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第19話 砕かれた夢
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第19話 砕かれた夢
(アイリス視点)
私とマレーが声を揃えながらサーシャさんの夢について分からなくなって首を傾げると、サーシャさんはケラケラと笑った。
「私はそこのステージに立って踊り子として舞うのが夢だったの。」
真剣な表情で、夢を語るサーシャさんがかっこよくて私は思わず拍手を送ってしまった。拍手を送られるとは思っていなかったのか、サーシャさんは照れくさそうに微笑んだ。
「サーシャさんの故郷のフロックスを解放するだけじゃなかったんですね!!」
「そうなの。自分の故郷がアンノーンたちによって色を失ったと知ってからはこの二つ目の夢は叶えられないと絶望していたわ。でも、アイリスとマレーがラケナリアの解放をしてくれて…、どんどん色素の小瓶を集める姿を見て、私も自分の故郷を自分の手で復活させるんだ!って意欲が湧いてきて。それで故郷のフロックスも解放できたし。そうしたら二つ目の夢も叶えたくなっちゃって。」
そう言ってサーシャさんは頭をぽりぽりと掻いてから、ジンジャエールを一口飲んだ。そしてグラスについている水滴をなぞるように指を滑らせていると、物思いに耽ったような表情で、彼女は話した。
「私は小さい頃から音楽に合わせて踊るのが好きな子供だったみたいでね。両親がよく私をクラレットの劇場に連れてってくれたの。そこで見た音楽祭の迫力と言ったら…。ぜひ、アイリスとマレーにもこの感動を味わってもらいたいわ。また私の夢に付き合わせることになるけど…、協力してくれる?」
「もちろん!サーシャさんが夢の舞台に立って踊る姿を見るの、楽しみですもん!ね、マレー!」
「ええ。サーシャさんの踊りなら、誰でも見入るものがあると思うわ!」
私が同意を求めるように隣にいるマレーを見ると、マレーも興奮するようにサーシャさんに詰め寄った。
「その音楽祭はいつ開催されるんですか!」
「ちょうど2ヶ月後くらいかしらね…。街が開放されてから、バタバタしてるから、本来は今の時期の開催なんだけど、2ヶ月遅らせる見たいね。」
「2ヶ月後…。サーシャさんの踊りの準備とか手伝わせてもらえますか!?」
「手伝いか…、ぜひともお願いしたいわ!ドレスとかいつも使っているのは、だいぶ前に買ったもので、今はまだ色を失ったままのヘリコニアっていう街の衣装屋さんで買ったものなの。だから、今回どうするか悩んでて…。」
「ドレスですか…。いっそのことサーシャさんの着たいものをデザインして、私たちで作るのはどうですか?3人も集まれば作業を分担できて、効率もいいでしょうし。」
「自分で…デザインした…。」
「ドレス作りが大変っていうことはわかりますけど、こだわって自分だけのドレスの一着を着て、夢の舞台に立てるなんて更に素敵じゃないですか!」
サーシャさんは考え込むような仕草をしながら、私の言葉を復唱していた。ドレス作りの大変さをわかっているだろうから、渋っているのだろうと思って、私は彼女の決断を促すように言葉を繋げた。マレーやアメリアの方を見ると、彼女たちも私の話には賛成のようで、サーシャさんのことを見つめている。3人の顔を見て、サーシャさんはコクリと頷いた。
「分かったわ。音楽祭で着用するドレスは私がデザインして3人に作ってもらうわ。時間が惜しいから、私はこの後すぐに宿屋に戻ってデザインを考えてくるから。アメリアには悪いけど、色素の小瓶集めと音楽祭の情報集めは任せてもいいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。サーシャさんはドレスのデザイン作成に集中してください。」
「ありがとう。皆んな、今日は来てくれてありがとう。私、夢の実現のためにも頑張るわ!」
「その調子です!」
私はにっこりと笑って意欲に満ち溢れたサーシャさんの笑顔を見て、夢を追いかける人の手伝いができるなんて、素敵なことだと思った。夢の話をするサーシャさんの姿を見て、私は“自分の夢とはなんだろう“と考えた。
