34 / 39
浅井氏の興亡
天照朝輝教の威力
しおりを挟む
♠️天正元年(1573年9月)
金ヶ崎から帰った二ヶ月後には史実の通り姉川の戦いが起こった。史実と違ったところはこの戦いで浅井から奪った城―横山城の守将が木下殿ではなく、俺になったことだった。
調略の得意な木下殿に先んじて、俺が天照朝輝教(以下、朝輝教)を使って以前から浅井の家臣達の調略に勤しんでいたからだ。
朝輝教が広がるメカニズムには段階がある。
天照女神像を売ってるのを見るとその像に魅了されて買わずにはいられなくなる。そして、三文という安さもあってつい買ってしまう。
像を買うと、暇があったら拝むようになる。
それから、周囲のものに像をみせて天照女神像を買うようにすすめだす。
そうして天照女神像が広まったところに天照女神像の行商人達が朝輝教の教義と戒律を伝えに行く。
朝輝教の教義はシンプルだ。天照女神像を一心にあがめていれば死んだあと、天照大神の元へ運ばれて現世の罪を禊がれて、幸福な来世が約束されるというもの――いわゆる、来世利益型の宗教。
だから死んだ後、天照大神に会う時に自分が恥ずかしい思いをしないように、現世では真っ当な生き方をしようという教え。――天道と言われるものだ。
天道は朝輝教がおこる以前から広まっていた。だからこそ、天道に基づいた教えである朝輝教が三年という短い期間で爆発的に広まったのである。
(天照様に来世を用意された俺自身が幸福かどうかまだわからないが…。)
戒律もシンプルに二つだけ。
一つ目は〝朝輝教の教主の教えや命令に背くべからず。〟
教主がカラスは白いといったら白いのだ。
二つ目は〝教主の名前、教え、命令を騙るべからず〟
今の教主は堯俊。そのことは行商人達が信者に伝えている。堯俊の教えや命令も行商人達が信者に伝える。背いたものには天罰がくだるという設定だ。
天照女神像には神通力があり、信者はこれらの戒律を破れない。教主を騙るものは決していないのである。
そして、信者でないものは信者にはっきりとわかる。信者達は他人が天照女神像を熱烈に愛好しているかどうか一目で正確に判断するのである。
信者でないものが教主を騙れば、その者の身は保証されない。――端的に言えば、信者から袋叩きにされる。
こうして朝輝教は日本の最高神を祀っていることと、現世が荒れていることもあいまって爆発的にその信者を増やしていった。
近畿、東北の全域は朝輝教の信者に溢れている。四国、中部地方の一部にも広まっており、織田、徳川の両家の家中もほとんどが天照教信者となっているのが現状。信長様も家康殿も信者なのである。――信長様には神通力の効力が薄いらしく、戒律にあまりとらわれていないが。
本願寺、延暦寺など近畿にあるほとんどの宗教勢力も朝輝教に併合されていった。
今ではそれらの宗教勢力が積極的に朝輝教を広めている。
朝輝教教主・堯俊は信長様を支持しており、信者達にも織田信長の味方をするように命じている。そのおかげで比叡山を焼き討ちする必要が無くなった。長島の一向一揆のほしごろしも本願寺との戦いも起こらない筈だ。
俺たちが硝石の国産化に成功し市場にながしだしたことで硝石の値段が下がり、硝石目当てに入信していたキリシタン大名たちも朝輝教に宗旨変えしている。
南蛮の宣教師たちは取り込めていないが、畿内におけるキリスト教徒の獲得は難しいだろう。一神教たるキリスト教と多神教たる朝輝教は決して相容れないのである。天照女神像及び朝輝教を悪魔と罵るキリスト教の宣教師達は畿内から淘汰されつつある。
(外見が南蛮の宣教師・中身が現代日本人である俺からしてみれば、別にクリスマスに教会へミサにいって、正月に神社へお参り。結婚式はキリスト教式で葬式は寺社であげる。とかやってもいいと思うけど…。このままだと、キリスト教に関係する行事――クリスマスやバレンタインデーなどの社畜の敵は日本から自然消滅か。……残念無念っ♪)
天皇家の祖神である天照大神を祀っているとあって、貴族の間でも朝輝教は大人気である。したがって、貴族も大部分は織田信長を支持している。
近畿内で織田家に敵対する勢力は信長様の操り人形とみられることを嫌っている将軍・足利義昭、浅井長政・久政親子、朝倉義景、六角氏、三好氏らのみ。
将軍・足利義昭はのちにお手紙将軍と揶揄られるほど各地の有力な勢力に信長様を討つよう追討令を送りまくっている。
これに応じているのは浅井・朝倉両氏、六角氏、三好氏以外では中国地方の雄・毛利氏、越後の上杉氏、甲斐の武田氏、関東の北条氏くらいのもの。
九州にも朝輝教は広がってないので、九州の大名達ともいずれは戦うことになるだろう。
(でかい敵はだいぶ残っているが、宗教勢力を相手にしなくていいぶん楽になったかもしれない)
朝輝教の出現によって国内は概ね朝輝教の信者と信者以外のものに二分されている。潜在的にその二つの勢力が争っている感じか?
