。

 それはバラバラに砕け散った『心』だった――。


「これ……サトルの心? そんな…………どうして、こんな……」


 それを丁寧に、優しくすくい上げて、私は大切に包み込んだ。

 ……まだ少し、ほんのわずか温もりを感じられる。

「サトル、まだここにいるのね……。
 わたしは……あなたをひとりにはしない。どんな時も一緒よ」

 白い光を使って、私は闇を飲み込み――――。


 ◆ ◆ ◆


 ――兄様と姉様は、忽然こつぜんと消えてしまった。

「どこへ……どこへ行ってしまわれたのですか!?」

 リースはずっと、うずくまって泣いていた。
 ミザールはボケッとしていて役に立たない。

 この状況で唯一動けるのは、わたくしだけ。
 しっかりしなきゃ……。


 でも――。


「リース、いい加減にするのです!!
 泣いていても、何も解決しないのですよ!」

「フォルちゃん……そんな言い方はないじゃない! ……メサイアさんも、サトルさんもいなくなっちゃったんだよ!? 悲しくないの!?」

「悲しいに決まっています! ですが、ここで悲しみに暮れていても、兄様と姉様は戻らない……!! だから、バトルロイヤルを優勝するんです!」

「今更、優勝して何になるの!!」

 リースがそう自暴自棄じぼうじきになって……
 わたくしは、頭に血がのぼってしまいました。


「リース!!」


 大切な家族の頬を、掌で思いっきり叩いてしまった。


「………………っ!」


 突然のことにリースは驚いて、頬を押さえて痛そうにわたくしをにらみ、今まで見せたことのない怪訝な表情を向けてきた。


「…………そう、フォルちゃんもエルフに暴力を振るうんだ。それって貴族たちと一緒だよね」


 そんな、いつもの温和な彼女なら絶対に口にしないようなセリフを吐いた。とても険悪な空気が場を包む。
 わたくしは悲しいと同時に、後悔もしました。

 ――暴力はいけなかった。

 それに、彼女の気持ちをもっと理解してあげるべきだった。一番辛い思いをしているのは、リースなのだから。

「リース、ごめんなさい。でも、わたくし間違ったことは言っていません。
 諦めたらダメなんです。投げ出したらダメなんです。
 挫折からの再起ほど難しいことありません。今ならまだ前へ進めます……その先にはきっと救いがありますから」


「…………。フォルちゃん、ごめん……あたし、そんなつもりはなくて……」


 リースはまた泣き出し、まるで子供の様に抱きついてきました。……わたくしもとても辛いです。……でもきっと彼は戻ってくる。
 いつだって、わたくしたちの前に帰ってきたのだから――。


 ◆


「――とにかく、勝ちましょう。リース、ミザールふたりとも力を貸してください」
「はい……」

「オイラはまぁ、七剣星は抜けちまったからなぁ。まさか、サトルくんと女神さまが消えちまうとは思わなかった。けど、これは恐らくドゥーベの『マインドスキル』だろうて」

「マインドスキルですか」

「ああ、サトルくんが消える前のあの症状は間違いない。つまり、どこかに潜んでいたドゥーベにやられちまったってことやね。本人の姿も気配も今はないが」

 どういうことなのでしょうか。
 人間ひとの心に干渉できるとでも言うのでしょうか。
 だとすれば、なんて強力なスキル。油断はできませんね。

「フォルちゃん?」
「ごめんなさい。行きましょうか。残りの七剣星は必ず、わたくしが成敗致します。リースは魔法で補助を、ミザールは……エクサダイトボディで防御?」
「んああ、そうするべ。やべー技の防御は任せろい」

 そんなワケで、わたくしとリース……そして、ミザールの三人でバトルロイヤルを続行です。


 必ず勝ちますよ、兄様。
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