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第127話 おっさんと聖女、死にかける

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 まさか、危険な森の中で野宿をする羽目になるとは。
 この森【ブロセリアンド】は高レベルのモンスターが湧きまくっていた。しかも、種類も多く、把握しきれないほどだ。

 そんなモンスターが群れを成し、俺たちに襲い掛かってきていた。


 ――が。


 俺には【オートスキル】がある。
 セットしてあるスキルが自動オートで敵を駆逐し、殲滅。その度に膨大な経験値を獲得し、レアアイテムをドロップ。

 非常にウマウマな狩場であった。

 ぶっちゃけ、高効率を出せる最高の森ダンジョンだった。

「もうアイテム持ちきれませんね、兄様」
「こんな量になるとはなぁ。収集品を全部持って行ければ、街とかで売りさばいて大儲けなんだけど、うーん……」

 俺の【運搬スキル】にも限界はあった。
 アイテムボックスでいえば、もう『90%』を超えてしまっている。重量オーバーとなると、【オートスキル】の発動に支障をきたす。

 これは由々ゆゆしき問題であった。

「メサイアたちが居ればな……」

 依然として、メサイア、ベル、リースとは合流できていない。
 本当、どこへ行ったやらね。

 そんな状況を整理しながら、俺とフォルは楽しく食事をしていた。

「はい、兄様♪ あ~ん♡」

 イノシシ肉を口元に運んでくれるフォル。
 俺はそれを遠慮なく戴く。

「うまー! さすがフォル。お前の料理スキルはファンタスティックだな」
「ふぁんたすてぃっく?」

「つまり、スゲーってことさ」

「褒めて戴き、ありがとうございます♪ わたくし、今日ほどこの幸運フォーチュンに感謝した日はないかもしれません」

 フォルは感無量な面持ちだった。

「どうした。そんな嬉しそうに」
「嬉しいんです。だって、大好きな兄様と二人きりで幸せなんですから♪ 今晩は誠心誠意、ご奉仕させて戴きますね♡」

 そんな聖女みたいな――いや、聖女か。神々しい太陽スマイルを向けられては、断れなかった。つーか、断らない。むしろありがとう!

「はい、兄様、あ~ん♡」

「あーん――」


 ぱくっと戴いたところで、近くでドンと衝撃が起きた。


「あん?」

 振り向くと、あの野盗たちがまた現れた。

「なんだ、お前たち生きていたのか! てか、すげぇボロボロだな……まるで腐りきったミカンのようだぞ!」

「……はぁ、はぁ………。ひとり犠牲になったがな」

 なるほど。
 仲間を裏切って、そいつを囮にしたわけか。なんてヤツ。

「そこの中年! テメェ~よくも、あんな醜悪な『ダーティーオークレディ』を擦り付けたな!! おかげでエライ目にあったわ!! 分かってんだろうな……その女の体で払ってもらうしかねぇよな! そうだよな、お前たち!」

「ああ、そうだ!」「あの上等すぎる聖職者プリーストの嬢ちゃんなら、高く売れるぞ~」「ひゅー。あんな美人なら一週間は楽しめそうだなァ……」「ぐへへ……」


 いや、擦ってないし。お前たちの自業自得だろうに。

 はぁ~…、どいつもこいつも……。

 あーもう、相手にするのも面倒くせぇ。


 無視しておくのもアレだし、しゃーないワンパンしたるかと――立ち上がろうとした時だった。


 ズシンと重量感のある足音が森の奥から向かってきていた。


「……あ、兄様。この気配……」
「フォル、動くな!! コイツはやべーぞ……」


 森が大きく揺れ、ひっくり返りそうなほどに衝撃が広がっていた。

 ……巨大なモンスターか?


 またズシンと足音を鳴らし、ソイツ・・・は姿を現した。


「――――――な」


 俺は言葉を失った。


 なんだ…………あの赤い・・影のバケモノ・・・・・・は!?


 そいつは野盗共を認識すると、ギラリと睨んだ。


「ひ……」


 野盗共もアレが明らかにヤバすぎると察知した。
 しかし、その時にはもう遅かった……。


 影は、大きな赤い腕を伸ばすと野盗をひとり、またひとりと掴み――


「うああああああああああああああああああああああ!!!」


 丸のみしてしまった……。


 食事を終えた影は、満足すると森の奥へと消えた。


「…………な、なんだ。何なんだありゃ」

 つーか、俺たちには目もくれなかったな。どうして?


「こ、怖かったです……。わたくし、咄嗟とっさに、聖域『グロリアスサンクチュアリ』を展開しましたので……恐らくそれで……」


 フォルのスキルのおかげだったのか!
 それであの影は諦めて……?

 正直、危なかった。

 あの影のステータスは、まったく・・・・認識できなかった・・・・・・・からだ。もし、戦闘になっていたのなら、あの野盗共と同じく、無惨にも殺されていた可能性もあっただろう。そんなバッドエンド……想像しただけで戦慄した。


 幸運フォーチュン――いや、フォルに助けられた。


「……フォル」


 俺は、フォルを抱きしめた。


「……兄様、わたくしはここにいますよ。ずっとあなたのおそばに」
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