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第60話 聖者専用の最強スキル - トランセンデンス -

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 一瞬の事で何が起きたか分からなかった。
 超越・・してしまった俺でさえだ。


 魔王は、既に塵となり、消え始めていた。


 【トランセンデンス】――な、なんという力だ……。
 もう一度思い返してみれば、とんでもない力だった。

 …………
 …………

「トランセンデンス……だって?」
「はい。その力こそ、聖者にのみ許された専用スキル。全てのステータスを10倍にし、レイドボスを含む全てのモンスターに必中の【聖櫃アーク】の効果を与えるのです」
「スイカ、それは本当か。だとしたら、俺の今まではいったい……」
「聖者になることで、本来のステータスは少し上がっています。ですが、スキルも取らないとダメなんですよ」

 そういう事だったのか……神王め、そういう大事なことは、ちゃんと説明しておけよな! まあいいけどさ!

「よ、よし……死神は二人に任せるが、いいか!?」

「あいよー。サトルは、魔王倒すといいよ!」
「はい、あたしとアグニちゃんは三人の死神を食い止めておきますから、こちらは気にせず!」

「すまねぇ……。さあて……【トランセンデンス】……確かに取ったぜ!」


 スキルリストのかなり下の方にあったわ。
 そんなところ、面倒臭くていちいち見ないし!


「おし、発動……とぉぉぉおぉおおお!?」


 体がとても軽い。
 不思議なくらいにフワフワする。浮いているような。そんな感覚。

 こんな不思議なのに、俺は酷く落ち着いていた。


 恐れは何ひとつない。


 俺は今、泰然自若たいぜんじじゃくの境地に達していたのだ。


「ふむ……。両手の甲に十字クロスの聖痕か。フォルのと似ているな。……これが聖なる力ってワケか? よし――」

 いざ魔王を倒そうと意気込んだところ――【オートスキル】で聖者専用スキル【聖槍・アンティオキア】が自動発動し、自分の背後からソレが射出された。

「えぇ!?」

 いつの間にか背後に【ペトルス】という『火による試練ゴッドブレス』が出現していた。金色に輝くその空間から、槍が飛び出たのだ。


 ごうっっと『聖なる炎』を纏いながら、槍は光の速さで魔王に達し、胸を貫いていた。なんてもんが飛び出たんだ……!


『ぐふあぁぁああぁぁぁあぁああぁあ!?!?』


 魔王は膝をつき、ついに魂のストック切れを起こし――


「ば…………馬鹿な。この私が敗北したというのか…………。信じ、られん……。く、そう……こんな事なら、さっさとメサイアかアルラトゥを吸収しておけば――」


 塵となって消えていった。


「うそー……」


 し、信じられん。


 魔王を倒したのか……?


「あ……兄様、やったのですね?」
「そ、そうらしい……実感まったくないし、それに、俺はほぼ何もしていないぞ」


 なんか、勝手に聖槍が飛び出て終わった。


「まあいいか。――で、死神たちは!?」

 スイカとアグニの方向はっと……


『お、俺たちはいったい……』
『オルクス、わたしたちは操られていたのよ』
『ボク、確か魔王に吸収されて……それで』


 お? 死神達の姿が普通になった。
 さっきまで黒く塗りつぶされたかのように、黒い影だったのだが。


「もしかして、あの死神三人……元に戻ったのか?」

「うん。魔王を倒したことによって、三人の呪縛も解かれたみたいだね」

 と、アグニがいつの間にか俺の隣に。

「なるほどね。そういう理屈か。で、スイカは手当してると」
「そ。激戦で周囲の建物だいぶ吹っ飛んだから、アタシは建物の修理とケガ人の確認してくるよ」

 アグニは行ってしまった。
 そうだな、ラブホテルも跡形もなく消し飛んでしまったし。

「フォル。俺はあの死神たちに話を聞いてみるから、メサイアたちを――って、さすがに駆けつけて来たか」


 異常事態にやっと気づいたのか、メサイア、リース、ベルがやってきた。

「どうしたのよ、なんなのこれ! サトル!」
「サトルさんご無事です!? すごい爆発音が!」
「理くん。わたしの経営するラブホテル破壊しちゃったの!?」

 わーわーと、蚊帳の外だった三人が俺に雪崩れ込んでくる。

「うわ、馬鹿。みんな顔近いって!
 みんな、魔王は倒した。倒したんだ! で、メサイア、お前の仲間が救出されたぞ。ほら、あそこの三人」

「ほんと!? わあ! オルクス、プルート、モルス!! 久しぶりね!!」

 ぴょ~~んと、メサイアが三人の死神の中へ飛び込んだ――

「おぉ、メサイア様! ご無事でしたか!」
「ええ! 久しぶりね、オルクス!」

 オルクスは、イケメンのさわやか系の兄ちゃんだった。――いや、お姉様!? そうか、元女神・・・なのだから、性別は女か。えらく美男子で驚いたが。さっきまで、あんなおぞましい大鎌を振るっていた恐ろしい死神でもあったけど。

「あぁもうメサイア! 離れて! オルクスから離れてよー! オルクスはわたしのよー!」
「あ、プルート。相変わらず嫉妬深いわね」
「う、うるさいなぁ……」

 ぷりぷりしているのは、プルートか。
 ほう、ギャルだったとは、これは驚いた。
 って――これはもしや、あら~なヤツか!?

「メサイア様、息災でなにより。あなた様だけでも『女神』になれてよかった。ボクらは、結局『女神』へ戻れなかったどころか、魔王に吸収されて……」
「モル子。あなたのおかげよ。本当にありがとう」
「いえ、これも神王・アルクトゥルス様の天啓なのですよ、メサイア様。それより……ふんふん。相変わらずイイ乳の形をなされておる。少し、成長しましたか? ボクにも分けてください」

「ひぃ!? こ、この変態!!」

 メサイアは乳をつかまれ、背筋を凍らせていた。

「おいおい……」

 確かにあのモルスは、ぺったんこだけどさ。
 つか、ボクっ娘か……いいな。


 って、そりゃいいや。


 ――急ににぎやかになったなぁ。
 これから、どうしよう?


 あ……30分経過だ。
 『ファントム』完成してる!!


 取りに行こうっと。
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