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第7話 色彩鑑定士と着彩士
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第7話 色彩鑑定士と着彩士
私はマレーと一緒にパティスリー・シュガーツを出発すると、まず向かったのはプルウィウス・アルクス王国と隣国炎の国レディカとの国境にある村だった。そこまで行くには広い4エリアの外周を出る必要がある。外周の走り込みをしたことがあるので、外周までの道のりはすぐだったが、国境付近の村までは半日程度歩くほどだった。
「王国がこんなに広いとは思ってなかった…。」
「そうだね…、いつも4エリアで過ごしてたから、国外の色素6カ国に出るまでにこんなに時間がかかるとは…。」
いくら走り込みをして体力が増えていると言っても1日で国境の村まで行くのに休憩無しでは身が持たなかったので、私とマレーは時々休憩を挟みつつ、なんとか王国の国境の村までやってきた。
村の名前はアディソン村(むら)。国境付近の村ということで、立ち並ぶ家も少なく、私たちは運良く出会えた村の人の家に泊めてもらえることになった。
野宿をする羽目にならなくて良かったと、2人で与えられた部屋の中のベッドでのんびりしていると突然カンカンカン!とけたたましい鐘の音が村全体に鳴り響いた。
「な、何事!?」
「外に行ってみよう!」
私たちは泊めてもらってる家の外に出るとレディカとの国境付近のところで剣戟の音が聞こえるのに気が付いた。
「もしかして、アンノーンとの戦闘?」
「そうかもしれないね…。どうする?」
「もちろん、加勢しに行くよ!」
マレーの質問に私は自信たっぷりに答えて、2人で剣戟の音がする方へと走った。少しずつ夕焼けも落ち暗くなり始めていたが、灰色をしたアンノーンはまだこの夕焼けが残る外では異様な暗さを放っていた。
「増援に来ました!」
「おお、旅人さんか!アンノーンが現れたんだ、攻撃系の魔法が使えるなら加勢してくれ!」
「分かりました!アイリス、体力強化の飴玉ある?」
「あるよ!はい、マレー!」
私は事前に作っておいた飴玉を腰のポーチから取り出すとマレーに渡した。マレーが飴玉を舐めてアンノーンに向かって走り出した。
マレーの魔法はレッドとオレンジ。つまりは火属性と身体強化の魔法属性ということである。マレーの魔法は耐熱グローブに火属性の魔法と身体強化の魔法を拳に掛けて灼熱の拳を作り出して殴る。というスタイル。道場の娘というには分かりやすく彼女らしい魔法の使い方だと思う。
私はマレーがアンノーンと闘い始めたのを確認してから戦線を離脱してきた魔法使いに駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ…。夜になると村の明かりを求めてアンノーンたちがうろつくんだ。一時期は大人しかったのにどうして今になって…。」
「今になって活動が活発化したんですか?あ、これ私が作った魔法の飴玉です。回復魔法ではないので、疲れが吹っ飛ぶ…とかではないのですが、身体強化と魔力強化が掛かります。いくつかお渡ししますね。」
「活動が活発化し始めたのはここ1ヶ月くらい前からかな。昼間でも夜でも関係なく、突然現れては村にある数少ない農作物を荒らしたり、色素の小瓶を採取出来るような植物をあさりに来るんだ。」
私は自分のポーチから魔法の飴玉を複数個掴み取ると魔法使いの男性に手渡した。魔法の飴玉の話をすると、男性は少し訝しげに見たがパクリと飴を舐めるとじわじわと体の奥底から力が湧いてくる感覚があったのか、このすぐに立ち上がった。
「こりゃ、すごい!体力強化と魔力強化か!ありがとう嬢ちゃん!」
「いえいえ!私にはこれくらいしか出来ませんから!」
