輝くは七色の橋

あず

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第6話 旅へ

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第6話 旅へ
「そんな、シダヤとノゼルが誘拐だなんて…。相手は知り合いっぽくはないのよね?」
「うん。黒づくめで目の部分しか見えなかったけど、あの瞳の色は知り合いにはいない、よ…。」
 目出し帽を被っていたので目しか情報を得られなかったが、珍しい色だったのでよく覚えている。金色に光る鋭い眼光が印象的だった。
「お母さん、お父さん、私が付いていながら双子を誘拐されて…本当にごめんなさい!!」
 私は頭を下げていたからか、目には涙が溜まりポタポタと床に落ちていた。そんな様子を見て今まで黙っていたお父さんが口を開いた。
「アイリスだけでも無事で良かった。双子の捜索は警察に任せよう。これから一緒に警察署へ行くよ。」
「うん…。」
 警察署はこの国の4つのエリアの端に2箇所ずつ設置されており、この国の治安を守っている機関でもある。子供の誘拐から殺人事件まで取り扱っている機関だ。
「私も一緒に付いて行ってもいいですか。」
「マレーちゃん、だったね。アイリスをここまで送ってくれてありがとう。アイリスが落ち着いているのもマレーちゃんのお陰だろう。良かったら一緒に来てくれないかな。」
「分かりました。一緒に行きましょう。」
 両親に話している間ずっとマレーは私の手を握ってくれていた。それがどれだけ勇気付けられ、安心できたことか。私は小さな声でマレーに"ありがとう"と言うと、マレーも小さな声で"大丈夫?"と聞いてきた。私がこくりと小さく頷いたのでマレーはホッとしたような表情になり、ぎゅっと私の手を握ってくれた。
 それから私たちはインディゴの管轄の警察署に行き、誘拐された双子の話をして行方不明者届を書き、警察に捜索してもらうよう、頼んできた。
 だが、私は警察に頼む以外にも自分で動きたいと思っていた。そこで以前お世話になったカーマインの上層部にいるグミルさんに双子のくらいの子供を連れた怪しげ人物の情報が無いか、聞いてみることにした。
 グミルさんから手紙の返事があったのは双子が攫われてから2日後のことだった。手紙の内容を確認すると私は直ぐにカーマインの本部へ向かった。以前はマレーのお父さんのガレットさんがいたが、今回は私と両親とでカーマインの本部へ向かうと新しい門番から足止めを喰らった。
「グミルさんとの面会があります。通してください。」
「はっ、失礼いたしました!お通りください!」
 今度の門番は以前のような横暴な態度を取る人物ではなく、その彼の人間性を見て私はカーマインにもグミルさんのような良識のある人がいて良かったと、改めて実感していた。
 私は前回ガレットさんと来てた時に部屋までの道のりを覚えていたので、私とマレーが先頭の元、カーマインの本部の中を突き進んだ。
 ある一つの扉の前に着くと私は震える手でコンコンコンとノックをした。中から返事が返ってきたので、ゆっくりとドアノブを回して扉を開けるとそこには以前来た時と同じように忙しそうに書類に目を通しているグミルさんの姿があった。
「アイリスさん、マレーさん、そして…アイリスさんのご家族様ですね。よくぞお越しくださいました。早速話し合いましょう。」
 グミルさんの丁寧な物腰に私は深呼吸をしてから誘導されたソファーに座った。そして双子誘拐の話を軽く説明しグミルさんから情報を聞き出した。
「双子の子を攫った怪しげな黒づくめの人物についてですが…、はっきりとした情報がないのですが…、まず、一つ目。これが最有力候補です。7歳の双子の大きさの麻袋を2つ持った男がプルウィウス・アルクス王国の外に出たのが目撃されています。」
「王国外に出てしまったって…アンノーンがのさばる色素6カ国ですか!?」
「はい…。そして2つ目…。」
 グミルさんは2つ目と3つ目の情報を話してくれた。最初に話してくれた最有力候補の話よりも2,3個目は偶然が生んだような人違いの可能性が高く、私は1個目の話に食いついた。
「色素6カ国の危険度はどれくらいでしょうか…?」
