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第32話 眠れない夜 - 聖女の胸に刻まれた聖痕の秘密 -

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 日はすっかり沈み、夜。
 レイドボスの出現やら、ダークスライムに服を溶かされるやらトラブル続出だったが、ようやく家に帰ることができた。

「疲れたな……風呂入って寝よう」

 メサイアとリースは、ぐっすり就寝中。
 フォルだけ起きていた。

「フォル、俺は風呂入ってくるよ」
「はい、分かりました。……あ、よかったら、一緒に入りましょうか?」
「悪くない提案だが、断る。あと勝手に入ってくるなよー」

 もう鼻がもたんからな。
 さすがに血が足りなくなって、死ぬよ俺。

「そうですか……。残念です。でも、兄様の邪魔にはなりたくないので、ソファでお待ちしておりますね」

 ……フォルのヤツ、妙に素直だな。
 まあ、そこが彼女のイイところなんだけど。


 ◆


 今日の風呂は最高だった。
 最近、いつも誰かが乱入してきていたからな、落ち着けなかったし。

「なんだ、フォル。まだ寝てないのか」
「はい。兄様を待っていましたから」
「俺を? 俺なんか待たずに寝てもいいんだぞ~。おっさんは夜更かしが大好きだからな、まだ夜は長いんだ」

「そうなんですね? でも、今日はお付き合いしますよ~。どうぞ、こちらへ」

 ソファの横に来て欲しいと、手招きされる。
 そう誘われては断るワケにもいかんな。

「……あぁ、フォル」

 暗くて分からなかったが、今日買ったばかりの透明感抜群の『ベビードール』姿だった。スケスケ……。かなり見えて……くっ。

「フォル、お前なんちゅー恰好かっこうを……」
「可愛いですか?」
「……あ、ああ。可愛いぞ」
「……♡ 兄様、ちゅーしたいです。頬ではなく、口づけで♡」

 フォルの青と桃のオッドアイの瞳が揺れ動く。
 そんな風に見つめられては……雰囲気に押されてしまう。


「く、口はまた今度な。おでこで勘弁してくれ」


 俺は、フォルの肩に手をおき、おでこにキスを。

「嬉しいです……♡」
「と、ところで、フォルはなんで……俺にそんな好意的なんだ?」

 これは前から思っていた。
 こんな可愛い聖職者プリーストが、なんで、おっさんなんかの俺を。

「兄様。人を好きになるのに理由なんてものはいらないのですよ。わたくしは、兄様が好き。それだけです」
「……それだけ?」
「はい、それだけです」
「本当にそれだけか?」
「疑いますね……。分かりました、強いて理由を上げるのなら、兄様の筋肉・・です♡」

 ですよねー。
 やっぱり、そっちですよねー。

「お前な……」
「ですので、その、約束通り『い寝』して差し上げますね♡」
「俺の腹筋触りたいだけだろ」
「ええ、それはもう舐めまわしたいくらいに……♡」

 フォルは俺のシャツをまくり、腹筋に舌をわせてこようとする。

「うわぁぁぁ!! こ、この馬鹿力! 放しやがれ!」
「往生してください兄様。そもそも、兄様がいけないんですよ、こんな立派な腹筋をしているから……。それにさっきのダークスライム戦で、わたくしに汗臭いシャツを着せてくれましたね。あれがトドメでした。もう、わたくしのハートはズッキュンです♡
 ……さあ、兄様……わたくしと一緒に、カルミナ・ブラーナ天国へ♡」


 うあぁ、この聖女、目がハートに……!
 だめだもう、フォルを止められない。


 俺、食べられちまう!!


「うあぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 ◆


 ……熱い。
 体が燃えるように熱い。まるで地獄のような熱さ。


「――ハッ、俺はいったい……」


 どうやら、ソファの上で意識を失っていたようだ。
 そうか、俺は、フォルに腹筋をペロペロされまくって……。

「うわぁ、フォル!」

 俺の体の上でフォルが寝ている。もちろん、ベビードール姿で。あぁもう、そんなスケスケで……。谷間の『聖痕せいこん』が怪しげに、赤く光っているような。

 く……。
 悔しいが、フォルの寝顔は最高に可愛かった。


 ――ああ、神様、今だけは許してくれ。


 俺は、フォルを、そっと、ぎゅっと抱きしめ……


 『聖痕』に触れてみた。


 すると、俺は意識を失い――――



 ◆ ◆ ◆



 夢を見た。


『――サトル。
 サトル。目を覚ますのだ、サトル』


 誰だ、この、男の、声。


「……くっ。ここは何処だ……」


 俺は【黒い空間】の中にいた。
 なにも見えない。感じない。

 そんな見えないはずの中から、ひとりの男が現れた。

『はじめましてだね、サトル』
「あ……あんたは誰だ?」
『私の名は『ゾルタクスゼイアン』……世間からは【死の魔王】などと呼ばれ、恐れられているがね』

「ゾ、ゾルタクスゼイアン……! あの、聖地・アーサーを支配しているとかの! レイドボスじゃないか……!」

『キミがあの聖女と濃厚接触してくれたおかげで、私とキミにはキッカケが生まれた。だから、こうして精神を通して出てこれるようになったのだ』

「んな……どういうことだ? フォルと接触って」

『聖女は――フォルトゥナは、私の娘《・》でね。あの『聖痕』は、神王・・がつけた【死の呪い】なのだよ。その死を通している』


 ……なんだって!?

 【死の呪い】ってそりゃ……かつて、女神を苦しめたという……!


「あ、あんた。フォルの父親なのか!? でも……【死の呪い】って!」
『これだけは言っておく。神王を信用してはならない。アレに取り入ることは、自殺行為に等しい。いいか、ビフロストへ向かうな』

 なんだ、何なんだこれは。
 魔王の罠か?

 その可能性も充分考えられる。

「レイドボスのあんたの言葉を信用すると思うか?」

『そうだろうな。だが、それでも娘を頼むよ。……そろそろ時間だ。いいか、この世界は――」


 そこで途切れた。

 ……なんだ、また眠く。

 だめだ、凄まじい眠気だ。


 その微睡まどろみの中で――


 < ……だめですよ、彼岸花 理。
 あれは明確な敵。滅ぼすべき存在。だから、耳を傾けてはいけない。
 あなたは『聖者』だけを目指せばいい。さあ……【虹の空中庭園ビフロスト】へおいで。そして、無限の力を得るのですよ。それが達成された時、あなたは【サクリファイス】に相応しい存在となるのですから >


 そんな声が――俺を、眠らせた。
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