その後も私はアンノーンを倒すために力を尽くしてくれている魔法使いの人と接触を図り、魔法の飴玉の効果を説明しながらいくつか配り歩いた。ポーチの中の飴玉が無くなる頃には、村を襲いに来たアンノーンは全滅したようだった。
私はオレンジのウェーブがかかったマレーの特徴的な髪色を探した。それは直ぐに見つかったので私は手を振ってマレーに駆け寄った。
「マレー!大丈夫?怪我はしてない?」
「アイリス!私は大丈夫よ。さっきの戦闘でアンノーンがドロップした色素の小瓶がいくつかあるから、今度王国のインディゴの魔法使いをこの村に派遣してもらって炎の国レディカの国境の都市、ラケナリアの色を解放しようかと思ってるの。」
「アンノーンからドロップした色素の小瓶ってどれくらい?」
「そうね、今回ので10本程度。都市1つ分の色素の小瓶は50本程度とされているから、ここ最近活発化してるアンノーンがいるらしいからそいつらと戦ってれば50本の色素の小瓶も直ぐに集まると思うわ。」
「私もその話聞いた。なんでも1ヶ月くらい前からアンノーンの行動が活発化してるって…。」
「その原因も突き止めたいところだけどね。まずは双子を攫った黒づくめの奴の情報も欲しいし…。」
「やることいっぱいだね。」
顎に手を添えて考える仕草をするマレーに私は苦笑いをした。双子の情報を掴みたいし、国境の都市ラケナリアの解放もしたいしで、やらなければならないことが山積みで私たちは忙しい日々を1週間程度続けることになった。
――――――
国境の村、アディソン村に着いてから1週間でアンノーンからドロップした色素の小瓶を50本、集め切ることができた。それを宿として提供してくれている家の部屋でマレーは色素の小瓶を並べて見た。
「アンノーンがドロップする色素の小瓶にも系統があるみたいでね。炎の国レディカが近いせいか赤系統の色素の小瓶の種類が多いわね。」
「やっぱり赤がモチーフカラーになってるから、かな?」
「恐らくね。さて、色素の小瓶も50本揃ったことだし、王国の色彩鑑定士と着彩士の魔法使いの要請の手紙も恐らくインディゴの本部に届いてるだろうから、そろそろ派遣されて来ると思うんだけど…。」
マレーは部屋の床に並べた色素の小瓶を集めて村の人から借りた木箱の中に丁寧に詰めていった。
それからインディゴから派遣されてきた魔法使いたちが来たのは翌日のことだった。
アディソン村に襲撃してきたアンノーンを倒し終わったところで、村の方から派遣されてきた魔法使いの話を聞いて私とマレーは直ぐにその人のところに向かった。
どうやら村の人から話を聞いたのか、インディゴの魔法使いの深緑の髪色の女性とそれよりも淡い翡翠色の髪の毛の男性は私たちが寝泊まりしているご家族を聞いたようでその家でお茶を貰っていた。
「あなた方がインディゴから派遣されてきた、色彩鑑定士と着彩士の魔法使いの方ですか?」
「はい。私は色彩鑑定士のハヅク。今回炎の国レディカの国境付近の都市ラケナリアの色の解放に向けて色素の小瓶を50本用意できたと聞いてきました。」
「今こちらにお持ちします。」
マレーが寝泊まりしている部屋から木箱に丁寧に保管されている色素の小瓶を持って来ると、ハヅクさんは色素の小瓶を1本手に取るとあらゆる角度から陽に透かして見たりチャプチャプと瓶の中身が揺れるのを見たりしていた。
「これはアンノーンからドロップした色素の小瓶ですね。50本全部そうですか?」
「はい。ここ最近1ヶ月ほど前からこの村を襲撃してくるアンノーンを討伐していく中でドロップしたものになります。」
ハヅクさんの質問にマレーが答えていくと、ハヅクさんは色素の小瓶が入った木箱の中から数本の小瓶を取り出して早速仕事を始めた。
そこで今までハヅクさんの隣にいた男性が口を開いた。
「彼女の仕事スイッチが入ってしまったので、ここら辺で私の自己紹介をさせてください。」
