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第44話 集結 - 伝説の賢者の娘にして最強の魔法使い -

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 そろそろ『聖者の試練』も攻略せねば。
 俺たちは、炭鉱ダンジョンの奥にある扉から『ヴァルハラ』へ向かった。


 【 ヴァルハラ - 第40層 ??? 】


 みんなで『第40層』までやって来たが。
 当然、この階層に至るまで『女神の力』を使ってズルをした。今のところ神王にバレている気配はなさそうだ。存外、神王も面倒臭がりなのかもしれない。


 『聖者の試練』は、あと3体のボスを倒せば終わる。
 全部倒した後は、第99層にある【虹】とやらを使えば【虹の空中庭園ビフロスト】に辿たどり着けるのだという。

 まだまだ先は長いが、これも『レイドボス』をさっさと倒したい一心故。そこに、世界を救うだとかそんな大義名分もなければ、英雄になるつもりも毛頭ない。

 俺はそう、ただこの世界でゆっくり生活できれば、それで良かったのだ。


「さてとボスは……」
「おかしいわね……」
「どうした、メサイア」
「まったくボスの気配がないの」
「まったく? なんだもう倒されちまったのか」
「確信はないけど……そう、かも」
「ふむ? ベル、なにか分かるか」
「なにも召喚されないということは、既に攻略済みのようだね。でもおかしいね、第20層はボスが召喚されたし、なぜこの第40層だけ……」

 ベルでも分からんらしい。

「じゃあ、次の『第60層』へ向かうか?」
「そうだね、理くん。ここはラッキーだと思えばいいさ。
 シア、第60層への転送をお願いね」

「分かったわ」

 ベルは、なぜかメサイアのことを『シア』と親し気に呼んでいた。ちなみに『シア』っていうのは、ベルがつけた愛称らしい。なお、俺がその愛称で呼んでみたところ激昂げっこうしてしまい、三日間、口を聞いてくれなくなった。

 なんでだよ!

 ……おかげで、メサイアの機嫌を取り戻すのにかなり苦労したが。なぜあんなに怒ったのかは、未だに分からない。分からないが……『チョコレート』でまさか機嫌があっさり直るとはな。単純か!


「それじゃ、みんな。『第60層』へ転送するからつかまって」


 ◆


 【 ヴァルハラ - 第60層 ??? 】


 これまた呆気なく到着。
 到着したが――。

「ここも静かすぎるな」
「お、おかしいわね……? ねえ、ベル」
「そうだね。ここも攻略済みかも。どうやら、以前の『聖者の試練』とは仕様が異なっている・・・・・・・・・ようだね」

「ベル、そうなのか」
「そうとしか言いようがないよ。次行ってみよう。第80層へ」

「度々すまないが、メサイア。頼む」
「ええ、これくらいお安い御用よ」


 今度はボスがいるといいが――いや、いなくてもいいな。
 この方が楽だし。


 ◆


 【 ヴァルハラ - 第80層  巨人の間 】


 『第80層』へ到着すると、そこには既に小さな先客が。
 ん……あれは、何処ドコかで。

 背中姿なのでハッキリとは分からないが、見覚えはあった。


「キミたち、もしかして『聖者祭』アルビオンの時の……?」


 赤髪の少女と黄緑色の髪の少女がこちらを向いた。


「アンタ! あの時の!」
「あ……あなたは、あの時の」


 二人とも俺の顔を見て、ビックリしていた。
 いや、俺もビックリしたんだが。なんで、二人がココに?


 赤髪の少女、確か『アグニ・アーカム』だったか。
 炎の騎士『グレン・アーカム』の妹らしく、釣り目のツインテールで、いかにもなツンデレって感じのお転婆娘てんばむすめってコだ。もう片方は『スイカ』だったか。短い名前なので憶えていた。
 あのコは幼く、不健康なくらい肌が白い。しかしどこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。見るからに大人しそうな……物静かそうなコだ。


「アレ、キミたちって、それぞれ別の場所へ行っていたんじゃ」

「そう。アタシは『ビフロスト・・・・・』だけど」
「あたしも『ビフロスト・・・・・』です……」


「――は? まて、キミたちは、もっと別の名称を言っていたぞ」

 記憶を掘り起こし、思い出してみれば確かに、こう言っていた。


 『エーリューズニル』
 『ナーストレンド』


 ――と。

「アンタこそ『ヴィーグリーズ』へ行くって言っていたよな?」
「はい、あたしも聞きました。『ヴィーグリーズ』と」


 ……彼女たちはいったい何を言っているんだ?
 俺は『ビフロスト』だぞ。
 なのに、彼女たちも『ビフロスト』だって?

