輝くは七色の橋

あず

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第15話 お前が牢獄に入れ

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第15話 お前が牢獄に入れ
 魔力鳩の能力でサーシャさんの魔力を辿ってもらうことにして、私たちはラケナリアを出発した。夜に出発したので、まずは街灯がある街の近くを通ってなるべくアンノーンと鉢合わせしないように走った。魔力鳩が“クルッポー!“と一鳴きしてから、少しずつ向かう場所を変え始めたので、私たちは暗がりの中でも魔力鳩を見失わないように気をつけながら、後を追った。
「この方角だとヘリコニアかフロックスに向かってるみたいね…。」
 私たちは地図を確認しながら水分補給をして、魔力鳩が案内しようとする場所まで走り続けた。朝日が昇って来るのを横目で見つつ、私たちはヘリコニアに入った。ヘリコニアはまだ解放していない街なので、ところどころでアンノーンがうろついており、私たちは無駄な戦闘は避けながら、未だ飛び続ける魔力鳩の向かう場所まで案内してもらった。ようやく辿り着いた場所はフロックスの端っこ、国境付近の山々が連なっている山岳地帯の入り口の洞窟だった。
“くるる…“と地面に降り立った魔力鳩が“僕頑張ったでしょー!褒めて!“と言わんばかりにふかふかの胸をふんぞりかえらせて、見つめて来るので、私は「よしよし、ありがとうね。」と胸を撫でてやり、ここまで案内してくれた魔力鳩を飛び立たせた。
「この洞窟にサーシャさんが…。なんでこんなところに…?」
「アイリス、外套を羽織って中に潜入してみましょ。フォンツベルンの仲間に遭遇すると厄介だし。」
「そうだね。サーシャさんも心配だし、なるべく大騒ぎはしないでおこう。」
 二人で頷いてから洞窟に入る前にサーシャさんからの貰い物の外套を羽織った。そして洞窟に入り、暗がりの中、洞窟の壁を伝いながら、私たちは進んだ。すると次第に人の声が聞こえてきた。私とマレーはアイコンタクトをして、より慎重に洞窟内を進んだ。すると壁が途切れ、私たちの目の前には大きな空間が広がった。そこには人為的に作られた牢獄のようなものとその前で酒盛りをする人物が合計で6人ほどいた。その中にはフォンツベルン氏の姿もあった。私たちは周りの人から認識されにくい外套を羽織っているので、フォンツベルンとその仲間たちは未だ私たちには気づいていないようだった。静かに物音を立てないように壁に隠れるようにして様子を伺った。酒が入っているせいかフォンツベルン氏とその仲間たちの話し声は洞窟の壁に反響して、少し離れた私たちの耳にも届いた。
「あの小娘たち、なかなか根を上げませんねぇ~。後もう一押しでしょうか!」
「まぁ、そう焦ることはないさ。あの小娘の魔法の飴玉があれば、アンノーンがうろつく色素6カ国も自由に移動できる!そうすれば俺の異名も轟かせられるってわけよ!!ガハハ!!」
「流石ミリッツさん!いや…、今はフォンツベルンさんですね!!」
 ミリッツと呼ばれた人物は数日前に私たちの目の前に現れてから、しつこく私たちに仲間になるように勧誘してきている人物だった。どういうことかと私とマレーは首を傾げた。そしてまだ上機嫌に話を進める彼らから情報を聞き出せるかもしれないと思い、私たちは息を殺して聞き耳を立てた。
「色を失った街で時が止まっている女を弄るのも、いいもんだよなぁ!何しても向こうは動かないし、そんなことをしても今の色素6カ国には人の出入りが少ない!つまりは目撃者もいない!何をやってもお咎め無しだからな!!」
「「!!」」
 聞こえてきたフォンツベルンを騙る人物の話の内容に、私たちは目を見開いた。まさか、強姦や窃盗紛いのことをやっているとは思わず、驚いた。なんとしてもこいつらには痛い目を見てもらわなくてはならない、そう思った私は洞窟の中の情報を隈なく探して少しでも今の状況を打破するための糸口がないかと思った。