「あ!すみません、そうでしたよね!直ぐにご挨拶出来なくてすみません…!」
私が彼の方を見て頭を下げていると彼も苦笑いをしながら両手をブンブンと左右に振った。
そして、ハヅクさんが別部屋で一本一本の色素の小瓶の鑑定をしている間、私とマレー、そして着彩士の魔法使いの方がテーブルを挟んで座ってハヅクさんの鑑定が終わるまで談笑することにした。
「ご紹介が遅れました。インディゴの資格保有者、着彩士のフルスナといいます。」
「私はアイリス・シュガーツと言います。気軽にアイリスとお呼びください。」
「私はマレー・クラウド。武術エリアで道場を開いてるとこの娘です。」
「シュガーツといえば、パティスリー・シュガーツですか!?」
「え、ええ…、そうですけど…。ご存知なんですか?」
「そりゃもう!ケーキはどれも芸術品のように美しく、甘くて舌触りも滑らか…。パティスリー・シュガーツのスイーツはインディゴのギルド内でも贈ると喜ばれる手土産No1ですよ。」
私が自己紹介すると、フルスナさんの目がきらりと輝き、私の顔に近付いた。恍惚とした表情で私のお店を褒めてくれるので、私は嬉しくってニヤニヤしながらフルスナさんの話を聞いた。フルスナさんの頭の中はパティスリー・シュガーツのことでいっぱいで、マレーの自己紹介を忘れてしまっているような気がした。マレーが不服そうに頬を膨らましているのを見て、私は「どうどう…」と落ち着かせた。
それから私たちはここ最近のアンノーンの活動が活発化し始めたことについて話題を変えた。
「色素6カ国内でアンノーンの活動が活発化し始めています。」
「活発化し始めたのは何もここだけじゃないんですね…。何かきっかけがあっとんでしょうか…。」
「それは今もスカイの研究員たちが寝る間も惜しんで調査中だと聞きました。アンノーンは街の魔物…。慎重に調査をしなければ最悪自分の色を無くしかねませんからね。2人ともお気をつけくださいね?」
「お気遣いありがとうございます。私は後方支援がメインなので、マレーが頑張ってくれてるおかげで色素の小瓶50本も収集することが出来たんです。」
「お二人の旅の目的を聞いてもよろしいですか?」
お茶を一口、口に含んでからフルスナさんは真っ直ぐな視線を私に送ってきた。
活発化したアンノーンが蔓延っていて危ないのにこんな若い子だけで色素6カ国の色を解放するため動いているのは多少不思議に思われるのだろう。この質問が来た時には私とマレーは包み隠さず話すことを決めていた。
「旅の目的は私の双子の兄妹を探し出して家族のもとに帰ることです。」
「私はそんなアイリスの旅のお手伝いなんですよ。」
「双子を探すためにどうして危険な色素6カ国へ…。」
「双子は自らの意思ではなく、何者かに連れ去られ、その連れ去った人物と思わしき人物を追って色素6カ国を旅することを決めたんです。」
「そんなことが…ですが、これから色素6カ国を回るには魔力の消費が激しいですよ?ポーションとかはお持ちでは?」
「あ、ポーションの代わりになるものならあるのでご心配なく!」
私の話にフルスナさんは少し悲しそうな表情をしてからお茶を一口飲んだ。
「これは知人から聞いた話なのですが、最近プルウィウス・アルクス王国で人攫いの事件が多発しているらしいのです。恐らくアイリスの双子もその可能性があります。」
「何故人攫いの件数が増えてきているのでしょうか?」
「目撃者は皆、"黒づくめの外套に金色の瞳。"と証言しています。アイリスはどうでした?」
「私もその特徴で覚えています!」
「では同一犯である可能性が高いですね。その黒づくめがどんな目的で人を攫っているのか分かりませんが…。」
「それを明確にするためにもその黒づくめが逃げたという色素6カ国を回る旅をするんです。」