サーシャさんがドレスのデザインをするために、宿屋に戻るので、今回の食事会はお開きとなり、私とマレーも街の宿屋にダブルベッドルームでチェックインした。そしてベッドに横になると、私は天井を見ながら、マレーに尋ねた。
「ねえ、マレー。マレーの夢って何?」
「サーシャさんの姿を見て、考えるのはアイリスも一緒だったのね。私も同じことで悩んでた。自分の夢って何だろうって。もちろん実家の後を継ぐことも夢の一つだけど…。それだけじゃいけないような気がして…。自分の夢が何なのか考えさせられるわね。」
「私も自分の実家の家業を継ぐことも考えてるよ?双子を助け出すのも、夢…というか使命?夢と使命は違うと思うし…、うーん…。分かんない!」
私は考えれば考えるほど、自分の気持ちがぐちゃぐちゃになるようで考えるのを放棄した。マレーに承諾を得て、部屋に備え付けられたシャワーを浴びて、帰ってくると、マレーはいつの間にか寝てしまったようだった。彼女をそのままにしておくと、風邪を引かせてしまうので、ベッドの布団を体にかけてあげて、私も髪の毛を乾かしてから、ベッドに潜り込んで、眠りについたのだった。
――――――
その日から、私とマレーは色素の小瓶集めと音楽祭の情報収集をしているアメリアの手伝いをするために、3人で行動を共にするようになった。前回盗賊に襲撃された時の反省を生かして、前線で戦うマレーの補助として私が短剣を持ってマレーの死角から襲い掛かろうとするアンノーンを次々と倒していった。自分で作った身体強化の飴を舐めているので、動きが俊敏で、すぐにマレーの援護に回れるので、私は大忙しだった。アメリアのバイオリンの音色で、体力や魔力の回復から、強化することもできるので、私とマレーは1時間ほど同じ場所で襲いかかってくるアンノーンを倒していった。
「ふう…、今日はこれくらいにしておきましょうか。」
夕方になって、日が傾いて来たのを見て、マレーがそういうと、私とアメリアも頷いて、その狩場から離れることにした。キリが良いタイミングでアンノーンが湧いてこなくなったので、私たちはクラレットの街へと戻った。そこで、私たちは酒場の掲示板に貼られた音楽祭のポスターを見つけた。
「これがサーシャさんの言っていた音楽祭かぁ…。ん?待って、これ…。」
「どうしたの、アイリス。」
「マレー、この参加資格のところ見て。」
「えっと…、“参加資格は、国王からの推薦者のみ“…ってことは誰でも参加できるわけじゃないの!?」
「そうみたいですね…、サーシャさんはこのこと知らないみたいですし…、でも、今はドレスのデザイン作成で部屋に閉じこもっていますから…、この真実を知らせるのも憚られますね…。」
「どうしよう…。」
私たちは酒場の掲示板の前で“うーん“と唸ってしまった。他のお客さんの邪魔になると思って、酒場の席についてからも、3人でこの事実をどうやってサーシャさんに伝えるべきか悩んでいた。すると、そこに疲れた顔をしたサーシャさんが酒場に入ってきた。
「あ、サーシャさん…。」
「あら、3人とも帰って来てたのね。お帰りなさい。今日はどうだった?」
「ええ、今日も順調に色素の小瓶を集められましたよ。サーシャさんの方はどうですか?」
「私の方はねぇ…着て踊りたいドレスのデザインがまとまらなくてね…。詰まっているから、気晴らしにご飯を食べに来たところよ。って3人ともなんか元気ないように思えるけど…。アンノーンとの戦闘で何かあった?」
「いえ…、そうじゃないんですけど…。えっと、その…。」
「サーシャさんに音楽祭のことで伝えなくちゃいけないことがあるんです。」
「ま、マレー!」
私ははっきりとサーシャさんの顔を見て、先程知った事実を伝えようとするマレーの方を見た。サーシャさんも何を教えられるのか、分からず首傾げている。マレーは私とアメリアの顔を見て、頷いて見せた。
「さっきそこの掲示板に貼られている音楽祭のポスターを見たんですけど、音楽祭のステージに立てる参加者は国王様からの推薦者だけなんです。」
「………。」
マレーの言葉にサーシャさんはポカンとした顔をしていた。そしてすぐに顔を俯かせた。驚愕の事実に彼女を悲しませたのではないかと、私とアメリアがワタワタとサーシャさんとマレーの間を交互に見た。するとサーシャさんは顔を上げた。
