輝くは七色の橋

あず

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第9話 ようやく

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第9話 ようやく
 魔力鳩の後を追いかけて辿り着いたセラサイトという街は火山の麓の街であり、色の解放をしていないためか、人の姿はなく、私たちは真力鳩が未だに飛び続けているのを見て、まだどこかに魔力の泉があるのだと思った。
「まだ魔力鳩が反応しているね。どこに魔力の泉があるんだろう…?」
「もしかして火山の方とか?」
「そうかもしれないね…、行ってみよう!」
 私たちは魔力鳩が飛んで行く方向に向かって走り続けた。魔力鳩は一向に止まる気配はなく、私たちはついに火山の登山道まで来てしまった。火山の火口付近へ向かう登山道を登り始めて、2時間。時折休憩を挟みながら登ってきた火山の火口の中は国全体が色を失っているのに、マグマが轟々と煮えたぎっており、赤とオレンジが混ざったような色で、自然の色素の小瓶が何百個とできそうなほどの魔力を含んでいるように見えた。
「国全体の色が失われても、火山のエネルギーは尽きないんだね…。すごい。」
「アイリス!!」
 私は火山の暑さで額の汗を拭っていると、焦ったようなマレーの声で名前を呼ばれたので、びっくりしてマレーの方を見た。すると彼女の視線の先には、黒づくめの外套を羽織り、大きな麻袋を担いでいる人物が私たちのいる場所に歩いてくるのが見えた。
 向こうもこちらに気づいた瞬間、くるりと向きを変えて別の方向に走り始めた。
「待ちなさい!」
「マレー、これ舐めて!」
 私は走り始めたマレーに向かって身体強化の魔法の飴玉を投げて、彼女に魔法を付与させた。身体強化の魔法が発動して、マレーの足は一層早く動き、あっという間に逃げた黒づくめの人物まで追いついた。そしてマレーが手を伸ばして、黒づくめの人物の外套を掴むと、ぐいっと引っ張った。
 バサリという音と共に外套が取れた人物が露わになった。その人物はこの世界では珍しい黒髪にあの印象的な金色の瞳を持っていた。その人物は見た目からして、中性的な見た目をしているが、男性のようで背格好は高く、筋肉がついているのかがっしりしていた。
「あなたね!私の双子を返しなさい!」
「……お前たちに二人を渡すわけにはいかない。」
 初めて聞いた目の前の男性の声に私は聞き覚えはなかった。でも、対話の余地がないのなら力づくで返してもらうしかないと私もマレーも魔法を発動しようと杖と耐熱グローブを構えた。目の前の金色の瞳の男は担いでいた麻袋を地面に置くと、腰のポーチから虹色に輝く鉱石のようなものを取り出すと、ボリボリと食べ始め、そしてごくりと飲み込むと、手のひらを私たちの方に向けた。
「!!」
 そして魔力を込め始めたのを見て、私は魔法の障壁を張って防ごうと思ったが、それよりも先にマレーが私を抱き上げて、男性とは反対方向に走り始めた。
「ちょっと、マレー!男は反対方向だよ!?逃げるの!?」
「やっと見つけた相手だっていうのは分かるけどあれはまずい!」
「まずいって何が!?」
 私を担いで火山の登山道を駆け降りる必死の形相のマレーに私は訳が分からず、質問をしていた。だが。そう話している直後。私たちがいた火山の火口の場所から膨大な魔力で作られた黒い球体が火山の火口から円形上に広がった。
「アイリス、掴まってて!」
「わっ…!」
 黒い球体はどんどん広がっていき、私たちも飲み込まれそうになっているので、私はマレーに言われた通りにしっかりとマレーの体を掴んで落ちないようにした。それを確認したマレーはジャンプをしてから、はめていた耐熱グローブに火属性の魔法を発動させて、灼熱の拳を作り上げると、マレーは後ろ向きになって、黒い球体の方に向かってパンチを数発繰り出した。灼熱のパンチによって私たち2人はグンッと黒い球体から遠ざかった。
「マレーすごい!黒い球体から離れてるよ!」
「まだまだ!」
 それから球体から離れるために、マレーが何度か黒い球体に向かってパンチを繰り出して灼熱のパンチの衝撃波で球体から離れた。登山道を抜けるころには、球体は広がる限界を迎えたのか、静かに空気中に黒いモヤになって溶けるように四散していった。
 黒い球体に飲み込まれることなく、私たちは火山の麓の街、セラサイトに戻ってくると、先ほどまで私たちがいた火山の火口付近から登山道の中腹まで、大地が抉り取られていた。
「何あれ…黒い球体がクレーターを作っちゃった…。」
「あの男の発動した魔法だろうね。虹色の鉱石を飲み込んだ直後から魔力に変化があった。人間が持てる魔力の量を遥かに超えてた…それを感じ取ったから私は離れることを選んだの。急に担ぎ上げて逃げちゃってごめん…。」
「ううん。あれは確かに巻き込まれたら、私たちも塵になってたよ。あんな魔法初めて見た…。マレー、助けてくれてありがとう。」
 私たちはそのままククレーターが出来上がった場所を放心しながら見つめた。
「(折角双子を連れ去った相手を見つけたけど…。あの虹色の鉱石はなんだったんだろう…。私たちは知らないことが多すぎる。あの男のことを調べなきゃ。外見は覚えた。サーシャさんにも聞いてみよう。)」
 そんな風に考えると、私はマレーのほうを見て、「ラケナリアに帰ろう。」と提案した。マレーもしばらくはクレーターを見つめていたが、私の視線に気づいて、小さく頷いてくれた。
 私たちはゴデチアの街を経由してラケナリアの街に帰り、魔力を回復するためにも酒場を訪れて、食事をしようと思った。だが、あのような凄まじい魔法を目の当たりにして自分たちの無力さを感じたので食欲など湧くはずもなく、とりあえず頼んだオレンジジュースをちびちびと飲みながら、私ははぁ…とため息を吐いた。
「なんかここだけ辛気臭いわね…。」
「サーシャさん…!」
 私たちのそばには踊り子としての衣装ではなく、普段着であろうチュニックとレギンス姿で呆れた表情をしているサーシャさんが立っていた。私たちの元気のない姿を見ると、サーシャさんは次々と料理の注文をして、パクパクと食べ始めた。
「私が売った情報で何か進展したんじゃないの?」
「はい…。サーシャさんの情報をもとに私たちゴデチアに向かったんですけど…。枯れ果てた魔力の泉を発見したんです。それで私たちが追いかけている人物の目的が魔力の泉の溢れ出る魔力じゃないかと思って…。魔力鳩の力を使って捜索したら、セラサイトの街まで行って…。火山の登山道を登ったら、お目当ての人物に出会えたんですけど…その…。」
「ふむ、セラサイトね。それってついさっき急にできたっていうクレーターと関係ある?」
「クレーターの話、もう出回っているんですか!?」
「そりゃあね。あれだけ大きくて地面がごっそり抉れてるクレーターがなんの前触れもなく、できたんだもの。アンノーンの仕業じゃないかって今、情報屋の間ではその話で持ちきりよ。もしかしてだけど、二人が追っている人物がそのクレーターを作り出したってわけ?」
 サーシャさんに先程私たちが体験した話をすると、彼女も彼女で情報屋として情報を集めているらしく、私たちの話に食いついてきた。私たちが追っている人物の外見を話して、私たちは自分たちの情報をサーシャさんに買ってもらった。彼女の人脈を使えば、あの男が危険人物であることは周知されるし、双子のように連れ去られる第二の被害者が現れることはないだろうと思った。
 たくさんの料理を注文して一人で全て平らげた、サーシャさんの目の前で私たちは振り出しに戻ってしまったことで、ため息を吐いた。
「折角美味しい料理を食べたのに、目の前でそんな大きなため息を吐かれたら、気分が悪くなっちゃうわ。これからのことを考えるべきなんじゃない?」
「これからのこと…?」
 サーシャさんの言いたいことがわからず、私はオウム返しをした。彼女は食後のコーヒーを飲みながら、ピッと私に向けて指を差した。
「そう。追いかけている人物の目的を阻止するの。先回りして目的を阻止すれば、双子ちゃんを助けるのも男を突き止めるのもできるはずよ。」
「あの男の目的か…。もしかしてあの虹色の鉱石のことも…?」
「さっき言ってたやつね。虹色の鉱石なんて私は聞いたことも見たこともないけど…。恐らくゴデチアで枯れていた魔力の泉と関係あるかもしれないわね。」
「魔力の泉と虹色の鉱石か…。ありがとうございます、サーシャさん。前を向けそうな気がします。」
「いえいえ。あ、そうだ。私魔力の泉の場所に心当たりがあるの。元気のないあなたたちを案内してあげるわ。」
そう言ってサーシャさんはウインクをして、私たちを見た。私とマレーはサーシャさんの考えていることがわからず、首を傾げた。その後、サーシャさんは翌日の朝9時にこの酒場で待ち合わせね、と言って酒場を出て行った。そして私たちはこの数日でろくな睡眠をとっていなかったので、酒場の近くにある宿屋に泊まって、泥に沈むような眠ったのだった。
 ――――――
 そして翌日。昨日は早い時間に眠ったので、合計で10時間ほども眠った。体の疲労感はなくなり、私は部屋の窓から差し込む太陽の光を浴びて、体を伸ばした。そして朝ごはんを食べるために、昨日サーシャさんと話していた酒場を訪れて、簡単な料理を頼み、店の前で配られていた新聞を何気なしに読んでいると、私と同じことを考えてきたらしいくマレーも酒場にやってきたので、私はマレーに向かって手を振った。
「マレー!」
「アイリス…!おはよう。よく眠れた?」
「うん、そりゃもうぐっすり。10時間は寝たわね。」
「あはは、アイリスもそのくらい寝たんだね。よかった。今日はサーシャさんが魔力の泉に連れてってくれるみたいだけど…。」
「そう言ってたよね。どこに行くんだろう。」
 そんな話をしていると、私が注文した料理がやってきたので、食事をはじめた。只今の時刻は9時。サーシャさんとの約束の時間まで1時間はあるので、私たちはゆっくりと朝ごはんを食べて、宿屋のチェックアウトも済ませておき、サーシャさんがやってくるまで、酒場で新聞を読み漁っていた。
 10時を少し過ぎて、サーシャさんが酒場にやってきた。
「二人ともおはよう。疲れていただろうから、よく眠れたでしょう?」
「はい、そりゃもう。」
「さて、そんな二人を元気にするためにも、今日は私の知っている魔力の泉に向かうわよ!」
「サーシャさんの知る魔力の泉ですか。どこにあるんですか?」
「フロックスっていう街よ。私の故郷なの。」
 酒場を出て、歩きながら私はサーシャさんに質問した。彼女は地図を見せながら、私に故郷のフロックスの話をしてくれた。故郷の話をしている時のサーシャさんはとてもイキイキとしていて、私はサーシャさんは故郷のことが大好きなんだな、と思った。
 目的地のフロックスまでは途中、ヘリコニアという都市を横切る必要がある。今回は移動に時間がかかるので、私たちは乗り合いの馬車に乗って、フロックスの近くまで行くことになった。
 馬車の中でもサーシャさんは人気者ですぐにあの情報屋の踊り子だと一緒に乗っていたおじいさんから話しかけられても、うまい具合に相槌を打ち、話を聞いていた。おじいさんの目的地はヘリコニアらしく、自分の故郷に帰り、少しでも色の解放のために、自然の色素の小瓶を集めるのだと話してくれた。
 私もビリジアンの魔法使いとしてそろそろ、色素の小瓶をギルド本部に向けて納品しないとギルドの所属権を剥奪されてしまう。フロックスの街へ行ったら、おじいさんおすすめの自然から採取できる色素の小瓶を集めようかなと思っていた。
 数時間も馬車に揺られていたら、いつの間にか眠ってしまい、ヘリコニアには後数分で着くという話だった。
 相席していたおじいさんとも別れ、私たちはようやくヘリコニアを横切り、フロックスの街へやってきた。フロックスの街に着くと、サーシャさんは街の様子を見るわけでもなく、すぐに目的の魔力の泉があるという都市の近くの森の中へと案内してくれた。
「ここに魔力の泉があるのよ。」
 サーシャさんが案内してくれたのは、真っ暗な洞窟で、サーシャさんは自分の魔法属性であるらしい光属性の魔法で、近くに落ちていた枝の先に光を灯した。そして暗闇の中を突き進んでいったのだった。
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