私は必ず双子を取り戻すという強い決心があるから、フルスナさんの目を真っ直ぐ見つめた。そんな私の強い思いが伝わったのか、フルスナさんは腰のポーチから一枚の名刺を取り出した。そして私とマレーの前に差し出した。
「これは?」
「私の名刺です。魔力を込めて描いた魔法陣が組み込まれています。魔力鳩での連絡の際に使用してください。」
「ありがとうございます!都市の色の解放の際は是非フルスナさんをお呼びしますね!」
「はい、お願いしますね!」
お互いニコニコと笑顔になってお茶を啜っていると、隣の部屋で色素の小瓶の鑑定をしていたハヅクさんがバンッと勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた。
「色素の小瓶50本、問題なく鑑定終了!さ、次はフルスナの番だよ!」
「相変わらず仕事が早いですね、ハヅク。」
「超特急で仕事したからね!あ、でも、仕事の精度は落としてないから安心して!」
ハヅクさんがウィンクしてこちらを見てきたので、私はハヅクさんの仕事っぷりに驚いた。
そして、次はいよいよフルスナさんの番。着彩士としての仕事は見ておいた方がいいとハヅクさんが念押ししてきたので、着彩士の仕事中にアンノーンが襲撃して来なように私とマレーとハヅクさんの4人でレディカの国境付近の都市、灰色になっているラケナリアに入ると、ハヅクさんが鑑定し終えた色彩の小瓶を地面に並べて、その近くにフルスナさんが立った。そして、フルスナさんの魔法を間近で見ることが出来た。
ふわりと柔らかな風が通り抜け地面から光の粒がぽわっと溢れ出すと風が色素の小瓶を持ち上げ一気にキュポンッと小瓶の蓋が取れた。ここまでの動きは全て風が起こしている。なんと緻密な魔力操作…と私が関心していると、地面から溢れてきた光が色素の小瓶の中身と混ざり合い、そして風魔法によって空に向かって巻き上げられた。
そして花火が散るように色が飛び散って飛んでいき、遠くまで景観に色が戻っていった。
「わぁ…。」
そんな幻想的な都市の色の解放シーンを見ることが出来て、私は思わず感嘆の声を漏らしたのだった。
私はマレーと一緒にパティスリー・シュガーツを出発すると、まず向かったのはプルウィウス・アルクス王国と隣国炎の国レディカとの国境にある村だった。そこまで行くには広い4エリアの外周を出る必要がある。外周の走り込みをしたことがあるので、外周までの道のりはすぐだったが、国境付近の村までは半日程度歩くほどだった。
「王国がこんなに広いとは思ってなかった…。」
「そうだね…、いつも4エリアで過ごしてたから、国外の色素6カ国に出るまでにこんなに時間がかかるとは…。」
いくら走り込みをして体力が増えていると言っても1日で国境の村まで行くのに休憩無しでは身が持たなかったので、私とマレーは時々休憩を挟みつつ、なんとか王国の国境の村までやってきた。
村の名前はアディソン村(むら)。国境付近の村ということで、立ち並ぶ家も少なく、私たちは運良く出会えた村の人の家に泊めてもらえることになった。
野宿をする羽目にならなくて良かったと、2人で与えられた部屋の中のベッドでのんびりしていると突然カンカンカン!とけたたましい鐘の音が村全体に鳴り響いた。
「な、何事!?」
「外に行ってみよう!」
私たちは泊めてもらってる家の外に出るとレディカとの国境付近のところで剣戟の音が聞こえるのに気が付いた。
「もしかして、アンノーンとの戦闘?」
「そうかもしれないね…。どうする?」
「もちろん、加勢しに行くよ!」
マレーの質問に私は自信たっぷりに答えて、2人で剣戟の音がする方へと走った。少しずつ夕焼けも落ち暗くなり始めていたが、灰色をしたアンノーンはまだこの夕焼けが残る外では異様な暗さを放っていた。
「増援に来ました!」
「おお、旅人さんか!アンノーンが現れたんだ、攻撃系の魔法が使えるなら加勢してくれ!」