 王様――ミクトランによれば、各々少し違う道を行くと言っていた――はず。なのに、これはいったい……。

「ま、まあいい。それで、キミたちに聞きたいんだが……『第40層』と『第60層』のボスが倒されていたんだけど、もしかして、キミたちが?」

「そ。アタシとスイカは意気投合してね。それで、パーティ組んで『第40層』と『第60層』のボスを倒した」

「たった二人で!?」

「ま~…アタシは正直、あんまり出番なかったんだけど、このスイカが本当に強くってね。見かけによらずっていうのか……伝説を残した賢者の娘っていうのは本当だったみたい。恐れ入ったよ。さすが『不羈フキ魔法使い』様だ」


「……アグニちゃん。そんな褒めないで……照れるから…………」


 スイカが顔を真っ赤にしていた。照れ屋さんだな。
 そういえば、王様がそう説明してくれていたな。

「ん……すると『第20層』はなんでスルーしてたんだ?」
「20層? そこはとっくに攻略されていたからさ。サトル……だっけ。アンタたちが倒したんしょ?」

 そう、アグニは腕を組みながら言った。

 そういう事か。
 俺たちがあの『第20層』のチェーンソーヤロウを倒したあと、入れ違いで彼女たちは『第40層』と『第60層』を攻略していたと――。

 いや、でも二人きりは凄すぎるだろう。
 俺でさえ、一度は死んだのに!


「あぁもう、俺がダラダラしている間にこんな進んでいたとはな……。ていうか、どうなってんだ。本当」

 おかしい。何かがおかしい。
 どこか歯車がイカれちまったような。そんな違和感。

「ところで、この『第80層』のボスの姿が見えないが」
「はい、あたしたちもずっと待っていたのです。ですが、まったくボスモンスターが召喚される気配がないのです。これでは、前へ進もうにも……」

 ――進めないと。
 確かに、次へ行ける気配もない。
 ということは、ボスは攻略されていない。

「……どうなんだ、メサイア」
「あんたね、まず、その二人を紹介してほしいけど」

 ジトっとした生温かい目線を戴いたところで、俺は二人をみんなに紹介した。

「かくかくしかじか――そういう事があったのさ」
「ふーん。ま、とにかく二人ともよろしくね」

 メサイアから始まり、みんな挨拶を交わした。

「サトルさん、サトルさん」
「どうした、リース」
「あの魔法使いさん。すっごく可愛いですよ。あたしより小さいです! おひざに乗せて、髪をいてあげたいです♪」
「そ、そうだな……。リースよりちんまりしてるよな。まるで小学生だけどな」
「しょーがくせー?」
「あ……いや、なんでもないよ。ま、まあ確かにアレは言わば……『ロリ魔法使い』だな。ふむぅ……なかなか」
「サトルさん……。まさか、あのコにご興味が? 軽蔑けいべつしますよ」
「バ、バカ。興味っていうか、純粋に凄いなって思っただけだ。あんな小さいのに『第40層』と『第60層』のボスモンスターを倒したらしいし。賢者の娘っていうのも気になるだろう。なんかこう男心をくすぐられる存在っていうか」

「…………浮気ですか」

「違うって! なんでそーなる! あと、その死んだ目をヤメロ怖いから!」

 嫉妬するリースは、ボスモンスターよりも恐ろしいなぁ……。

「じゃあ、証明して下さい」
「おい、リース。金髪エルフで巨乳ってだけでも十分なアドバンテージがあるんだぞ。それでいて、可愛いし優しいしエルフだしエルフだしエルフだし――」
「許しました♡」

 ふぅ、危なかったぜ!

「な~に、イチャイチャしてんのよサトル」
「うわぁ! メサイア!」


「ボスモンスターが召喚されるわよ!!」


「え…………まじ?」

 リースと話していれば、いつの間にかそんな緊急事態になっていたようだ。確かに物々しい雰囲気に切り替わっていた。空気が重い。


 謎空間のど真ん中、そこに『黒い光』が射すと――


 ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!


 とても重量感のある物体が落ちてきた。きやがった。



「なんだ………アレ・・は!!」



 その日、俺は思い出した――
 あの男ヤツの顔を。投げかけられた問い・・・・・・・・・を――。
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