輝くは七色の橋

あず

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第11話 大喧嘩

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第11話 大喧嘩
 私たちの旅の目的が明確になったことで早速動き始めた。まずは都市の色の解放。次なる都市はレディカのシンボルの火山を中心として北部に位置するカリステモンという街だ。
 その街はフロックスの隣にあるので私とマレーは徒歩で向かった。1日かけてフロックスからカリステモンに到着すると、アンノーンが彷徨いていたので、サクッと倒し、色素の小瓶を手に入れた。
「ここのアンノーンもやっぱりカリステモンを解放するために必要な色が多いのかな。」
「そうじゃないかしら。あ、あそこにもアンノーン!」
 アンノーンがドロップした色素の小瓶をマレーが拾い上げている間に私が次なるアンノーンを発見したので、私たちは直ぐに戦闘体制に入り、アンノーンを倒し始めた。
 アンノーンも倒し終わり、私たちは一旦フロックスに戻って先程アンノーンからドロップした色素の小瓶の確認をした。
「街の色を解放するために必要な色素の小瓶の種類が分かればいいんだけど…。」
 マレーが一つ一つ色素の小瓶の色を見て同じ系統の色でまとめる作業をしているとポツリと呟いた。そんな小さな呟きを聞いた私はこういうこともスカイのギルドに属している人ならば研究しているのではないかと。そう思った私はフロックスで宿泊している宿の部屋から自分の魔力鳩を呼び寄せ、手紙を託した。宛先は私の実家だ。お父さんかお母さんに頼んで本屋さんの学術に関する本棚から、街の色の解放に必要な色素の小瓶が誰でも分かる方法を研究している人の本を探して買って届けて欲しいという内容だ。
「(上手いことそんな内容の本があれば良いんだけど。)」
 そう思いながら私は暗い夜になると活発になるアンノーンに警戒し、外で魔法の特訓を繰り返し練習したのであった。
 それからプルウィウス・アルクス王国の両親から手紙の返事が来たのは1週間後のことだった。魔力鳩が持ってきたカゴの中には1冊の本が入っており、私は"まさか!"と歓喜した。直ぐに本をパラパラと捲って本の内容をチェックすると、街の色の解放と色素の小瓶の関係性についての研究結果を記した本のようで私が求めていた内容の本が本当にあったことに驚きつつも、両親に感謝した。きっと探し出すのに苦労したに違いない。お礼の手紙を直ぐに書いて魔力鳩に託した。
 私は両親が見つけてくれた色素の小瓶についての記述がある本を読み込み、どうやったら街の色の解放のために必要な色素の小瓶が分かるようになるのか、その方法を学んだ。流石研究員が揃うスカイが発行しているだけあって、内容は難しいが、今まで興味が湧いたことにはとことん勉強する癖があったので私は苦にならず、どんどん本の内容を取り込んでいった。
 両親から本を貰ってから2週間後。ようやく私は街の色を解放する時に必要な色素の小瓶を知る方法を習得した。ここまで何度も自分の魔力を使って練習を重ねてやっと習得したのだった。そのことをマレーに話すと彼女はびっくりした顔をすると一瞬だけ悲しそうに眉を下げた。それはほんの一瞬だったので、私は自分の気のせいだと思い、深く追及しなかった。そして、早速自分の力になった必要な色素の小瓶の判明方法をマレーとサーシャさんも呼んで皆の前で披露することにした。
 今回街の色の解放を行うのは火山を中心としたレディカの国の北部、カリステモンだ。カリステモンの大地を訪れた私は色がない灰色の世界に手を翳した。
「色を失いし大地よ。魔法を極めし我らに汝が必要とする色素を示せ。」
 私が大地に手を翳して詠唱をすると、ぽわっと手を翳した下にある地面がやさしく光り、そのタイミングで私が真っ白な手帳を開いて翳している手と地面の間に手帳を滑り込ませた。すると見開きの手帳も光ったかと思えば光が文字を浮かび上がった。ほんの1,2分で光は止み、手帳のページには色素の小瓶の名前がびっしりと書かれていた。
「やった!成功だよ、マレー!」
「すごい!アイリスったらいつのまに勉強して習得したのよ!」