「分かりました!アイリス、体力強化の飴玉ある?」
「あるよ!はい、マレー!」
私は事前に作っておいた飴玉を腰のポーチから取り出すとマレーに渡した。マレーが飴玉を舐めてアンノーンに向かって走り出した。
マレーの魔法はレッドとオレンジ。つまりは火属性と身体強化の魔法属性ということである。マレーの魔法は耐熱グローブに火属性の魔法と身体強化の魔法を拳に掛けて灼熱の拳を作り出して殴る。というスタイル。道場の娘というには分かりやすく彼女らしい魔法の使い方だと思う。
私はマレーがアンノーンと闘い始めたのを確認してから戦線を離脱してきた魔法使いに駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ…。夜になると村の明かりを求めてアンノーンたちがうろつくんだ。一時期は大人しかったのにどうして今になって…。」
「今になって活動が活発化したんですか?あ、これ私が作った魔法の飴玉です。回復魔法ではないので、疲れが吹っ飛ぶ…とかではないのですが、身体強化と魔力強化が掛かります。いくつかお渡ししますね。」
「活動が活発化し始めたのはここ1ヶ月くらい前からかな。昼間でも夜でも関係なく、突然現れては村にある数少ない農作物を荒らしたり、色素の小瓶を採取出来るような植物をあさりに来るんだ。」
私は自分のポーチから魔法の飴玉を複数個掴み取ると魔法使いの男性に手渡した。魔法の飴玉の話をすると、男性は少し訝しげに見たがパクリと飴を舐めるとじわじわと体の奥底から力が湧いてくる感覚があったのか、このすぐに立ち上がった。
「こりゃ、すごい!体力強化と魔力強化か!ありがとう嬢ちゃん!」
「いえいえ!私にはこれくらいしか出来ませんから!」
その後も私はアンノーンを倒すために力を尽くしてくれている魔法使いの人と接触を図り、魔法の飴玉の効果を説明しながらいくつか配り歩いた。ポーチの中の飴玉が無くなる頃には、村を襲いに来たアンノーンは全滅したようだった。
私はオレンジのウェーブがかかったマレーの特徴的な髪色を探した。それは直ぐに見つかったので私は手を振ってマレーに駆け寄った。
「マレー!大丈夫?怪我はしてない?」
「アイリス!私は大丈夫よ。さっきの戦闘でアンノーンがドロップした色素の小瓶がいくつかあるから、今度王国のインディゴの魔法使いをこの村に派遣してもらって炎の国レディカの国境の都市、ラケナリアの色を解放しようかと思ってるの。」
「アンノーンからドロップした色素の小瓶ってどれくらい?」
「そうね、今回ので10本程度。都市1つ分の色素の小瓶は50本程度とされているから、ここ最近活発化してるアンノーンがいるらしいからそいつらと戦ってれば50本の色素の小瓶も直ぐに集まると思うわ。」
「私もその話聞いた。なんでも1ヶ月くらい前からアンノーンの行動が活発化してるって…。」
「その原因も突き止めたいところだけどね。まずは双子を攫った黒づくめの奴の情報も欲しいし…。」
「やることいっぱいだね。」
顎に手を添えて考える仕草をするマレーに私は苦笑いをした。双子の情報を掴みたいし、国境の都市ラケナリアの解放もしたいしで、やらなければならないことが山積みで私たちは忙しい日々を1週間程度続けることになった。
――――――
国境の村、アディソン村に着いてから1週間でアンノーンからドロップした色素の小瓶を50本、集め切ることができた。それを宿として提供してくれている家の部屋でマレーは色素の小瓶を並べて見た。
「アンノーンがドロップする色素の小瓶にも系統があるみたいでね。炎の国レディカが近いせいか赤系統の色素の小瓶の種類が多いわね。」
「やっぱり赤がモチーフカラーになってるから、かな?」
「恐らくね。さて、色素の小瓶も50本揃ったことだし、王国の色彩鑑定士と着彩士の魔法使いの要請の手紙も恐らくインディゴの本部に届いてるだろうから、そろそろ派遣されて来ると思うんだけど…。」