「なぁんだ、そんなこと?」
「そんなこと…って…、知っていたんですか?」
「出身の街が違うとはいえ、同じ国の大規模なイベントだもの、参加資格のことなんて知っていたわ。国王様からの推薦のことも。私があなたたちに音楽祭に出る夢の話をした時にはまだ音楽祭のポスターはできていなかったから、今年は違うのかもって期待していたんだけど…、だめだったみたいね。私はステージに立つことが夢だったけど、音楽祭自体を見に行くことも楽しみにしているのよ?だから、自分が出れなくても、そんなに気落ちはしないわ。」
ケロッと言って見せたサーシャさんに私たちは唖然とした。よく考えれば、彼女はフロックス出身で、クラレットの音楽祭には何度か来たことあると言っていた。だから、参加資格のことを知っていてもおかしくはない。私たちの考えが足りなかったのだ。彼女はその後“お腹空いちゃったし、この話はおしまい!さ、ご飯にしましょ!“と何事もなかったように振る舞うので、私たちはお互いの顔を見合わせて、彼女が落ち込むのは杞憂だったと思って、私たちは酒場で夕食を済ませた。その後、アメリアとサーシャさんが泊まっている宿屋は別なので、酒場の前で別れを告げると、私とマレーは歩いて宿屋まで戻った。歩きながら私はマレーに話しかけた。
「ねぇ、マレー。サーシャさんのあの笑顔、本物だと思う?」
「…私はサーシャさんが無理して笑ってるようにしか見えなかった。」
「だよね。あんなに楽しみにしていた自分の夢を叶えられるかもしれないっていう期待が砕かれたんだもの…。マレーもキッパリ言いすぎよ。」
「ごめん…、でも、言わないとドレスを作った後じゃ遅いんだよ?」
「それは…確かにそうだけど…。なんとかしてサーシャさんの夢、叶えさせたいよね…。」
「そう、だね…。」
私とマレーはサーシャさんのためにも自分達には何ができるのか考えながら帰路についた。
ぎこちない空気が流れる中、私はシャワーを浴びて髪の毛を乾かしている間にもサーシャさんに出来ることはないかと知識を振り絞った。それはマレーも同じようで、2人して寝る前までお互い無言のまま物思いに耽っていた。そして、いつのまにか眠りに落ちしてしまっているのだった。
(アイリス視点)
私とマレーが声を揃えながらサーシャさんの夢について分からなくなって首を傾げると、サーシャさんはケラケラと笑った。
「私はそこのステージに立って踊り子として舞うのが夢だったの。」
真剣な表情で、夢を語るサーシャさんがかっこよくて私は思わず拍手を送ってしまった。拍手を送られるとは思っていなかったのか、サーシャさんは照れくさそうに微笑んだ。
「サーシャさんの故郷のフロックスを解放するだけじゃなかったんですね!!」
「そうなの。自分の故郷がアンノーンたちによって色を失ったと知ってからはこの二つ目の夢は叶えられないと絶望していたわ。でも、アイリスとマレーがラケナリアの解放をしてくれて…、どんどん色素の小瓶を集める姿を見て、私も自分の故郷を自分の手で復活させるんだ!って意欲が湧いてきて。それで故郷のフロックスも解放できたし。そうしたら二つ目の夢も叶えたくなっちゃって。」
そう言ってサーシャさんは頭をぽりぽりと掻いてから、ジンジャエールを一口飲んだ。そしてグラスについている水滴をなぞるように指を滑らせていると、物思いに耽ったような表情で、彼女は話した。
「私は小さい頃から音楽に合わせて踊るのが好きな子供だったみたいでね。両親がよく私をクラレットの劇場に連れてってくれたの。そこで見た音楽祭の迫力と言ったら…。ぜひ、アイリスとマレーにもこの感動を味わってもらいたいわ。また私の夢に付き合わせることになるけど…、協力してくれる?」
「もちろん!サーシャさんが夢の舞台に立って踊る姿を見るの、楽しみですもん!ね、マレー!」
「ええ。サーシャさんの踊りなら、誰でも見入るものがあると思うわ!」
私が同意を求めるように隣にいるマレーを見ると、マレーも興奮するようにサーシャさんに詰め寄った。
「その音楽祭はいつ開催されるんですか!」
「ちょうど2ヶ月後くらいかしらね…。街が開放されてから、バタバタしてるから、本来は今の時期の開催なんだけど、2ヶ月遅らせる見たいね。」
