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第154話 聖女と令嬢
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今夜は野宿となった。
あの『聖地』の一件以来、家は花の都に固定してしまったので、残念ながら持ってこれなかった。だから必然的に野宿となったわけだが――。
「兄様、二人きりですね♡」
「そ、そうだな。他のみんなは天然温泉へ行ってしまった……どうせなら、みんなで一緒に入れば楽しいのにな」
「それもそうなのですが、またあの超巨大ゴーレムが出現したら危険ですから」
そう、だから俺とフォルは見張り番だった。
霊山――『アヴェレスト』に出現したゴーレムは俺が倒してしまったけれど、また再出現するかもしれんしな。
「ところでフォルよ」
「なんですか、兄様♡」
「俺、あの霊山でなにか嫌な気配を感じた気がするんだが……。
う~ん……古代ボスモンスターの封印を解いてしまったとか、地下深くに眠る深淵を蘇らせたとか、最凶の魔人を復活させてしまったとか……そんな不吉な予感がするんだよな」
「や、止めてくださいよ。そんなのが出たら、今度こそ世界が終わってしまいますよ。あ、でも、兄様がきっと何とかしてくれますよね!」
そう目をキラキラ輝かせて、眼差しを向けてくるフォル。……うーん、【オートスキル】が復活したとはいえ、まだリハビリの最中だ。無理をすれば、俺はどうなるか分からん。
下手すりゃ体が裂けたり、あるいはバラバラになるかもしれん。
「なんにせよ…………む! 暗闇から人の気配」
「え……怖いです、兄様」
わざとらしくしがみついてくるフォルは、顔が笑っていた。……おい。めちゃくちゃ楽しそうじゃないか。
で、ガサガサと茂みの向こうから……そいつは顔を出したんだ。
「…………力を感じる。あなたね、あなたがわたしを呼び寄せたのよね」
「はぁ?」
茂みから出てきたのは、顔はよくは見えないが、女の子だった。
ワインレッドのゴシックレトロの花柄ドレス。
なんかそこだけは派手で見えた。
なんていうか……どこかのご令嬢?
「わたしは『サイネリア』――『サイネリア・ヘールボップ』ですわ。ヘールボップ辺境伯の娘よ。よろしく」
と、丁寧に握手を求められた。
――ヘールボップ辺境伯?
そんな貴族は聞いたことがないし、そんな爵位も初耳だ。
まあ、『辺境』ってくらいだから……あまり有名じゃないのかも。ていうか、この辺りだと有名なのかもしれないな。
とにかく。
俺は礼儀に従い、手を合わせた。
「俺はサトル。それで、サイネリアさん。迷子か何か?」
「いえ、わたしは『力』に呼ばれてきたの。おそらくあなただと思うけれど……うーん。うん。あなたカッコイイし、そういうことにしておきましょう。ね?」
ねって言われてもなぁ。
「ちょっと、兄様」
なんだかムッとしているフォルは、俺とサイネリアの握手を分離させてきた。おやおや、珍しい。仲間には絶対しない顔をしているぞ。
「あなたは?」
「わたくしは『フォルトゥナ』です。聖女です。以上です!」
フォルは乱暴に自己紹介した。
どうやら、サイネリアを敵と見なした模様。
「ふーん。聞いたことありませんわね。実は無名聖女ではなくて?」
「し、失礼な! これでも世界を救ったのですよ……兄様が」
「あは。これはお笑い種。虎の威を借る狐ね。そんな些末な女に興味はありませんわ。やはりこの方なのですね。相当お強いと見受けましたが。なるほど、では――『ヘールボップ家』へご招待致しますわ」
「そのヘールボップ家って……」
「ええ、この辺りでは有名ですのよ。
わたしのお父様が領邦君主ですの。ですので、領地も専用ダンジョンも余りあるほどありますわ。なので、この霊山だってヘールボップ家の庭のようなもの。だからね、言ってしまえば、あなたは不法侵入者よ」
と、なぜかフォルだけを見るサイネリア。
えぇ……。
「むぅ~~~!! シャーーー!!!」
あーあ。
フォルとサイネリアの二人、火花をバチバチと散らせている。あんなに睨みあって、こえー…。どうやら、二人の相性は最悪のようだ。
「とにかくだ、俺は……」
断ろうとしたその時だった。
茂みの奥からまたもガサガサと複数の音がした。それに驚いたサイネリアは俺の背後に。なぜ俺のところに。いやいいけどさ。
って、フォルまで。
「あ、あなたは前へ行きなさいよ、この無名聖女」
「なんですって!? あなたこそ、わたくしの兄様にベタベタしないて戴きたい!!」
俺の背後でバチバチは止めてくれい! 熱いから!
――で、まあ……怪しい集団が現れた。
「うーん。なんだこの怪人たち」
「サトル。ヤツ等は『マグネター』と呼ばれる新型モンスターです。ご存じですか【レイドボス】事件を」
「ああ、知ってるけど。なにか関係あるのか?」
「あれ以来ですわ。こいつらが何処からともなく出現し、既存のモンスターを抹殺し……そして、最近では人間に危害を加え始めているのです。情報はそれくらいで、詳しい事までは……」
なんだ、するとこの『マグネター』とかいう怪人は、この世界のモンスターを殺しまわって……自分らがモンスターに成り替わろうとしているのか?
なんだそのバカモンスターは。なんのメリットがある。バカバカしいにも程があるぜ。だけど、人を傷つけるのなら、俺は容赦しない。
「……む。マグネターの様子がおかしいぞ」
「兄様、ヤツ等……なにかを探している素振りを……まさか!」
キョロキョロとするマグネター集団。
すると、突然飛び出して――
まず……あの方角は『天然温泉』……つまり、メサイアたちがいる場所だ。今、メサイアたちは裸だぞ! そんな無防備な状態を狙われてしまったら……。
「いや、つーか、その前にメサイアとリースとベルの裸を見せてなるものかああああああああああああああああああ!!」
俺は全速力でマグネターを追いかけた。
再起不能になるまで叩きのめす……!!
あの『聖地』の一件以来、家は花の都に固定してしまったので、残念ながら持ってこれなかった。だから必然的に野宿となったわけだが――。
「兄様、二人きりですね♡」
「そ、そうだな。他のみんなは天然温泉へ行ってしまった……どうせなら、みんなで一緒に入れば楽しいのにな」
「それもそうなのですが、またあの超巨大ゴーレムが出現したら危険ですから」
そう、だから俺とフォルは見張り番だった。
霊山――『アヴェレスト』に出現したゴーレムは俺が倒してしまったけれど、また再出現するかもしれんしな。
「ところでフォルよ」
「なんですか、兄様♡」
「俺、あの霊山でなにか嫌な気配を感じた気がするんだが……。
う~ん……古代ボスモンスターの封印を解いてしまったとか、地下深くに眠る深淵を蘇らせたとか、最凶の魔人を復活させてしまったとか……そんな不吉な予感がするんだよな」
「や、止めてくださいよ。そんなのが出たら、今度こそ世界が終わってしまいますよ。あ、でも、兄様がきっと何とかしてくれますよね!」
そう目をキラキラ輝かせて、眼差しを向けてくるフォル。……うーん、【オートスキル】が復活したとはいえ、まだリハビリの最中だ。無理をすれば、俺はどうなるか分からん。
下手すりゃ体が裂けたり、あるいはバラバラになるかもしれん。
「なんにせよ…………む! 暗闇から人の気配」
「え……怖いです、兄様」
わざとらしくしがみついてくるフォルは、顔が笑っていた。……おい。めちゃくちゃ楽しそうじゃないか。
で、ガサガサと茂みの向こうから……そいつは顔を出したんだ。
「…………力を感じる。あなたね、あなたがわたしを呼び寄せたのよね」
「はぁ?」
茂みから出てきたのは、顔はよくは見えないが、女の子だった。
ワインレッドのゴシックレトロの花柄ドレス。
なんかそこだけは派手で見えた。
なんていうか……どこかのご令嬢?