マレーは部屋の床に並べた色素の小瓶を集めて村の人から借りた木箱の中に丁寧に詰めていった。
それからインディゴから派遣されてきた魔法使いたちが来たのは翌日のことだった。
アディソン村に襲撃してきたアンノーンを倒し終わったところで、村の方から派遣されてきた魔法使いの話を聞いて私とマレーは直ぐにその人のところに向かった。
どうやら村の人から話を聞いたのか、インディゴの魔法使いの深緑の髪色の女性とそれよりも淡い翡翠色の髪の毛の男性は私たちが寝泊まりしているご家族を聞いたようでその家でお茶を貰っていた。
「あなた方がインディゴから派遣されてきた、色彩鑑定士と着彩士の魔法使いの方ですか?」
「はい。私は色彩鑑定士のハヅク。今回炎の国レディカの国境付近の都市ラケナリアの色の解放に向けて色素の小瓶を50本用意できたと聞いてきました。」
「今こちらにお持ちします。」
マレーが寝泊まりしている部屋から木箱に丁寧に保管されている色素の小瓶を持って来ると、ハヅクさんは色素の小瓶を1本手に取るとあらゆる角度から陽に透かして見たりチャプチャプと瓶の中身が揺れるのを見たりしていた。
「これはアンノーンからドロップした色素の小瓶ですね。50本全部そうですか?」
「はい。ここ最近1ヶ月ほど前からこの村を襲撃してくるアンノーンを討伐していく中でドロップしたものになります。」
ハヅクさんの質問にマレーが答えていくと、ハヅクさんは色素の小瓶が入った木箱の中から数本の小瓶を取り出して早速仕事を始めた。
そこで今までハヅクさんの隣にいた男性が口を開いた。
「彼女の仕事スイッチが入ってしまったので、ここら辺で私の自己紹介をさせてください。」
「あ!すみません、そうでしたよね!直ぐにご挨拶出来なくてすみません…!」
私が彼の方を見て頭を下げていると彼も苦笑いをしながら両手をブンブンと左右に振った。
そして、ハヅクさんが別部屋で一本一本の色素の小瓶の鑑定をしている間、私とマレー、そして着彩士の魔法使いの方がテーブルを挟んで座ってハヅクさんの鑑定が終わるまで談笑することにした。
「ご紹介が遅れました。インディゴの資格保有者、着彩士のフルスナといいます。」
「私はアイリス・シュガーツと言います。気軽にアイリスとお呼びください。」
「私はマレー・クラウド。武術エリアで道場を開いてるとこの娘です。」
「シュガーツといえば、パティスリー・シュガーツですか!?」
「え、ええ…、そうですけど…。ご存知なんですか?」
「そりゃもう!ケーキはどれも芸術品のように美しく、甘くて舌触りも滑らか…。パティスリー・シュガーツのスイーツはインディゴのギルド内でも贈ると喜ばれる手土産No1ですよ。」
私が自己紹介すると、フルスナさんの目がきらりと輝き、私の顔に近付いた。恍惚とした表情で私のお店を褒めてくれるので、私は嬉しくってニヤニヤしながらフルスナさんの話を聞いた。フルスナさんの頭の中はパティスリー・シュガーツのことでいっぱいで、マレーの自己紹介を忘れてしまっているような気がした。マレーが不服そうに頬を膨らましているのを見て、私は「どうどう…」と落ち着かせた。
それから私たちはここ最近のアンノーンの活動が活発化し始めたことについて話題を変えた。
「色素6カ国内でアンノーンの活動が活発化し始めています。」
「活発化し始めたのは何もここだけじゃないんですね…。何かきっかけがあっとんでしょうか…。」
「それは今もスカイの研究員たちが寝る間も惜しんで調査中だと聞きました。アンノーンは街の魔物…。慎重に調査をしなければ最悪自分の色を無くしかねませんからね。2人ともお気をつけくださいね?」
「お気遣いありがとうございます。私は後方支援がメインなので、マレーが頑張ってくれてるおかげで色素の小瓶50本も収集することが出来たんです。」