「2ヶ月後…。サーシャさんの踊りの準備とか手伝わせてもらえますか!?」
「手伝いか…、ぜひともお願いしたいわ!ドレスとかいつも使っているのは、だいぶ前に買ったもので、今はまだ色を失ったままのヘリコニアっていう街の衣装屋さんで買ったものなの。だから、今回どうするか悩んでて…。」
「ドレスですか…。いっそのことサーシャさんの着たいものをデザインして、私たちで作るのはどうですか?3人も集まれば作業を分担できて、効率もいいでしょうし。」
「自分で…デザインした…。」
「ドレス作りが大変っていうことはわかりますけど、こだわって自分だけのドレスの一着を着て、夢の舞台に立てるなんて更に素敵じゃないですか!」
サーシャさんは考え込むような仕草をしながら、私の言葉を復唱していた。ドレス作りの大変さをわかっているだろうから、渋っているのだろうと思って、私は彼女の決断を促すように言葉を繋げた。マレーやアメリアの方を見ると、彼女たちも私の話には賛成のようで、サーシャさんのことを見つめている。3人の顔を見て、サーシャさんはコクリと頷いた。
「分かったわ。音楽祭で着用するドレスは私がデザインして3人に作ってもらうわ。時間が惜しいから、私はこの後すぐに宿屋に戻ってデザインを考えてくるから。アメリアには悪いけど、色素の小瓶集めと音楽祭の情報集めは任せてもいいかしら?」
「はい、大丈夫ですよ。サーシャさんはドレスのデザイン作成に集中してください。」
「ありがとう。皆んな、今日は来てくれてありがとう。私、夢の実現のためにも頑張るわ!」
「その調子です!」
私はにっこりと笑って意欲に満ち溢れたサーシャさんの笑顔を見て、夢を追いかける人の手伝いができるなんて、素敵なことだと思った。夢の話をするサーシャさんの姿を見て、私は“自分の夢とはなんだろう“と考えた。
サーシャさんがドレスのデザインをするために、宿屋に戻るので、今回の食事会はお開きとなり、私とマレーも街の宿屋にダブルベッドルームでチェックインした。そしてベッドに横になると、私は天井を見ながら、マレーに尋ねた。
「ねえ、マレー。マレーの夢って何?」
「サーシャさんの姿を見て、考えるのはアイリスも一緒だったのね。私も同じことで悩んでた。自分の夢って何だろうって。もちろん実家の後を継ぐことも夢の一つだけど…。それだけじゃいけないような気がして…。自分の夢が何なのか考えさせられるわね。」
「私も自分の実家の家業を継ぐことも考えてるよ?双子を助け出すのも、夢…というか使命?夢と使命は違うと思うし…、うーん…。分かんない!」
私は考えれば考えるほど、自分の気持ちがぐちゃぐちゃになるようで考えるのを放棄した。マレーに承諾を得て、部屋に備え付けられたシャワーを浴びて、帰ってくると、マレーはいつの間にか寝てしまったようだった。彼女をそのままにしておくと、風邪を引かせてしまうので、ベッドの布団を体にかけてあげて、私も髪の毛を乾かしてから、ベッドに潜り込んで、眠りについたのだった。
――――――
その日から、私とマレーは色素の小瓶集めと音楽祭の情報収集をしているアメリアの手伝いをするために、3人で行動を共にするようになった。前回盗賊に襲撃された時の反省を生かして、前線で戦うマレーの補助として私が短剣を持ってマレーの死角から襲い掛かろうとするアンノーンを次々と倒していった。自分で作った身体強化の飴を舐めているので、動きが俊敏で、すぐにマレーの援護に回れるので、私は大忙しだった。アメリアのバイオリンの音色で、体力や魔力の回復から、強化することもできるので、私とマレーは1時間ほど同じ場所で襲いかかってくるアンノーンを倒していった。
「ふう…、今日はこれくらいにしておきましょうか。」
夕方になって、日が傾いて来たのを見て、マレーがそういうと、私とアメリアも頷いて、その狩場から離れることにした。キリが良いタイミングでアンノーンが湧いてこなくなったので、私たちはクラレットの街へと戻った。そこで、私たちは酒場の掲示板に貼られた音楽祭のポスターを見つけた。
「これがサーシャさんの言っていた音楽祭かぁ…。ん?待って、これ…。」
「どうしたの、アイリス。」
「マレー、この参加資格のところ見て。」