「わたしは『サイネリア』――『サイネリア・ヘールボップ』ですわ。ヘールボップ辺境伯の娘よ。よろしく」
と、丁寧に握手を求められた。
――ヘールボップ辺境伯?
そんな貴族は聞いたことがないし、そんな爵位も初耳だ。
まあ、『辺境』ってくらいだから……あまり有名じゃないのかも。ていうか、この辺りだと有名なのかもしれないな。
とにかく。
俺は礼儀に従い、手を合わせた。
「俺はサトル。それで、サイネリアさん。迷子か何か?」
「いえ、わたしは『力』に呼ばれてきたの。おそらくあなただと思うけれど……うーん。うん。あなたカッコイイし、そういうことにしておきましょう。ね?」
ねって言われてもなぁ。
「ちょっと、兄様」
なんだかムッとしているフォルは、俺とサイネリアの握手を分離させてきた。おやおや、珍しい。仲間には絶対しない顔をしているぞ。
「あなたは?」
「わたくしは『フォルトゥナ』です。聖女です。以上です!」
フォルは乱暴に自己紹介した。
どうやら、サイネリアを敵と見なした模様。
「ふーん。聞いたことありませんわね。実は無名聖女ではなくて?」
「し、失礼な! これでも世界を救ったのですよ……兄様が」
「あは。これはお笑い種。虎の威を借る狐ね。そんな些末な女に興味はありませんわ。やはりこの方なのですね。相当お強いと見受けましたが。なるほど、では――『ヘールボップ家』へご招待致しますわ」
「そのヘールボップ家って……」
「ええ、この辺りでは有名ですのよ。
わたしのお父様が領邦君主ですの。ですので、領地も専用ダンジョンも余りあるほどありますわ。なので、この霊山だってヘールボップ家の庭のようなもの。だからね、言ってしまえば、あなたは不法侵入者よ」
と、なぜかフォルだけを見るサイネリア。
えぇ……。
「むぅ~~~!! シャーーー!!!」
あーあ。
フォルとサイネリアの二人、火花をバチバチと散らせている。あんなに睨みあって、こえー…。どうやら、二人の相性は最悪のようだ。
「とにかくだ、俺は……」
断ろうとしたその時だった。
茂みの奥からまたもガサガサと複数の音がした。それに驚いたサイネリアは俺の背後に。なぜ俺のところに。いやいいけどさ。
って、フォルまで。
「あ、あなたは前へ行きなさいよ、この無名聖女」
「なんですって!? あなたこそ、わたくしの兄様にベタベタしないて戴きたい!!」
俺の背後でバチバチは止めてくれい! 熱いから!
――で、まあ……怪しい集団が現れた。
「うーん。なんだこの怪人たち」
「サトル。ヤツ等は『マグネター』と呼ばれる新型モンスターです。ご存じですか【レイドボス】事件を」
「ああ、知ってるけど。なにか関係あるのか?」
「あれ以来ですわ。こいつらが何処からともなく出現し、既存のモンスターを抹殺し……そして、最近では人間に危害を加え始めているのです。情報はそれくらいで、詳しい事までは……」
なんだ、するとこの『マグネター』とかいう怪人は、この世界のモンスターを殺しまわって……自分らがモンスターに成り替わろうとしているのか?
なんだそのバカモンスターは。なんのメリットがある。バカバカしいにも程があるぜ。だけど、人を傷つけるのなら、俺は容赦しない。
「……む。マグネターの様子がおかしいぞ」
「兄様、ヤツ等……なにかを探している素振りを……まさか!」
キョロキョロとするマグネター集団。
すると、突然飛び出して――
まず……あの方角は『天然温泉』……つまり、メサイアたちがいる場所だ。今、メサイアたちは裸だぞ! そんな無防備な状態を狙われてしまったら……。
「いや、つーか、その前にメサイアとリースとベルの裸を見せてなるものかああああああああああああああああああ!!」
俺は全速力でマグネターを追いかけた。
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