おれは、この状況に至るのを横山城で浅井・朝倉氏を内部から切り崩すことに専念しつつ、じっとまっていた。
横山城に入って3年。やっと時は満ちた。浅井・朝倉を滅ぼすのは今である。
これを機に朝輝教の威力を世に示す。
作戦のほうだが…。朝倉氏のほうは、本拠から離れて小谷城に援軍に来ている。本国に何かあったら大慌てで帰ることだろう。朝倉氏の本拠である越前で大規模な一揆でも起こさせてやるかな?帰ったところを追いかけて行って討つ。
小谷のほうではというと…ふむ。調略により、城内の将兵はほとんど寝返っている。浅井方に残る人数は数百人といったところだろう。どうとでもできるが…残った兵で玉砕突撃(バンザイアタック)にくるのはやめてもらいたい。敵味方双方の将兵の命がもったいないし。なんとかして無条件無抵抗で降伏してもらいたいところだが…。さて、どうしようか??
金ヶ崎から帰った二ヶ月後には史実の通り姉川の戦いが起こった。史実と違ったところはこの戦いで浅井から奪った城―横山城の守将が木下殿ではなく、俺になったことだった。
調略の得意な木下殿に先んじて、俺が天照朝輝教(以下、朝輝教)を使って以前から浅井の家臣達の調略に勤しんでいたからだ。
朝輝教が広がるメカニズムには段階がある。
天照女神像を売ってるのを見るとその像に魅了されて買わずにはいられなくなる。そして、三文という安さもあってつい買ってしまう。
像を買うと、暇があったら拝むようになる。
それから、周囲のものに像をみせて天照女神像を買うようにすすめだす。
そうして天照女神像が広まったところに天照女神像の行商人達が朝輝教の教義と戒律を伝えに行く。
朝輝教の教義はシンプルだ。天照女神像を一心にあがめていれば死んだあと、天照大神の元へ運ばれて現世の罪を禊がれて、幸福な来世が約束されるというもの――いわゆる、来世利益型の宗教。
だから死んだ後、天照大神に会う時に自分が恥ずかしい思いをしないように、現世では真っ当な生き方をしようという教え。――天道と言われるものだ。
天道は朝輝教がおこる以前から広まっていた。だからこそ、天道に基づいた教えである朝輝教が三年という短い期間で爆発的に広まったのである。
(天照様に来世を用意された俺自身が幸福かどうかまだわからないが…。)
戒律もシンプルに二つだけ。
一つ目は〝朝輝教の教主の教えや命令に背くべからず。〟
教主がカラスは白いといったら白いのだ。
二つ目は〝教主の名前、教え、命令を騙るべからず〟
今の教主は堯俊。そのことは行商人達が信者に伝えている。堯俊の教えや命令も行商人達が信者に伝える。背いたものには天罰がくだるという設定だ。
天照女神像には神通力があり、信者はこれらの戒律を破れない。教主を騙るものは決していないのである。
そして、信者でないものは信者にはっきりとわかる。信者達は他人が天照女神像を熱烈に愛好しているかどうか一目で正確に判断するのである。
信者でないものが教主を騙れば、その者の身は保証されない。――端的に言えば、信者から袋叩きにされる。
こうして朝輝教は日本の最高神を祀っていることと、現世が荒れていることもあいまって爆発的にその信者を増やしていった。
近畿、東北の全域は朝輝教の信者に溢れている。四国、中部地方の一部にも広まっており、織田、徳川の両家の家中もほとんどが天照教信者となっているのが現状。信長様も家康殿も信者なのである。――信長様には神通力の効力が薄いらしく、戒律にあまりとらわれていないが。