「えっと…、“参加資格は、国王からの推薦者のみ“…ってことは誰でも参加できるわけじゃないの!?」
「そうみたいですね…、サーシャさんはこのこと知らないみたいですし…、でも、今はドレスのデザイン作成で部屋に閉じこもっていますから…、この真実を知らせるのも憚られますね…。」
「どうしよう…。」
私たちは酒場の掲示板の前で“うーん“と唸ってしまった。他のお客さんの邪魔になると思って、酒場の席についてからも、3人でこの事実をどうやってサーシャさんに伝えるべきか悩んでいた。すると、そこに疲れた顔をしたサーシャさんが酒場に入ってきた。
「あ、サーシャさん…。」
「あら、3人とも帰って来てたのね。お帰りなさい。今日はどうだった?」
「ええ、今日も順調に色素の小瓶を集められましたよ。サーシャさんの方はどうですか?」
「私の方はねぇ…着て踊りたいドレスのデザインがまとまらなくてね…。詰まっているから、気晴らしにご飯を食べに来たところよ。って3人ともなんか元気ないように思えるけど…。アンノーンとの戦闘で何かあった?」
「いえ…、そうじゃないんですけど…。えっと、その…。」
「サーシャさんに音楽祭のことで伝えなくちゃいけないことがあるんです。」
「ま、マレー!」
私ははっきりとサーシャさんの顔を見て、先程知った事実を伝えようとするマレーの方を見た。サーシャさんも何を教えられるのか、分からず首傾げている。マレーは私とアメリアの顔を見て、頷いて見せた。
「さっきそこの掲示板に貼られている音楽祭のポスターを見たんですけど、音楽祭のステージに立てる参加者は国王様からの推薦者だけなんです。」
「………。」
マレーの言葉にサーシャさんはポカンとした顔をしていた。そしてすぐに顔を俯かせた。驚愕の事実に彼女を悲しませたのではないかと、私とアメリアがワタワタとサーシャさんとマレーの間を交互に見た。するとサーシャさんは顔を上げた。
「なぁんだ、そんなこと?」
「そんなこと…って…、知っていたんですか?」
「出身の街が違うとはいえ、同じ国の大規模なイベントだもの、参加資格のことなんて知っていたわ。国王様からの推薦のことも。私があなたたちに音楽祭に出る夢の話をした時にはまだ音楽祭のポスターはできていなかったから、今年は違うのかもって期待していたんだけど…、だめだったみたいね。私はステージに立つことが夢だったけど、音楽祭自体を見に行くことも楽しみにしているのよ?だから、自分が出れなくても、そんなに気落ちはしないわ。」
ケロッと言って見せたサーシャさんに私たちは唖然とした。よく考えれば、彼女はフロックス出身で、クラレットの音楽祭には何度か来たことあると言っていた。だから、参加資格のことを知っていてもおかしくはない。私たちの考えが足りなかったのだ。彼女はその後“お腹空いちゃったし、この話はおしまい!さ、ご飯にしましょ!“と何事もなかったように振る舞うので、私たちはお互いの顔を見合わせて、彼女が落ち込むのは杞憂だったと思って、私たちは酒場で夕食を済ませた。その後、アメリアとサーシャさんが泊まっている宿屋は別なので、酒場の前で別れを告げると、私とマレーは歩いて宿屋まで戻った。歩きながら私はマレーに話しかけた。
「ねぇ、マレー。サーシャさんのあの笑顔、本物だと思う?」
「…私はサーシャさんが無理して笑ってるようにしか見えなかった。」
「だよね。あんなに楽しみにしていた自分の夢を叶えられるかもしれないっていう期待が砕かれたんだもの…。マレーもキッパリ言いすぎよ。」
「ごめん…、でも、言わないとドレスを作った後じゃ遅いんだよ?」
「それは…確かにそうだけど…。なんとかしてサーシャさんの夢、叶えさせたいよね…。」
「そう、だね…。」
私とマレーはサーシャさんのためにも自分達には何ができるのか考えながら帰路についた。
ぎこちない空気が流れる中、私はシャワーを浴びて髪の毛を乾かしている間にもサーシャさんに出来ることはないかと知識を振り絞った。それはマレーも同じようで、2人して寝る前までお互い無言のまま物思いに耽っていた。そして、いつのまにか眠りに落ちしてしまっているのだった。
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