 私がぴょんぴょんと跳ねながら成功を喜んでいると、マレーも色素の小瓶の種類が記された手帳をまじまじと見た。そして、私たちはその手帳を使って色素の小瓶を集め始めた。
 カリステモンにやってきてから1週間ほどで私たちは色素の小瓶を集め終わり、そのタイミングでインディゴから派遣された色彩鑑定士と着彩士が到着し、私たちは3つ目の都市カリステモンの色を解放することができたのであった。
 その日はカリステモンの宿屋に泊まっていると、カリステモンが解放されたことを聞きつけたのか、サーシャさんがカリステモンにやってきた。
「2人ともカリステモンを解放してくれてありがとう。噂になってるよ~、色素の小瓶の種類を特定出来たって話。」
「その話も出回ってるんですね。はい、私が街の解放に必要な色素の小瓶の種類を特定して、今回解放することができました。」
「その特定するのに使った魔法について教えてくれる?私も情報屋として需要がありそう情報だと思うし。」
「いいですよ。お教えします!」
 そうして私はサーシャさんにスカイの研究員が書いた本を元に身につけた魔法を教えた。サーシャさんは全ての話を聞き終えると感心したように溜息を吐いた。
「アイリスの勉強熱心なのは感心するわね。でもあんまり根を詰めすぎるといけないわよ。」
「分かってます。でも、双子と再会するため、お姉ちゃんが頑張らないと。」
 私がそう言って拳を握ると、そんな私をサーシャさんもマレーも少し悲しそうな表情で見ていた。何故そんな表情をしているのか私が首を傾げていると、サーシャさんがガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。
「さてと、私はカリステモンが解放されたし都市の酒場を全て回って情報を仕入れたり売ったりしなくちゃいけないしね。ここら辺でお暇するわ。2人とも、元気でね。」
「はい!サーシャさんもお元気で!」
 私たちはサーシャさんを見送り、しばらくカリステモンを拠点として次なる都市の解放のために、マレーがアンノーンを倒しつつ、私はビリジアンの魔法使いとして自然界から採取出来る色素の小瓶を魔力鳩を使って納品していた。
 そんなある日、マレーが私に言ってきた。
「明日からちょっと別行動してもいい?」
「へ?別行動?」
「そう、ちょっと私用事があってカリステモンを離れようと思って。」
「わ、分かった。私はアンノーンとの戦闘をなるべく避けて色素の小瓶集めをしてるね。」
 マレーが何故私との行動を辞めたのか分からなかった。でもマレーにも考えがあってのことだろうと思ってそれを受け入れた。そして次の日からマレーはカリステモンを離れ、私は1人で色素の小瓶を集めてはビリジアンのギルド宛に魔力鳩を飛ばして納品する生活を始めた。
 ――――――
 (マレー視点)
 私はアイリスと別行動をし始めると事前に連絡を取っていたサーシャと合流するため、カリステモンとフロックスの境界線近くの村で落ち合うことになった。私が村で待っているといつものチュニックとレギンス姿でサーシャが現れた。
「マレー。」
「サーシャさん。今回は私の呼び出しに応じてくださってありがとうございます。」
「いいのよ。それで?今回相談したいことって?」
「はい…えと、アイリスのことで…。」
 私たちは村に生える大きな木の下で話し始めた。私が今回アイリスに黙ってサーシャさんと会っているのはそのアイリスのことについて相談したかったからだ。
「アイリスがどうかした?」
「あの子、全然休んでないんです。」
「休んでない?宿屋には泊まってるんじゃないの?」
「はい。私と一緒に宿屋には泊まっているんですけど、夜になると1人で部屋を出て夜にしか採れない色素の小瓶を集めたり魔法の練習をしているようなんです。だから、全然休んでなくて…。あの子は双子を連れ去られて自分が付いていながら攫われたことを後悔してて、その気持ちだけで今動いているんです。そんなあの子がいつか体を壊してしまうんじゃないかって心配で…。」
「ふむ…。私はアイリスがそんなに弱いとは思わないけどな。」
 サーシャさんはケロッとした表情でそう言った。あまりにも軽い調子で言ったので私は拍子抜けしてしまった。
