今日のドライブ

1章 白雪とドライブ

２話 澤田教習所

　拓斗が楽しみにしていたこと、それは都会では必要がなく所持することは金銭的に困難な自動車を地元の田舎で運転することだった。
　従妹の白雪はそのまま地元に就職したので日常の足として自分の車を持っている。それを借りてドライブするのが拓斗の帰省中の唯一の楽しみなのだ。
　１８歳で免許を取ってからというもの、そのまま上京して車を運転する機会がほとんどなく、たまに実家に帰った時両親の車を借りることでしか運転する機会がない拓斗にとって白雪とのドライブは心躍るものがある。
　彼自身は運転することは苦手ではなく、むしろ好きなのだ。しかし都会の環境が彼をペーパードライバーにしているため仕方ないのだが。
　家の前には一台の車が止めてある。白雪の車だ。このご時世には珍しくMT車である。白雪も車好きで暇さえあればよくドライブしているらしい。
　まずは助手席に乗り込む。狭い住宅地の道路ではペーパーの拓斗では少々荷が重すぎるのだ。白雪の運転で車通りの少ない広い道路まで連れて行ってもらう。
　「ふふっ、なれたら自宅周りでも練習しないといけないな。」
　白雪が運転席に乗り込み笑いながら練習メニューを増やしてゆく。しばらくは勘弁してくれと苦笑いする拓斗。
　今日の練習場は近場の山の尾根を走る山道だ。山道といっても観光道路らしくちゃんと舗装されて道幅も広い。途中にある駐車場からは麓の景色を一望できる場所がある。
　今日はそこで運転を交代して練習する予定だ。