輝くは七色の橋

あず

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第3話 横暴な門番

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第3話 横暴な門番
 マレーに案内してもらって辿り着いたカーマインのギルド本部は立派なお城のようで、私は萎縮してしまったが、案内が終わったのに、未だ私のそばにいるマレーの方をチラリと見た。
 ここまで案内してもらうまでに私はなんだか聞き上手のマレーに促されるままに、先日家で起きた出来事を説明していた。マレーの家のことも話を聞いていたが、マレーは自分の家族が同じ目に遭ったら、自分は間違いなく怒って手が出てしまう、と言っていた。
「スゥーッ、ハァ…。」
 大きく深呼吸をしてから、私はカーマインのギルド本部に乗り込むことにした。するとギルドの玄関に差し掛かろうとしたとき、両脇にいる門番が大きな槍を交差させて、私の進む道を遮った。
「お嬢ちゃん、ここはカーマインのギルド本部だ。何用かな。」
「あの、私商業エリアのパティスリー・シュガーツの娘のアイリス・シュガーツです。今日のお昼までに魔法の飴玉50個を持ってくるように頼まれたんですが…。」
 私は門番の怖い顔に一瞬怯みそうになったが、両親を助けるため、双子の元に無事に帰るため、私は勇気を出して、門番に魔法の飴玉が入ったバスケットを見せて、頼まれたことを話した。だが、両脇の門番は二人して顔を見合わせると、ギッと私を睨んだ。
「飴玉なんぞ持ってきて、お遊びのつもりか!我らがカーマインの魔法使いをばかにしているのか!?」
 門番がそう言って激昂すると、私の手に持っていたバスケットをバシッとはたき落とした。その衝撃で私はバスケットから手を離してしまい、飴玉がカーマインの門の前でばら撒かれてしまった。
「私の飴玉が…。なんてことするんですか!これはあなたたちカーマインの魔法使いたちが用意しろと言った魔法の飴玉ですよ!?」
「私たちが飴玉なんぞに頼る訳がないだろう!何かの手違いだ、帰れ!」
「そんな…っ!あなたたちが私の家族を連行したと聞いています!今すぐ会わせてください!約束の飴玉50個持ってきたのに!」
 私は自分が寝る時間も削って無理して作った飴玉を雑に扱われて、憤りを感じた。お父さんとお母さんを連れて帰ってくると、双子とも約束をした。その約束を果たせないのは心苦しいし、私も両親に会いたい、その気持ちがあったから、こうして50個を頑張って作って持ってきたのだ。なのに、要求をしてきたカーマインの方ではそんな約束はしていないの一点張り。諦めることができなくて、アイリスが門番の間を強引に突破しようとすると、門番は私のセーラーの襟をガシッと掴み、首を絞めてきた。
「ぐっ…!」
「許可なく、カーマインの本部に入ろうとするな!誇り高きカーマインの魔法使いが飴玉を持ってきただけの娘に突破されるなど、言語道断!」
 私はそのまま門の前にべしゃっと弾き飛ばされ、そのまま怒りを露わにした門番から蹴りを入れられた。お腹を蹴られたことで強烈な痛みが腹部を走り、私はこんなに痛い思いをしたことがなかった。痛みに耐えながら、私は両親との再会を果たすために必死に耐えた。そして攻撃の手を緩んだ瞬間に地面に転がっていた飴玉を掴むと、門番の顔に向かって投げつけた。
「その誇り高きカーマインの魔法使いたちが私たちの両親を連れ去ったのに、自分たちを正当化して私のような女の子にも手をあげるなんて、どこが誇り高いのよ!」
「ッ!この娘を牢屋に放り込め!カーマインを冒涜した罪だ!」
「何が冒涜よ、本当のことを言っただけだもの!きゃっ!」
 私は怒りに身を任せて、門番にそう台詞を吐くと、門番は更に激昂し、私の髪の毛を毟り掴んだ。頭皮が引っ張られる痛みで、表情を歪ませる私に門番が槍を突き刺そうとした瞬間。もう一人の門番が“ぐあっ“という声をあげて、地面に倒れた。それを見た門番が視線を逸らしたその一瞬の隙を私は見逃さなかった。
「あ“っ!」
 私は右足を後ろに思いっきり引いてから、目の前の門番の股間目掛けて、蹴り上げた。あまりの痛みからだろうか、門番が私の髪から手を離したので、私は地面に倒れ込んだ。そこに先ほどカーマインの本部まで案内をしてくれたマレーが駆け寄ってきた。
「アイリス、大丈夫!?もう一人の門番は私がやっつけたからね!すぐにここを離れましょう!」
「あの、マレー…。」
「いいから話は後!立てる?」
「う、うん…。」
 私はマレーに支えられる形で、ヨタヨタとしながら立ち上がると、カーマイン本部の門から離れたのだった。やっとの思いで武術エリアの一本路地に入った場所まで逃れることができた。
「マレー、どうして私を助けたの…?これじゃあ、あなたもカーマインに楯突いたことに…。」
「元々、私カーマインの連中には嫌気が差していたのよ。横暴なやり口で、ここら辺の武術エリアの人たちからは小言を言われているほどなの。だから、今回のアイリスの門番とのやりとり、私だけじゃなくて数人の人に目撃されて会話もばっちり聞こえてたからね。安心して。アイリスの味方は私もいるし他にもいるんだからね。」
「マレー…。ありがとう。」
「それにしても門番の人、女の子になんてことをしてくれるんだか…。私の家までもう少しだからそこで手当てしてあげる。アイリスもう少し頑張れる?」
「うん、大丈夫…。」
 私はマレーの肩を借りながらゆっくりと歩みを進め、マレーの家であるクラウド道場までやってきた。
「ここが私の家よ。おとうさーん!救急箱持ってきて!」
「おかえり、マレー。って、どうしたんだ、こんなボロボロの女の子!」
「あ、あの、初めまして。アイリス・シュガーツといいます。商業エリアでお店をやっている両親の娘です。こうなってしまったのには訳がありまして…。」
「この子、またカーマインの連中に難癖付けられて暴力振るわれたのよ。」
「はぁ…、またあいつらそんなことを…。救急箱だな。直ぐに持ってくる。アイリスさん、どうぞ、うちに上がってゆっくりしなさい。詳しい話は治療しながら聞こう。」
「ありがとうございます…。」
 私はせっかくお気に入りのトップスとスカートを履いてきたのに、ボロボロにされてショックを受けていたがそれよりも両親を解放してもらうために行ったのに自分がボロボロされては本末転倒だ、と心の中で自分を責めた。
 そして、マレーのお父さんから簡単な応急処置をしてもらって私は先日あったことをマレーのお父さんにも説明をした。
「ふむ、そんなことが…。カーマインの奴ら、また面倒ごとを…。」
 そう言ってマレーのお父さん、ガレットさんはガシガシと頭を掻いて、面倒くさそうに呟いた。そこで隣にいたマレーがコソッと教えてくれた。
「お父さんはね、昔カーマインのギルドに入ってたんだけだね、上からの方針が合わない!ってことで辞めてきちゃったのよ。それで今は武術エリアで道場の師範代を務めてるの。」
「そうなんだ…。」
 それならマレーも強いんだろうと私は思った。門番相手にあっさりと地面にひれ伏せさせた。私もそんな強さがあればな…と僅かながらにそんなことを思っていると、ガレットさんが、何やら紙にインクとペンでサラサラと文字を書き始めた。
「アイリスさん、私の名前であなたのご両親の釈放を求める書面を作っておいたから。これがカーマインの上の人に届くかは分からないが、やってみる価値はある。アイリスさんは商業エリアでなんのお店をしているんだっけ?」
「あ、パティスリー…えっと、お菓子屋さんです。私の下にも双子の兄妹がいて、今も家で両親と私が帰ってくるのを待っているんです!」
「今日のところは自分の家に帰りなさい。お姉ちゃんも帰ってこないとなると双子の兄妹にかかるストレスが色を奪うアンノーンを寄せ付ける。それは避けなければならない。アイリスちゃんも両親がいなくて不安かもしれないが、私がカーマインの上の人と話し合っている間、少し待っててくれないか。」
 ガレットさんからのまっすぐな視線と、何故だかこの人なら信じても大丈夫という安心感を感じて私は黙ってコクリと頷いた。その後マレーが商業エリアの私のお店の前まで送ってくれて私はペコペコと頭を下げながら帰っていくマレーを見送った。
「ただいまー。」
 相変わらず店舗がぐちゃぐちゃのままで明日は掃除したほうがいいなーなどと考えながら、2階への階段を登ると、私が帰ってきた声を聞いたからか、廊下の突き当たりの双子の部屋の扉が少し開いていてそこから双子がお団子のように顔を連なって覗き込んでいた。マレーのところで応急処置をしてもらったとはいえ、服も土埃まみれで、昼間に家を出た時の私の格好がずいぶん違っていたので、双子は私の姿を確認するなり、部屋から飛び出してきた。
「お姉ちゃん!大丈夫!?怪我してる!お父さんは!?お母さんは!?」
「お姉ちゃん、痛い痛いの…?」
 双子の兄のシダヤは興奮して疑問系ばかり私に投げかけてくるので、落ち着いてと頭を撫でてやった。対照的に妹のノゼルは泣きそうな表情で私を見てきたので、苦笑いをしてから私は双子をまとめてぎゅっと抱きしめた。
「ごめんね…、お姉ちゃんの力じゃお父さんたちに会えなかった…。みんなで元の綺麗なお店にして、帰ってきたお父さんたちを驚かせちゃお!」
「お父さんたち、もう会えないの…?」
 私の最初の言葉にノゼルが不安そうに瞳を揺らしながら問いかけてくるので、私は励ますためににっこりと笑ってこう言った。
「大丈夫。必ず私がお父さんとお母さんを連れて帰ってくる。約束したでしょう?今日は難しかったけど…、私のお父さんとお母さんを連れ戻すのに協力してくれる人がいてね。その人のところで少しやることがあるから、私は明日からの日中出かけることになるんだけど…、シダヤ、ノゼル。あなたたちはどうしたい?」
 私からの問いかけに2人は顔を見合わせて頷いた。
「僕らはお姉ちゃんの手伝いをする。お店を空っぽにしておくのも嫌だし、僕らがお店を守る!」
「シダヤ…。」
「お姉ちゃんはお父さんたちを連れて帰ってくることを優先して…?私とシダヤがいれば無敵だもん!ね、シダヤ。」
「うん!だから、お姉ちゃんは心配しないでやるべきことをやって!」
「2人とも…大人っぽいこと、言えるようになっちゃってー!!!」
 私は2人の決意を聞いて感動し泣きそうになるのをグッと我慢して2人を思いっきり抱きしめた。
 そして、この日から私たちの生活は変わり始めた。
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