「ど、どうしてアイリスが弱いって思わないんですか?だってあの子、まだ16歳ですよ!?色々なものを一気に背負ってしまったのに…。」
「だからだよ。」
「え?」
 私はサーシャさんが言おうとしている真意に気づくことができなかった。でも、その答えはサーシャさんに聞くよりも自分で考えた方が身のためになると私はそう感じた。
「アイリスはマレーが思っているよりもずっと強いわ。それを分かってあげて。」
「サーシャさん…。」
「ま、私もまだまだ人生経験が浅いから参考にはならないアドバイスかもしれないけど。人を見る目は情報屋として備わっていると思うから。考えても考えても結論が出なくて、戦闘に支障が出るほどだったら、しっかり本人と話し合いなさい。」
「…わかりました。」
 こうして私はサーシャさんに答えを出すように宿題を出された。私は真剣にアイリスと向きあうために、アイリスが寝泊まりしているカリステモンの宿屋に戻った。アイリスが泊まっているのは私の部屋の隣だ。まだ日が落ちていないので、彼女はまだ帰ってきていないだろうと思うし、今自分の中で答えが出ていないのに、アイリスに会うのはまだ早いと思った。だから、その日から私はなるべくアイリスと鉢合わせないように行動をした。それがアイリスにとってどんな思いを抱くのか分かっていなかった。
 ――――――
 (アイリス視点)
 私とマレーが別行動をし始めてから数日後。マレーはあからさまに私を避けるようになった。最初は何故マレーは私を避けるのか分からなかった。でも、一人の時間が増えて、考える時間も必然的に増えた。すると、私の中でマレーの考えていることがわからなくなり、彼女は今私と一緒に旅をしてて楽しいのか、ガレットさんのいる道場に帰りたいんじゃないか、そう不安に思えてきてしまった。
 そしてそんな私の思いが爆発する出来事が起きる。
 その日は私はカリステモンの次に解放する街のことについて調べていた。夕方になり、次第に外が暗くなり始めたので、私はランタンに火をつけて、勉強をしていた。そんなとき隣の部屋の扉が開く音がしたので、私はここ最近私を避けているマレーが帰ってきたのだと分かった。暗くなるまで何をしていたのか、そんな些細な疑問が膨らんで気づいたら、私はマレーの部屋の扉の前にいた。そして意を決して扉をノックすると、中から“はい“と返事があったので、私は扉を開けた。そこには私が泊まっている部屋と同じ構造の部屋が広がっていて、扉を開けたのが私だと思っていなかったのか、マレーが驚いた表情で、ベッドに腰掛けて固まっていた。
「マレー、暗くなるまで色素の音小瓶集めをしていたの?」
「う、うん。おかげでたくさん集まったし、もう少しで次の街の解放もできるかなって…。」
「暗くなったら外は危険だよ!アンノーンの活動だって活発化するし…。」
「それはアイリスが言えること?」
「え?」
 私は心配する気持ちからマレーに言ったのに、マレーは悲しそうな表情をして、ベッドから立ち上がった。
「アイリスだって、夜中に夜にしか採取できない色素の小瓶を取りに行ったり、アンノーンとの戦闘の練習してるでしょ。人のこと言えないじゃない。夜は危険だって、心配しているんだって、私も同じ気持ちになってるとは思わないの!?」
「だ、だって私は魔法の飴玉を作ることしかできないから、少しでもマレーの役に立ちたくて修行を…。」
「修行なら私と一緒にすればいいじゃない!どうして頼ってくれないの!?」
 次第に語気が強くなっていくマレーに私も次第に口調が刺々しくなり、口喧嘩に発展してきた。
「私はお姉ちゃんなのに双子を守れなかった!だから力不足なの!強くならなきゃいけないの!寝ている時間なんて惜しいことしないわ!」
「ちゃんと休んでよ!倒れてからじゃ双子ちゃんだって助けられないの分からないの!?」
「だから休んでいる暇は…!」
 私は“休んでいる暇などない“、マレーは“休んで“の一点張りで、私たちはそれぞれの主張を曲げることなく、遂にはそっぽを向いて私は荒々しくマレーの部屋の扉を開けると、「もうマレーなんて知らない!」と怒って部屋を出た。
 
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