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第94話 怒りの一撃 - オートスキルの全てを放て! -

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 アルラトゥは腹部を貫かれ、地面に伏せている。
 鮮血が水溜まりとなって広がっている。


 嘘だろ……アルラトゥが殺られてしまった。

 そのアルラトゥを背後から襲った人物は――


「……おまえ!! どうして……もう一人・・・・いるんだ・・・・!?」


 血を流し、地面に伏せている『アルラトゥ』と、その背後を襲ったもう一人の『アルラトゥ』がいた。


 アルラトゥがふたり・・・……!?


「おい、メサイア。アレはどうなってやがる……!」
「さあ、分からないわ。こんな気色の悪い光景は初めてよ」

 ……しかも、顔はメサイアそっくりだからな……。

「アルラトゥ……やっぱり、メサイアさんそっくりです!」
「ええ、似ているだけですよ、リース。わたくしはヤツと戦闘を交えたことがありますから知っていますけれど」

 ……なんだ、やっぱりメサイアの容姿だったんだな。


「理くん、やっぱりアルラトゥは……」

「ああ、神王の嫁・ソフィアが生み出したものだ。もちろん、メサイアもな。けど、アルラトゥは自らレイドボスになったらしくてな……倒さないと【死の呪い】は解かれない」

「そうか……やっぱり、神王様は……」

 ベルが何か言いかけたところで、アルラトゥが声を発した。


「久しぶりね、サトル。私を倒しに来たのね」
「当然だ。それ以外に何があるっていうんだ」

「そうでしょうね。そうでなければ、こんなにも勇ましく、強大な力を付けてこないものね。よくぞ、頑張りました。褒めてあげましょう」


 そう乾いた拍手するアルラトゥ。

 馬鹿にしやがって……!

 しかし、聞けば聞くほど、本当にヤツの声や口調、仕草までメサイアそのままだ。


「戦う前に、あなただけ・・・・・に話があるわ」
「言いたいことがあるなら今の内に言え。それからお前を倒す」

「あら怖い。それでは、あなただけに。
 それ――今しがた肉塊となった私《・》は、それは私で間違いないわ。厳密にいえば『クローン』のようなものね」


「クローンだって……?」


「そう。母――ソフィアが私たちを生み出したように、私もメサイアもそれが可能なはずと考えた。そしたら、ほら、出来ちゃったワケなのよね……『分裂・・』みたいな事が」

 『分裂・・』……?
 その言葉に少し、違和感があった。

「なぜ『分裂』なんかを作ったか……それはね、私が『女神・・』に戻りつつあるからよ」
「……なに! 女神に!?」


 なんだそれは……メサイアは『死神・・』に戻りつつあるのに、このアルラトゥは『女神・・』に戻りつつあるというのか。


「そう。女神に。だから私は、この忌むべき運命に抗うためにも実験を重ねた。残念ながら『分裂』では全てが失敗に終わった。得られた答えはひとつ――『吸収』しかないと」

 吸収――それもまた、どこか・・・で。


 『吸収』と『分裂』……。


「まさか……!」

「少しは思考が冴えて来たようね。そうよ、サトル。魔王とドラゴンにキッカケを与えたのは私。あれもね、実験のひとつだったの。私が完全なる死神となるため、この世界を『不帰の新天地クル・ヌ・ギ・ア』へと再生させるための【生贄】サクリファイスよ」


「実験だぁ!? 再生だぁ!? お前のやってるのはただの『破壊』じゃないか! それだけの為に聖地を破壊しやがって!」


「あははは……サトル。この世界は破壊されるべきなのよ。破壊して、破壊して、無に帰すべきなの。その先には『真の死の世界』がある。それがどうして分からないの?」


「分かるかアホ!!」


「そう――じゃあ、分からせてあげる」


 アルラトゥは、地面に倒れている『分裂』に手を伸ばすと、その体を浮かせ、自分自身に吸収させた。

「さあ、始めましょうか。私は『メサイア』を吸収出来れば、完全な『死神』になれる……だから、狙いは貴女メサイアだけ」

「……! まて、だったら、どうしての『小屋』の時にそうしなかった!?」

「あの時のメサイアのレベルは低すぎて、未熟だった。青いリンゴは不味いし、それほど旨味もない。だから、肉体的にも精神的にも成長させるには……そう『レイドボスを討伐』させ、追熟させればいい。その結果がこれ――ほら【ナイトメア・フォレスト】でも追い上げが出来たでしょう。あのフィールドはね、私がメサイアの為に用意した最終ステージだった。……どう? おかげで『Lv.9999』になれたでしょう」