 すると、マレーが何かに気づいたようで、私の肩をトントンと叩いた。私は静かに“何?“と問いかけると、マレーは指を差した。その方向には牢獄のように鉄格子があって、その奥に人が二人いるようだった。よく目を凝らしてその人物を見ると、一人はなんとサーシャさんだった。ボロボロな服を着ているがあれは間違いなく、サーシャさんだ。彼女はやはりフォンツベルン氏によって攫われ、こんなところに幽閉されていたのだった。通りで酒場にも現れないわけだ。そしてボロボロのサーシャさんの隣にはサーシャさんよりも更にボロボロになっている男性が寝転がっていた。彼は誰なのか確証は持てなかったが、私は直感で分かった。
「(彼が本物のフォンツベルン氏だ…!)」
 私が考えていることがマレーにも分かったようで、私たちはこの場で6人のフォンツベルン氏の仲間たちと戦うことをせず、二人を救出する方法を考えた。しかし、そこで彼らに動きがあった。
「よし、あの小娘たちを仲間に加える最後の仕事だ!後もう一押しだ、お前ら、あの小娘たちを俺の元に連れて来い!」
「分かりました、フォンツベルンさん!」
 そうしてお酒を煽り飲んだフォンツベルン氏の先導の元、彼らは私たちが入ってきた洞窟の入り口に向かって移動し始めたので、私とマレーは彼らにぶつからないように、壁際に寄って、難を逃れた。彼らが完全に洞窟から出て行ったのを確認すると、私とマレーは鉄格子のそばに急いで駆け寄った。
「サーシャさん!」
「あれ…、アイリスと…マレー…?」
 サーシャさんはあの綺麗な顔にまで殴られた痕があり、痛々しいことこの上なかった。私は助けに来たのが遅かったのかと、泣きそうな気持ちで鉄格子の隙間からサーシャさんの方に手を伸ばした。彼女もそれが分かったようで、私の手を握ってくれた。
「サーシャさん、今から助けますからね!マレー!」
「うん、分かってる!」
 私は持っていた杖を一振りすると、ぽんっという軽い音と共に飴玉が二つ出来上がった。そしてあの飴玉をマレーに渡すと、私はフォンツベルン氏と仲間たちが帰ってこないか、洞窟の入り口に戻って見張りをすることにした。その間にマレーが私の作った身体強化と魔力強化の飴玉の効果で、灼熱のグローブを生み出すと、そのグローブのまま鉄格子に手をかけて、熱で鉄格子を歪ませて、二人が出られる大きさまで広げたのだった。
 私がその作戦を思いついたのはつい先ほどのことで、フォンツベルン氏たちが陽気に酒盛りをやっている間にマレーに話しておいたのであった。そして私は洞窟の入り口からフォンツベルン氏たちが帰ってこないかキョロキョロと辺りを警戒していると、私の後ろに鉄格子から出られたサーシャさんと本物のフォンツベルン氏をマレーが背負ってやってきたので、私は頷いて洞窟から離れた。
 サーシャさんは自力で歩けるとはいえ、ボロボロだったので、私たちはひとまず近くにフロックスの街まで戻り、医師の元へと駆け込んだ。サーシャさんの怪我は打撲と打ち傷、それと鉄格子の中に入れられたときに作ったであろう、擦り傷だけだった。問題は本物のフォンツベルン氏と思われる人物…。フロックスの医師は本物のフォンツベルン氏のことを知っているようで、マレーの背中に背負われている彼を見た瞬間に、びっくりした顔をしていた。医師はすぐに処置を施してくれたので、本物のフォンツベルン氏は大事には至らず、ほんの少しの入院を言い渡されただけだった。
 そして私とマレーはサーシャさんから何があったのか、宿屋にて聞き出すことにした。
「サーシャさん、私たちに外套を届けてから何があったのか、話してくれませんか。」
「…あなたたち宛に魔力鳩を使って外套を届けてから、私はいつも通り酒場で踊り子の仕事をしていたの…。でも、そこにフォンツベルン…じゃないわね、ミリッツという男がやってきて、ニヤニヤしながら私の手首を掴んで…。私は魔法で飛ぼうと思ってたんだけど、なぜかあいつに手首を掴まれたら私の魔法が発動しなくて、体に力が入らなくなって…。そのまま私はあいつらに拉致されて。酒場で目撃していた他の魔法使いや店の人にはお金でものを言わせて、黙らせてたみたいで…。」
「そうだったんですね…。それにしても手首を掴まれただけで力が抜けるってどういう…。」
