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宴会に来なくてええんかい?
タウリンてなんじゃ?〜錬金術です
しおりを挟む永禄12年4月16日本能寺茶室
「ゴクゴクっ…プハー。なんじゃこれは、胃の腑に染み渡るようじゃ。うまいっ」
信長様は、〝ネギとアサリのコンソメ風スープ〟を一気のみされてそう仰った。
飲んだ後のシジミやアサリのエキスは最高だろう。
…タウリンて成分が肝臓の働きを高めてくれるんですよなんて説明しても、わからないよな?なんだそれ?って聞かれてもうまく説明できないし。化学いや、錬金術って言ってもわからないと思う。
「具や味噌が入っておりませんが、それはアサリとネギを煮詰めて、ろ紙で濾過したものです。スープというものですね。アサリやシジミの汁は酒を飲んだあとの悪酔いに効くのです」
「であるか」
こんな会話をしながら、信長様の表情を伺ってみる。
………………………。
…………………。
……………。
意外と大丈夫そうだ。
そういえば…二条城の完成式典では、足利義昭公が手ずから信長様に酌をされて、労を労ったという記述が信長公記にあったな。今回は信長様の癪に触るようなことはされなかったのだろう。
「ふむ、2日続きの宴会で胃の腑が疲れておる一品目に最適か。あっぱれである」
「ありがとうございます」
あとは、デザートか。他のメニューはもう信長様に味見をして頂いている。スープは酒を飲んだあとでしかわからない胃の腑に染み渡る感じを味わって欲しかったのでこのタイミングで味見をしてもらった。
デザートも暖かい季節では寒天が作れなかったのと白ワインが酢になっていたというアクシデントがあって、今からの試食となった。
枇杷のコンフォートと枇杷シロップのところてんをコトンと配膳する。
「枇杷を酒と砂糖で煮詰めたものと、その汁をところてんにかけたものでございます」
「ふむ。いただこう」
パクパク、ズルズルズルと…信長様は目を輝かせながら嬉しそうに食べている。
(信長様は甘党って説は本当だったんだな)
そんなことを思いながら、俺は他の宣教師仲間から分けてもらったカモミールティーを入れた。
そんなに嬉しそう食べられると料理人冥利につきる。…料理人じゃないけど。
♠️
最後に信長様は、カモミールティーとお土産に渡す予定の枇杷餡の羊羹を食し、「ふぅー」と満足げに息をもらされた。
「ふむ。うまかったぞ。南蛮の汁に南蛮の茶、この国の菓子か…ただうまいだけでなく疲れた胃の腑に染み渡るよう考えておる」
「ははっ」
さすがは信長様。よくわかっていらっしゃる。
「甘い物と南蛮の茶も疲れた心身に染み渡った。わしが疲れて帰ってくることを予期しておったのか?」
「は。まぁ…でも思ったより疲れてなさそうだったのですが?」
「いや、疲れたぞ?今宵の宴も華美ではあったが、将軍や将軍の側近、そして十兵衛め。来た客のことを考えておらぬ。つまらなくて肩がこったわ。うまい食事と客への心遣い。それだけで良いものをもったいつけおって」
信長様はため息交じりにそういった。本当に疲れてそうだ。
信長様は優れた茶人でもある。客人のことを考えていない宴に参加しても腹ただしいだけだし、疲れるだけだったのだろう。
「はぁ…。それは、疲れましたでしょう。お茶をもう一杯飲んでゆっくりお休みください。そのお茶には鎮静作用や催眠作用などがありますから」
「ふむ。そうしよう」
俺は、そういって熱いお茶を入れて一礼して下がった。
俺の今日の役目はここまでだ。信長様と一緒に寝る趣味はない。誰かと一緒に寝るのかもしれないが想像したくもないし、明日は忙しくなるので俺も早々に寝たのだった。
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