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第168話 栄光聖女vs悪役令嬢

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 まさかバトルロイヤルになるだなんて。

 残りは『259人』らしい。
 最後のひとりになったヤツが優勝だが、まだまだ人数は残っている。

 魔法の森【ブロセリアンド】の地に降り立ち、俺とフォルはフィールドを改めて見渡した。一面、森で代り映えなんてしないけど――

「なんだか見覚えのある場所ですね?」
「そうだな、俺たちこの森に来たことがあると思う」
「そうですよね、確か聖地の中間にあった……」

 そう、俺たちはかつて聖地での戦いの時に、この森に立ち寄っている。だが、あの時とはやや雰囲気が違うような。
 そもそも、外界と繋がっているものなのか。だとしたら、あの巨大洞窟はいったい。いや、そうじゃないのかも。もしかしたら、森には重大な秘密が……?

 とにかく、

「この周囲には敵はいないようだ。ゆっくり先へ進むか」
「はい、どこに敵がひそんでいるか分かりませんからね。気を付けて参り――」


 フォルが言いかけたところで、森の奥からただならぬ気配を感じた。これは……猛スピードで何かが接近してきている。イノシシ!?


『アメイジンググレイス・サマーソルトキック』


 飛び出てきたソレは、フォル目掛けて猪突猛進ちょとつもうしんしてきた。

 あれは、キックスキル――!

 ということはつまり、サイネリアか!!


「フォル!」
「大丈夫です。わたくしにお任せを!」


 サイネリアの重すぎるキックを細腕で防御し、フォルは姿勢を低くし、まるで対抗するように旋風脚をしてみせた。だが、サイネリアはフォルの足裏につま先で乗っかるや、その反動を利用し、後ろに一回転――いや、数十回のバク転をして距離を取った。
 なんちゅー動きだ、しかも一糸乱いっしみだれぬ動きだったぞ。


 そうして静かににらみ合う二人。


「やはりいましたのね、無名聖女」
「これが奇襲のつもりですか。キックオバケ」


「二人とも……よし、分かった。俺は二人の戦いを見守る! 邪魔が入ったら、容赦ようしゃなくそいつらをぶっ飛ばす。だから、思う存分戦え!」

 本来は決闘・・だったし、いいだろう。

「兄様、わたくしは勝ちます!」

 するとフォルは、凄まじい闘気を放出するや、突っ走った。
 なるほど、先制攻撃あるのみと踏んだか。


『覇王天翔拳!!』


 フォルの拳がサイネリアに向かっていく。


「当たらなければ、どうということもありませんわ」


 サイネリアはあっさり回避。
 だが、フォルの攻撃はそこから激しさを増していった。


『覇王爆砕拳! 冥王風神拳! 冥王雷神拳! 覇王龍星拳!!』


 奥義のコンボ攻撃か!!
 凄まじいコンボが炸裂さくれつするが――しかし、サイネリアはギリギリで回避。……マジか。あのフォルの激流のような動きを読んでやがる!!


 フォルの奥義を全て避け切ったサイネリアは、太ましく高い木の方へ猛ダッシュすると、そのままけ上がった。



『アメイジンググレイス・ムーンサルト!!!』



 そのままくるっとしなやかに回転し、フォルを押しつぶそうとしていた。まさかボディプレスする気か!? 確かに、フォルは小柄だから、圧殺すればダメージは大かもしれない。


『なんのそれしき! 覇王轟翔波です!!!』


 激しく拮抗きっこうする技と技。
 すげぇぜ……二人ともここまでとは思わなかった。どっちも凄い。動きもスキルも何もかも鮮烈で、圧倒的。ああ、もう正直、バトロワとかどうでもいい。この戦いを最後まで見届けたい。
 がんばれ、二人とも。どちらも負けるな。どちらも勝て!!


「――――――はぁっ!!」
「――――――たぁっ!!」


 大技はき消え、さらに拳と蹴が衝突する。
 その後も攻守の一進一退が続きまくった。手汗握る状況とはまさにこのことか。なんて緊張感だよ……!


「……やりますわね、聖女あなた。少しは褒めて差し上げますわよ」
令嬢あなたもです。キックスキルを完全にあなどっていました」


 まるで互いを認め合うかのように、二人とも静かに笑った。


「ですけれどね、わたしは勝たねばならないのです!! なぜなら、わたしはヘールボップの娘……誇りにかけ、あなたを倒させて戴きますわ」


 あの構え……まさか、あの洞窟どうくつで使ったスキルか!



『アメイジンググレイス・シャイニング・ウィザード!!!』



「くっ……! やはりその大技が本命でしたか……では、わたくしも全力全開フルパワーでいかせて戴きます……!」


 サイネリアの最強のキックスキルが飛んでこようとしていた、その時。フォルは両手を前に突き出し、握りこぶしを作った。それから、一度、両腕を左後方へ。聖なる光を一瞬にして拳に凝縮ぎょうしゅくさせた。
 なんて闘気。なんて膨大な力。はかく、けれども力強い覇王の力。

 そうして、握り拳を前へ強く押し出すと――



『最終奥義・覇王武光拳――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



 とんでもない声量で叫んだ。
 なんて咆哮ほうこう。あんな小さい体のどこから出てくるんだ、あんな声。てか……まだ奥義とかあったのかよ。って、最終・・!?
 そんな隠しスキルを持っていたとはな。やるな。せめて、俺くらいには打ち明けておいて欲しかったけどな、でもいい、なんたって、こんな激しく心躍る、燃えるような戦いは初めてみたからだ。


「つか、でも、なにも見えね…………!」


 突然、白銀の世界になった……。
 これこそフォルの、聖女の栄光か――。
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