「全部お前が……」

「そう、全ては計画通り。……そうね、一度だけチャンスをあげましょう」
「チャンス?」


「黙ってメサイアを引き渡しなさい。そうすれば、貴方たちは『不帰の新天地クル・ヌ・ギ・ア』に招待してあげる。一緒に素晴らしい世界にしましょう。さあ、この手を取りなさい……サトル」

 ……なるほどな。


「そうだな、それも有りかもな……」


「へえ……。その言葉は意外ね。てっきり断られるかと思ったのだけど、サトル、あなたを気に入ったわ。その素直な返答に敬意を表して、あなたを私の夫にしてあげてもいいわ。さあ、こちらへいらっしゃい」

 手を広げるアルラトゥ。
 俺は、ヤツのところへ向かう。


「サトル……」


 背後からメサイアが不安げに俺の名をつぶやく。

 大丈夫。

 メサイアは俺を信じている。俺もメサイアを信じている。

 だから……


 だ・か・ら……!


 俺は、アルラトゥとの距離を詰めたところで、



「なわけねええだろボケエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」


 怒りのフルパワー『オーディール』をヤツの顔面に向けてぶっ放した。
 聖なる光がアルラトゥを裁く。


「なっ……貴様ぁああああああああああああァ!!」


 それから――、


 それを合図として、みんなが一斉にスキルを発動して、アルラトゥに攻撃を仕掛けた。

『シャイニング・ブレイズ・ゴッドフィンガァァ!!』
『覇王天翔拳ッ!!』
『ダークコメット!!』
『グレイスシールド!!』


 俺たちの連携技により、アルラトゥは遠く吹き飛び、頭から瓦礫がれきの山に突っ込んだ。

「やった……!?」

 メサイアがそう声を上げる。
 いや、やってないだろうな。

 案の定、瓦礫の山の中からアルラトゥがい出てきた。


「……それが返答か。ならば、こちらもお礼をしてやらねばいけないわね……」


 アルラトゥは、ギロリとこちらを睨むと――以前召喚した『ダークスライム』のような黒い塊のモンスターを100……いや、1000。それ以上だ!

 『10000体』以上を周囲に召喚しやがった。


「な……なんて数だ!」


「これは数が多すぎるわ……」
「大丈夫。メサイアさんはあたしが守ります!」

 リースがメサイアの前に。
 そうだな、吸収されたら終わりだ――。

「兄様、わたくしも一緒に戦います」
「ああ……恐ろしい数だが、みんなの力を合わせれば勝てるさ」
「理くん、わたしも」
「おう、助かる。でも、ベルは出来ればメサイアとリースを優先で守ってやってくれ」
「分かった。前衛はサトルくんとフォルちゃんに任せる」


 そうこうしていれば、モンスターの大群がこちらに攻めてくる。


 さすがにあの数だ、おかげで【オートスキル】のほぼ全て・・・・が発動し、『血の煉獄』、『ホーリーブレード』、『ダークニトロ』、『ヒドゥンクレバス』、『パニッシャートライデント』、『アブソリュートサイレンス』、『聖槍・アンティオキア』、『聖槍・アルメニア』、『ライトオブジャッジメント』、『オーディール』その他、たくさんのスキルがオートで発動し、モンスターたちを駆逐していった。


「これだけいると発動率が良いな~。一気に3000は削ったんじゃないか」
「さ、さすがですね、兄様。わたくしもいきますよ~!」

 あの構えはまさか――!


『秘奥義!! 覇王轟翔波――――――!!』


 青と緑が混じった強大な波動砲がモンスター共を粉砕していく。

 よし、これで2000は削ったはず。
 もう残り半分……いける!


 だが、アルラトゥは焦る様子もなく、ただ冷静に――


「……残念ね」


 と、つぶやくと……


 モンスターが今度は『100000』と増えた。
 今度は空にもその半数が黒い翼をつけ、飛んでいる。

 これは俺の『千里眼』クレアボイヤンスが告げているから間違いない。


「…………10万だって……うそ、だろ!?」


 まだ増えるっていうのかよ!!
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