「お二人の旅の目的を聞いてもよろしいですか?」
お茶を一口、口に含んでからフルスナさんは真っ直ぐな視線を私に送ってきた。
活発化したアンノーンが蔓延っていて危ないのにこんな若い子だけで色素6カ国の色を解放するため動いているのは多少不思議に思われるのだろう。この質問が来た時には私とマレーは包み隠さず話すことを決めていた。
「旅の目的は私の双子の兄妹を探し出して家族のもとに帰ることです。」
「私はそんなアイリスの旅のお手伝いなんですよ。」
「双子を探すためにどうして危険な色素6カ国へ…。」
「双子は自らの意思ではなく、何者かに連れ去られ、その連れ去った人物と思わしき人物を追って色素6カ国を旅することを決めたんです。」
「そんなことが…ですが、これから色素6カ国を回るには魔力の消費が激しいですよ?ポーションとかはお持ちでは?」
「あ、ポーションの代わりになるものならあるのでご心配なく!」
私の話にフルスナさんは少し悲しそうな表情をしてからお茶を一口飲んだ。
「これは知人から聞いた話なのですが、最近プルウィウス・アルクス王国で人攫いの事件が多発しているらしいのです。恐らくアイリスの双子もその可能性があります。」
「何故人攫いの件数が増えてきているのでしょうか?」
「目撃者は皆、"黒づくめの外套に金色の瞳。"と証言しています。アイリスはどうでした?」
「私もその特徴で覚えています!」
「では同一犯である可能性が高いですね。その黒づくめがどんな目的で人を攫っているのか分かりませんが…。」
「それを明確にするためにもその黒づくめが逃げたという色素6カ国を回る旅をするんです。」
私は必ず双子を取り戻すという強い決心があるから、フルスナさんの目を真っ直ぐ見つめた。そんな私の強い思いが伝わったのか、フルスナさんは腰のポーチから一枚の名刺を取り出した。そして私とマレーの前に差し出した。
「これは?」
「私の名刺です。魔力を込めて描いた魔法陣が組み込まれています。魔力鳩での連絡の際に使用してください。」
「ありがとうございます!都市の色の解放の際は是非フルスナさんをお呼びしますね!」
「はい、お願いしますね!」
お互いニコニコと笑顔になってお茶を啜っていると、隣の部屋で色素の小瓶の鑑定をしていたハヅクさんがバンッと勢いよく扉を開けて部屋に入ってきた。
「色素の小瓶50本、問題なく鑑定終了!さ、次はフルスナの番だよ!」
「相変わらず仕事が早いですね、ハヅク。」
「超特急で仕事したからね!あ、でも、仕事の精度は落としてないから安心して!」
ハヅクさんがウィンクしてこちらを見てきたので、私はハヅクさんの仕事っぷりに驚いた。
そして、次はいよいよフルスナさんの番。着彩士としての仕事は見ておいた方がいいとハヅクさんが念押ししてきたので、着彩士の仕事中にアンノーンが襲撃して来なように私とマレーとハヅクさんの4人でレディカの国境付近の都市、灰色になっているラケナリアに入ると、ハヅクさんが鑑定し終えた色彩の小瓶を地面に並べて、その近くにフルスナさんが立った。そして、フルスナさんの魔法を間近で見ることが出来た。
ふわりと柔らかな風が通り抜け地面から光の粒がぽわっと溢れ出すと風が色素の小瓶を持ち上げ一気にキュポンッと小瓶の蓋が取れた。ここまでの動きは全て風が起こしている。なんと緻密な魔力操作…と私が関心していると、地面から溢れてきた光が色素の小瓶の中身と混ざり合い、そして風魔法によって空に向かって巻き上げられた。
そして花火が散るように色が飛び散って飛んでいき、遠くまで景観に色が戻っていった。
「わぁ…。」
そんな幻想的な都市の色の解放シーンを見ることが出来て、私は思わず感嘆の声を漏らしたのだった。
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