「分からないわ…、魔力が抜けていく感覚…とでもいうのかしら。そんな感じで魔法が使えなくて、私はあっさりあの鉄格子の中に入れられて、アイリスたちの情報をを吐き出せと暴力も振るわれて…。でも、私はアイリスたちのことは何一つ話していないわ!」
「わかっています。サーシャさんがそう簡単に友達の情報は売らないって言葉、私は覚えていますから。」
「ありがとう、アイリス…。私外套をアイリスたちに運んでもらってから、どうしたらアイリスたちに今の状況に気付いてもらえるか殴られてぼーっとする頭で一生懸命考えたんだけど、何も浮かばなくて…、どうしたら助けを呼べるのか、私はこのままフォンツベルンに暴力を振るわれ続けるのかって考えたら、怖くて、怖くって…。」
「サーシャさん…。もう大丈夫ですからね…。」
 最後は涙ながらに話してくれたサーシャさんを私がそっと抱きしめると、マレーは拳をぎゅっと握りしめていた。こんな風にサーシャさんに怖い思いをさせた極悪非道なフォンツベルン氏を騙る偽物のあいつらに何か仕返しはできないかと私とマレーは考えた。しかし、私たちがカリステモンの宿屋から拠点を移して、ラケナリアに移動し、さらにそこから今はフロックスにいることは偽物のフォンツベルン氏にはもう少しもすればバレてしまう。それまでの時間に何ができるのか、私たちは考えた。
 そして私たちはサーシャさんと一緒に幽閉されていた本物のフォンツベルン氏からも話を聞いた。
「初めまして、フォンツベルンさん。私はアイリス・シュガーツと言います。」
「私はマレー・クラウドです。」
「君たちが僕を助けてくれたんだってね、ありがとう…。もうあそこで一生を過ごすのかと絶望していたんだよ…。」
「フォンツベルンさん何があったのか話していただけますか?」
「君たちには恩があるしね。話そう。僕に何があったのかを。」
 そうして私とマレーは入院している本物のフォンツベルン氏から、あのミリッツという男がある日襲ってきて、魔力を奪われてあの鉄格子の中に幽閉されて、自分の名前を騙って好き勝手やり始めた、と話してくれた。そこで私は再び出てきたワード、“魔力を奪われた“という話に食いついた。
「魔力を奪われたって…?」
「ああ、僕もあんな感覚は初めてでね…、全身の力が抜ける感じで、魔法を使って抵抗しようにも力が入らないんで、何もできずにあの洞窟の鉄格子の中に入れられたってわけさ…。」
「それってサーシャさんも同じこと言ってたよね?」
 私はサーシャさんと本物のフォンツベルン氏の言う魔力が奪われるという言葉に引っかかりを覚えて、重大な何かが含まれていることに気付けずに、モヤモヤしていた。だが、ここでその言葉の既視感を追求していれば、いずれは偽物のフォンツベルン氏に居場所を突き止められて、今度は私とマレー共々幽閉されてしまうので、私は本物のフォンツベルン氏に許可をもらって、ラケナリアにあるインディゴの警察に偽物のフォンツベルン氏の悪行について匿名で情報を送った。
 そして数日後。私とマレーの元に元気になったサーシャさんがやってきた。
「二人とも、偽物のフォンツベルンを騙っていたミリッツってやつ、警察に捕まった話はもう聞いてる?」
「はい。今朝新聞で確認しました。今では数々の悪行のボロが出始めてて、重罪は免れないと書いてありました。よかったですよ、捕まって…。」
「二人のおかげよ。あんなやつ、アンノーンに襲われればいいんだわ。」
「全くもってその通りです!」
 私たちはそう言って、サーシャさんの生まれ故郷であるフロックスの酒場で豪華な料理と共に祝杯をあげていた。本物のフォンツベルン氏も退院できたようで、偽物のやつとその仲間たちに一生働いても返せないほどの金額の慰謝料を払わせることにしたそうで、彼らは重罪人としてその命を持ってして償うことになると、新聞には書いてあった。そんな一悶着があったが、私たちは無事に情報屋の踊り子として、再び仕事を始めたサーシャさんのお手伝いをしながら、次なる街の解放に向けて、色素の小瓶を集める日々が始まった。
 そんな私たちの様子を影から見ている一人の少女の視線には気付かぬまま。
 
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