本願寺、延暦寺など近畿にあるほとんどの宗教勢力も朝輝教に併合されていった。
今ではそれらの宗教勢力が積極的に朝輝教を広めている。
朝輝教教主・堯俊は信長様を支持しており、信者達にも織田信長の味方をするように命じている。そのおかげで比叡山を焼き討ちする必要が無くなった。長島の一向一揆のほしごろしも本願寺との戦いも起こらない筈だ。
俺たちが硝石の国産化に成功し市場にながしだしたことで硝石の値段が下がり、硝石目当てに入信していたキリシタン大名たちも朝輝教に宗旨変えしている。
南蛮の宣教師たちは取り込めていないが、畿内におけるキリスト教徒の獲得は難しいだろう。一神教たるキリスト教と多神教たる朝輝教は決して相容れないのである。天照女神像及び朝輝教を悪魔と罵るキリスト教の宣教師達は畿内から淘汰されつつある。
(外見が南蛮の宣教師・中身が現代日本人である俺からしてみれば、別にクリスマスに教会へミサにいって、正月に神社へお参り。結婚式はキリスト教式で葬式は寺社であげる。とかやってもいいと思うけど…。このままだと、キリスト教に関係する行事――クリスマスやバレンタインデーなどの社畜の敵は日本から自然消滅か。……残念無念っ♪)
天皇家の祖神である天照大神を祀っているとあって、貴族の間でも朝輝教は大人気である。したがって、貴族も大部分は織田信長を支持している。
近畿内で織田家に敵対する勢力は信長様の操り人形とみられることを嫌っている将軍・足利義昭、浅井長政・久政親子、朝倉義景、六角氏、三好氏らのみ。
将軍・足利義昭はのちにお手紙将軍と揶揄られるほど各地の有力な勢力に信長様を討つよう追討令を送りまくっている。
これに応じているのは浅井・朝倉両氏、六角氏、三好氏以外では中国地方の雄・毛利氏、越後の上杉氏、甲斐の武田氏、関東の北条氏くらいのもの。
九州にも朝輝教は広がってないので、九州の大名達ともいずれは戦うことになるだろう。
(でかい敵はだいぶ残っているが、宗教勢力を相手にしなくていいぶん楽になったかもしれない)
朝輝教の出現によって国内は概ね朝輝教の信者と信者以外のものに二分されている。潜在的にその二つの勢力が争っている感じか?
おれは、この状況に至るのを横山城で浅井・朝倉氏を内部から切り崩すことに専念しつつ、じっとまっていた。
横山城に入って3年。やっと時は満ちた。浅井・朝倉を滅ぼすのは今である。
これを機に朝輝教の威力を世に示す。
作戦のほうだが…。朝倉氏のほうは、本拠から離れて小谷城に援軍に来ている。本国に何かあったら大慌てで帰ることだろう。朝倉氏の本拠である越前で大規模な一揆でも起こさせてやるかな?帰ったところを追いかけて行って討つ。
小谷のほうではというと…ふむ。調略により、城内の将兵はほとんど寝返っている。浅井方に残る人数は数百人といったところだろう。どうとでもできるが…残った兵で玉砕突撃(バンザイアタック)にくるのはやめてもらいたい。敵味方双方の将兵の命がもったいないし。なんとかして無条件無抵抗で降伏してもらいたいところだが…。さて、どうしようか??
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる