輝くは七色の橋

あず

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第10話 魔力の泉

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第10話 魔力の泉
第10話 魔力の泉
 洞窟の中を照らしながら、迷うことなく突き進んでいくサーシャさんに私たちはついて行くのでやっとだった。洞窟に入って数分もすれば水の音が聞こえてきた。
「水の音…?」
「もう少しで魔力の泉よ。」
 サーシャさんの光属性の魔法の明かりが照らす先には、ぼんやりと光る魔力の泉が見えた。サーシャさんの故郷なだけあって、サーシャさんはこんな穴場の魔力の泉の場所を知っていた。ここならアンノーンには見つかりづらい。
「さ、魔力の泉の水を飲んでいいよ。」
「えっ、飲んでいいんですか?」
「もちろん。私小さい頃からこの魔力の泉の水を飲んで育ったんだから。」
「じゃ、じゃあ、いただきます…。」
 私たちはサーシャさんに勧められるがままに、魔力の泉に近付いて、そっと両手で水を掬って、口に含んだ。すると体の内側から込み上げてくる魔力を感じた。私の魔法の飴玉の効果は魔力の強化だ。魔力を回復する力はないが、そこは自然に魔力が回復するのを待つか、スカイの研究員が作ったと言われる魔力を回復する効果があるとされる薬を飲む以外には方法はなかった。だが。この魔力の泉の水を飲んだ瞬間、私の体の中の魔力が回復する感覚があった。
「は、初めて魔力の泉の水を飲みました…、すごい!魔力が回復する感覚が分かりました!」
「あはは、反応が初々しいね~。私も小さい頃初めて飲んだ時もそんな感じだったよ。まぁ、二人が元気になったようで、私は安心したよ。」
「サーシャさん…。」
 サーシャさんは私たちがゴデチアから帰ってきたときに、元気が無く溜息ばかりついていたことを彼女なりに心配してくれていたのだった。それで自分の故郷にある魔力の泉の水を飲ませることで、元気を出してもらおうと考えたようだった。彼女の気持ちに私は嬉しくなって、笑顔で「ありがとうございます、サーシャさん。」とお礼を言った。それはマレーも同じようでペコリと頭を下げていた。
「さ、二人も元気になったし、二人にはまだ付き合ってもらうからね!まずは来た道を戻って洞窟を出よう!」
「まだ何かあるんですか?」
「ふふ、それは洞窟を出た後のお楽しみよ。」
 なんだか企んでいるようなサーシャさんの笑顔に私はごくりと喉を鳴らした。そして洞窟を抜けて、私たちはフロックスの中心街へと戻ってきた。するとそこには二人の人物がいて、その二人に私は面識があった。
「ハヅクさん、フルスナさん!?」
「どうして二人がここに…?」
 私とマレーはびっくりしつつも二人に駆け寄った。ラケナリアを解放するときにお世話になったインディゴの魔法使いで、忙しい身であると聞いていたが、まさかこんなところで会うとは思ってもみなかった。
「もしかして、サーシャさんが言ってた付き合ってもらうことって…。」
「そう!ここ、フロックスの色の解放をハヅクさんとフルスナさんに手伝ってもらおうと思ってね。私が依頼したのよ。」
「で、でも、私たち色素の小瓶はまだ集め切れてなくて…。」
「ああ、それなら、サーシャさんが集めてくれたと聞いてるから。」
 私がサーシャさんのしたり顔を見て、ハヅクさんとフルスナさんがここにいる理由を推察すると、サーシャさんはいたずらが成功した少年のようなニコニコの笑顔で答えた。そして、サーシャさんの故郷であるフロックスの色の解放をしようと自分で色素の小瓶をも集めていたのに、私は感心した。
「とはいっても、私は情報屋だし、街一つ分の色素の小瓶を集めるのも限界があってね。アイリスとマレーが集めた色素の小瓶も足してくれるとありがたいんだけど…。二人とも、私が情報屋の伝手で怪しげな人物の情報を探しているときに、森で色素の小瓶を集めていたんでしょ?だったら、少しいいかな…?」
 サーシャさんが少し気まずそうに頼み込んできたが、私たちが集めている色素の小瓶は最初からレディカの都市の解放のために使うものであったので、私は笑顔で腰のポーチから集めていた色素の小瓶をサーシャさんに渡した。
「サーシャさんにはお世話になったので、是非この色素の小瓶を使って故郷の色を取り戻してください!私、サーシャさんの生まれ育った街の色、見てみたいです!」
 私が差し出した色素の小瓶を受け取ると、サーシャさんは深々と頭を下げた。
「本当にありがとう!さぁ、ハヅクさん、フルスナさん。出番ですよ!」
 サーシャさんは自分の腰のポーチからも数本の色素の小瓶を取り出すと、まずは色彩鑑定士の資格を持つ、ハヅクさんに手渡し、鑑定をしてもらった。ここでは時間がかかってしまうので、私たちはハヅクさんの鑑定の邪魔にならないように、街をうろついているアンノーンを狩って時間を潰した。
 そして20体目のアンノーンを倒したところで、ハヅクさんの鑑定が終わったようだった。そして次は着彩士の資格を持つ、フルスナさんの出番だった。彼の魔法は一度この目で見てはいたが、再び街に色が戻る瞬間を見れて、私は感動した。フルスナさんの幻想的な魔法を見て、眩しさから目を瞑ってしまい、次に目を開けたときには、フロックスの街は色づき、アンノーンによって色を失い、時間が止まっていた人間たちも元に戻り、街全体が一気に活気づいていた。
 フロックスの街の色が解放されたのは、もう何年も前だとハヅクさんが言っていた。そんな色を取り戻した街にサーシャさんは言葉を失っていた。自分の生まれ育った街の色が元に戻ったのだから、感激するのも当然だろうと思い、私たちはサーシャさんの時間を邪魔しないように、少し離れて、街の様子を窺った。
 そしてフロックスの街で棒立ちしているサーシャさんに街の人が気付いて、声を掛けていた。すると、あのサーシャが戻ってきたよ!と他の人を呼び、あっという間にサーシャさんは街の人に囲まれて、やんややんやと話しかけられていた。小さい頃の思い出が蘇ったようで、サーシャさんは嬉しそうに話をしていた。そんな彼女の笑顔を見て、私たちも笑顔になって見守っていたのだった。
 ――――――
 それからようやく街の人たちが離れてサーシャさんの姿が見えるようになると、私はサーシャさんに駆け寄った。
「ふふ、サーシャさん人気者でしたね。」
「こんなに大きくなって…って涙ぐんでた人もいましたね。」
 私とマレーがそう言ってサーシャさんに近付くと彼女の目にはきらりと光る涙があった。
「あっ…、私ったら久々に街の人と話して、感動しちゃって…。」
 涙を拭う彼女に私たちはそっと抱き締めた。すると堰を切ったようかのようにサーシャさんは泣いた。今まで情報屋の踊り子として毅然と振る舞っていたのであろう。こうしてほとんど自分の力で街の色を復活できて、自分の知り合いに囲まれて昔の話が出来るようになって。胸の中から込み上げる嬉しさは私には計り知れなかった。
 サーシャさんが泣き止んでから私たちはサーシャさんのおすすめのフロックスの料理屋さんに足を運んだ。ラケナリアでは激辛料理だったが、フロックスではどんな料理が…と私とマレーが期待を込めて入店すると、そこはおしゃれなカフェだった。なんとなく安心した私たちは席に座るとメニュー表を見て涎がじゅるりと鳴った。イラスト付きのメニュー表に載っているカフェのランチはどれも美味しそうで私たちは目移りしてしまった。
「じゃあ、私ホットケーキランチセットで!」
「私はミックスサンドランチセット。とコーヒーで。」
「わたしは~…」
「サーシャさんはいつものね?」
「!!…お願いします!」
 私とマレーが注文した後サーシャさんがメニュー表を見て注文しようとした瞬間、店員はサーシャがいつも頼むメニューを知っているようで、ここでも彼女の故郷なのだと実感させられた。
 そして料理が来るまでの時間。私たちは次なる目的について話し合うことになった。
「あの黒づくめの男の次なる目的だけど…、魔力の泉なんじゃないかと思ってる。」
「私もそう思うわ。セラサイトの火山の火口付近の魔力の泉があった方角からその男が歩いて来たのよね?」
「うん、確かそうだったと思う。ね、マレー。」
「うん。魔力の泉よりも火山のマグマの方が色素の小瓶作り放題で自然の魔力も豊富だと思うけど…。」