「アンノーンが現れるのは魔力量の多い場所に集中します。例えば魔力の泉…。あそこにはプラムの魔法使いたちが常駐していますが、最近のプラムは人手不足で1人がいくつかの魔力の泉の監視を担っています。なので、今でも魔力の泉の近くにアンノーンが出ると運が悪ければ魔力の泉は襲撃され、力を奪われて陥落してしまいます。他には自然が豊かでそこから生まれる魔力にアンノーンは惹きつけられると考えられています。」
「魔力の泉と自然が豊かな…。」
「それとこちらとしては大変ありがたい事実が判明しました。先日アイリスさんが生成された魔法の飴玉の研究の成果が出たんです。」
「私の飴玉の研究成果…?」
 私はグミルさんが言った飴玉の研究成果に疑問を抱いた。いつのまに私の飴玉を研究されていたのか分からなかった。もしかして、先日上層部からお達しのあった50個の魔法の飴玉の納品は研究するため…?と考えていると、そんな私の疑問に気付いたグミルさんは苦笑いをした。
「アイリスさんの魔法の飴玉のことを勝手に調べ上げてしまったことは申し訳ありません。ですが、これは魔法使いたちにとって希望の星になりそうなのです。」
「はぁ…、希望の星…ですか。身体強化と魔力強化が出来るだけの飴玉ですよ?」
「それが、アイリスさんの作った飴玉を舐めてプルウィウス・アルクス王国の外…、色を失った色素6カ国に出ると魔力の消耗が無くなるという研究結果が出ました。」
「!!」
 グミルさんの言葉に飴玉を作る当の本人の私も両親も驚きの表情をした。私の飴玉にそんな効果があったなんて初耳だからだ。
「色素6カ国に出ると魔力の消耗があるという話は聞いた事があります…、でもアイリスの飴玉を舐めればその心配が無くなり、色素6カ国に出ても魔法を通常通り扱える…という事ですか?」
 私が頭の中で考えていたことを隣に座っていたマレーが顎に手を置きながら話してくれたおかげで私は頭の中を整理する事ができた。
「そういうことです。これは今も私と飴玉の研究をしているスカイの魔法使いのみが知る事実です。この事実が公になればアイリスさんは自分の魔法を使って搾取されることになる…。それだけはなんとしても私が阻止します。アイリスさんの魔法はアイリスさん自身が必要だと思った時に使うべきです。誰かのためよりも先に自分のために使うことを覚えてください。」
 グミルさんの言葉に私は深く頷いて、自分の力の使い方を胸にしっかり刻み込んだ。そして、双子を探しだすために私は決心した。
「私、双子を探すために色素6カ国を回ります。」
「アイリス…!」
「お母さん、お父さん、私の油断が招いた事だから。双子が何故攫われて…、そんな時に私の魔法の飴玉の本当の使い道が分かった…。これは運命なのかもしれない。神様は私に双子を探せって言ってるように思える。魔法使いとして基礎魔力量も上がってる。大丈夫、私は強くなってる。前のパティスリー・シュガーツの娘ってだけじゃない。慢心じゃないよ、本当に大丈夫だと思って言ってることだから。」
 私が真剣な眼差しで両親を見ると、お母さんは目を閉じて私を抱き寄せた。
「アイリスだけがシダヤとノゼルが攫われた事を責めてはダメよ。でも、アイリスの魔法が2人への道標になっているのなら…、アイリス、貴方はその道標に従うべきだわ。」
「お母さん…。ありがとう。」
 私はてっきり反対されるかと思っていた母からの言葉を聞いて抱き締めてくれるその温かさに目を閉じた。そこにお父さんが私の肩に手を置いた。お父さんも目を閉じ、私とお母さんを包み込むように顔を寄せた。
「アイリス。お前が投獄された私たちを助けてくれた時からこの運命の歯車は回り出しているんだ。どうか、双子のことを頼む。」
「うん。任せて。」
 3人で抱きしめ合ってから、ゆっくりと離れると私は真っ直ぐグミルさんを見つめて話した。
「1つ目の情報をもとに私は色素6カ国を巡って怪しげな人物を追いかけます。そのためにもギルドに入ろうと思っていますが…。私はビリジアンに入ります。」
「私にはアイリスさんのギルドへの勧誘をする気はありませんよ。貴方の入りたいギルドへ入ってください。ビリジアンのギルドに入ると、色素の小瓶の納品義務が発生しますので、魔力鳩をお使いください。」
「分かりました。」
 魔力鳩というのはこの世界で魔力を込めて届けたい相手の名前を書くとその人物や場所の元に運んでくれる鳩のことである。その鳩を使い、更には私の飴玉を舐めれば色素6カ国に行っても色素の小瓶の納品義務は果たせそうだった。色素の小瓶はこの世界の色を形成する染料のことで、それはアンノーンを倒したり自然界から採取する事ができる。ビリジアンはその色素の小瓶を定期的に納品しないと、ギルドの所属権を剥奪されてしまうのだった。
 こうして私はビリジアンのギルドに加入し、プルウィウス・アルクス王国の外、色素6カ国に旅に出ることにした。
 グミルさんとの話も終わり、私たちはカーマインのギルド本部を出た。するとグミルさんに私の気持ちを話してからずっと黙っていたマレーが足を止めた。
「マレー?」
 私が首を傾げてマレーを振り返るとマレーはガッと私の両肩を掴んだ。
「アイリスが色素6カ国に行くなら私も付いて行く!」
「え!?で、でも、これは私の双子を探す旅で、マレーを巻き込む訳には…。」
「私は、自分の魔法を使う理由は自分で決めなきゃダメだって思ってる。それに私は自分の魔法で誰かの役に立てるなら自分の魔法で友達を救いたい。お願い、アイリス。私も一緒に行かせて。」
「マレー…、でも、ガレットさんの道場は…。」
「お父さんは強いわ。だから、心配はいらない。それにお父さんだってこの話を聞いたら迷わずアイリスについて行けって言うと思うよ。」
「アイリス、マレーさんの気持ちを汲み取ってあげなさい。アイリスの力になりたいと言ってくれる人を突っぱねてはいけないよ。」
 マレーの決意にお父さんが私の肩に手を置いて諭してくれた。マレーの決意を踏み躙る訳にはいかない。私は一緒に旅をしてくれるマレーのことを受け入れることにした。
「マレーがいてくれれば、旅だって楽しくなる、心強くなる。何より1人より2人の方が捜索の幅も広がるもんね!」
「アイリス!ありがとう!」
 そう言ってマレーは喜びから私に抱き着いてからぎゅっと私の両手を包んだ。
「善は急げ、なるべく早くこの国を出発しよう!まずは色素6カ国のどこに向かうかだけど…。」
「それならグミルさんから地図を貰っているよ。黒づくめの人物は炎の国レディカの方角に出国したって聞いた。だから、私たちもレディカを目指してまずはこの国を出国しよう。」
 私とマレーが地図を覗き込んで話し合いをしながら帰路についた。まずは旅の準備と行き先への入念な計画を立てなければならない。私はそれからマレーの道場に通い詰め、マレーと旅の話をしながら稽古を付けて貰った。ガレットさんもマレーが旅に出ることは了承してくれたらしく、私が知らないところで私の両親とも直接のやり取りをしてお互いの娘をよろしくお願いしますと頼み込んだらしい。
 そして、2週間後。旅の支度として、お母さんが商業エリアの武器屋さんで私の魔法を使いやすくするための杖を受注してくれてその可愛いデザインの杖を貰った私は嬉しくなって飛び跳ねた。そして、旅の洋服も頼んでくれていたようで可愛いものが出来上がり、私の旅への期待は膨らんだ。
 そして全ての用意が完了するのに1ヶ月を要してしまった。こうしている間にも双子を連れ去った黒づくめの相手が離れてしまうかもしれなかったが、魔力の消耗がある色素6カ国ではさほど自由に動き回れないだろうというガレットさんの話で私たちは時間をかけて旅の準備をする事ができた。
 そして、出発の日。私とマレーはパティスリー・シュガーツの店の前で最後の別れをすることにした。旅装束として私の好きだったセーラー襟のトップスにプリーツスカート、ベレー帽という格好にお母さんは涙ぐんでいた。
「お母さん、お父さん。双子のこと、必ず見つけ出して一緒に帰ってくるから。」
「アイリス、無茶はしちゃダメよ?」
「うん、分かってる。お母さんたちも元気でね?」
 そして、ガレットさんも私の肩に手を置いて、激励の言葉を掛けてくれた。私もマレーも決意を新たにパティスリー・シュガーツの前を発った。私たちの目的は双子を連れ去った黒づくめで金色の瞳を持つ人物の後を追い、双子を取り戻すこと。その目的のために私たちは色を奪うアンノーンがのさばる色素6カ国へ向かうために旅立ったのだった。
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