「まぁ、自分からマグマの魔力を吸い取るには至難の業でしょうね。簡単に魔力の泉の魔力を吸い取って…そのアイリスたちが見たっていう虹色の鉱石が魔力の結晶だと思われるわ。」
「魔力の結晶…。だから、あんなに膨大な量の魔力を使って地面を抉り取るほどの大魔法が打てたんですね…。」
 そこまで推測が捗ったところで、注文していた料理が届いたので、話し合いは中断し、カフェランチを堪能した。
 カフェでの作戦会議も他のお客さんの邪魔になると思ったので、場所を移動し、フロックスの宿屋にチェックインしてアイリスが寝泊まりする部屋に集まって先ほどの話の続きをし始めた。
「でも、魔力の泉の魔力をどうやって結晶にするの?」
 サーシャさんの言葉に私もマレーもその方法を考えてみるが、魔力を結晶化する方法なんて聞いたことがない、と思っているとふと私の頭の中に魔力操作が出来るものと魔力を結晶化する魔法を持つ人物を思い出した。
「シダヤとノゼルだわ…。」
「え…?シダヤくんとノゼルちゃんってアイリスの双子の兄妹じゃ…。まさか…!」
「ええ、そのまさかかもしれないわ。あの男、シダヤとノゼルの魔法を知ってて誘拐してシダヤの魔力を結晶化する魔法とノゼルの魔力を吸い取ったり吹き込んだりすることができる魔法を使ったんだわ!」
 シュガーツ家の子供の魔法はどれも稀有なもので両親がびっくりしていたのを思い出した。だが、双子はまだ魔法の能力制御するには幼すぎる。暴走して魔力に飲み込まれてしまったら、命を落とす危険性だってある。私は双子の力を使ってあの男が色素6カ国に散らばる魔力の泉の魔力を結晶化させて自分のものにして何かをしでかすかもしれないと結論づけた。
「ってことは早く双子ちゃんを回収しないと、あの男何をするか分からないよ!この世界の魔力の泉全部を手に入れて膨大な魔力を手にしてしまったら何が起きるか分からないもの…!」
「そうだよね…、いち早くプラムの魔法使いに警備の申請をしましょう。」
 私の言葉にサーシャさんが顔を青ざめて答えた。プラムの魔法使いの仕事は魔力の泉をアンノーンの襲撃から守ること。だが、ここ最近プラムの魔法使いの数が少なく、1人が担当する魔力の泉の数は5個とか6個が平均的らしい。それでは他の魔力の泉を守っている間にあの黒づくめの男に別の場所が襲撃されて仕舞えば、元も子もない。どうすれば魔力の泉を守ることができるのか…私たちは宿屋の部屋の中でうんうん唸りながら作戦会議をした。
「とりあえず他の同業者にも情報の売り買いをしてまた怪しげな人物と魔力の泉の変化について調べるわ。」
「それと魔力の泉を守るための魔法を考えないといけないかもですね。」
「魔力の泉を守るための魔法ねぇ…。そんな風に都合よくあるかしら…。」
 サーシャさんは記憶を辿っているようで空を見つめていたが、私は諦めていなかった。前にマレーからお勧めされたスカイの研究者が著者の本にあった、"魔法属性の掛け合いで生まれる新たな魔法属性の可能性について"の本を思い出した。昔は魔法属性がきっちりかっちり決まっていて、私や双子のような新世代よりも前に生まれた両親たち旧世代では魔法属性から直接的に派生する魔法しか認知されておらず、魔法属性に準ずる魔法しか生み出されてこなかった。だから、プラムの人で魔力の泉を守ることのできる魔法を使うなら新世代の若者がいいだろうと私は考えた。
「じゃあ、まずはレディカの7都市全てを解放するのと、魔力の泉の場所の特定、あとはプラムの魔法使いになれそうな魔法が使える人材の捜索…ね!やることいっぱいだけど、頑張りましょ!」
「うん、そうだね!」
 こうして当面の目的が決まったことで、サーシャさんは私の部屋から出ていくことに。その帰り際にマレーがサーシャさんの耳に唇を寄せて一言こそこそと何かの言葉を発したのを私は見逃さなかった。でも、秘密のことなんだろうし、聞き出すのは無粋かなと思い、私は聞くのをやめて、サーシャさんは情報収集のために数日はレディカとプルウィウス・アルクス王国を行き来することになると言って別れた。
 マレーがサーシャさんに耳打ちしていたのは…

「今度時間作ってください。アイリスのことで相談があるんです。」
 
 
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