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「失礼いたしました。男爵令息とはつゆ知らず……」
フェリセットの身分は一応が付くが公爵令嬢である。公爵家の方が上であるが向こうは跡取りで、もちろん実子だろう。
フェリセットは成り上がった事をひけらかす趣味はなかった。自分の行いが悪ければ、幸せに暮らしているママと弟にも類が及びかねないからだ。
「いえいえ、爵位は名ばかりで俺なんて農民みたいなものですから」
「あた……私はフェリセット・グロッシーと申します。今年騎士見習いになったばかりで」
今度はネイサンが驚く番だった。
「グロッシー……まさか、公爵令嬢なのですか? そんな方がなぜ遠征に?」
「この通り、生粋の貴族の生まれではなくて養女ですから」
フェリセットが耳をばたつかせるとネイサンは納得した様子だった。
「グロッシー公爵は篤志家で有名でいらっしゃいますからね」
「そうですね。とても素晴らしい方ですよ」
「それにしても、どうして騎士に?」
「見聞を広げるため……ですかね? あとは元々、野外活動に興味がありまして……」
今この場で自分の生い立ちについて説明するのはあまりに冗長すぎる、とフェリセットは思った。
たき火がパチっと大きな音を立て、その音に気を取られたかのように会話は終わった。
「……」
「……」
……この沈黙はなんなのだろうとフェリセットは尻尾をぱたぱたと動かした。ネイサンは何か考えこんだ後、立ち上がった。
「……もしよろしければ、踊っていただけませんか」
「えーっと……」
フェリセットはまごついた。踊りませんか、と言うのはもっと仲良くしませんか、の意味に他ならない。ためらっていると、ネイサンは手を引っ込めた。
「すみません。ご令嬢を誘うには、あまりにも野蛮な踊りでした」
「いえ、そんなことは」
少なくともかしこまったワルツよりはよっぽどフェリセットの性にあっている。なんならダンスではなくたき火の上を飛び越える度胸試しでもいいくらいだ。
「では、せっかくなので……」
フェリセットは立ち上がった。ネイサンの背後では子供達が踊りながら手招きをしていていかにも楽しそうであるし、ダンスをするのは貴族の嗜み、森で言うならボール投げぐらいのものかもしれないと思って、フェリセットが立ち上がった瞬間。
──殺気!
背後にただならぬ気配を感じてフェリセットは振り向いた。しかし森は闇に包まれており、たき火の明かりも届かない。ただ、梟の飛び去る音が聞こえるのみだった。
──絶対、何かいた。
おそるおそる『何か』がいた方向に近付いてみると、そこには何か大きな力で押しつぶされたようにへし折れた木があった。
「これは、なんだ……? 魔物でしょうか?」
ネイサンがこわごわと言った様子で木を見つめる。フェリセットにはなんとなく、心当たりがあった。
──多分、ルイがやったんだろうなあ。
しかし理由がわからないし、証拠もないし「我らが皇子は罪のない木を破壊するような男なんです」とは言いにくい。
「いえ~……多分、根本が腐っていたんじゃないですかね。そのうちキノコが生えるでしょうから、これはこれでいいと思いますよ」
フェリセットは手短に答え、ダンスはせずにさっさとその場を離れることにした。
フェリセットの身分は一応が付くが公爵令嬢である。公爵家の方が上であるが向こうは跡取りで、もちろん実子だろう。
フェリセットは成り上がった事をひけらかす趣味はなかった。自分の行いが悪ければ、幸せに暮らしているママと弟にも類が及びかねないからだ。
「いえいえ、爵位は名ばかりで俺なんて農民みたいなものですから」
「あた……私はフェリセット・グロッシーと申します。今年騎士見習いになったばかりで」
今度はネイサンが驚く番だった。
「グロッシー……まさか、公爵令嬢なのですか? そんな方がなぜ遠征に?」
「この通り、生粋の貴族の生まれではなくて養女ですから」
フェリセットが耳をばたつかせるとネイサンは納得した様子だった。
「グロッシー公爵は篤志家で有名でいらっしゃいますからね」
「そうですね。とても素晴らしい方ですよ」
「それにしても、どうして騎士に?」
「見聞を広げるため……ですかね? あとは元々、野外活動に興味がありまして……」
今この場で自分の生い立ちについて説明するのはあまりに冗長すぎる、とフェリセットは思った。
たき火がパチっと大きな音を立て、その音に気を取られたかのように会話は終わった。
「……」
「……」
……この沈黙はなんなのだろうとフェリセットは尻尾をぱたぱたと動かした。ネイサンは何か考えこんだ後、立ち上がった。
「……もしよろしければ、踊っていただけませんか」
「えーっと……」
フェリセットはまごついた。踊りませんか、と言うのはもっと仲良くしませんか、の意味に他ならない。ためらっていると、ネイサンは手を引っ込めた。
「すみません。ご令嬢を誘うには、あまりにも野蛮な踊りでした」
「いえ、そんなことは」
少なくともかしこまったワルツよりはよっぽどフェリセットの性にあっている。なんならダンスではなくたき火の上を飛び越える度胸試しでもいいくらいだ。
「では、せっかくなので……」
フェリセットは立ち上がった。ネイサンの背後では子供達が踊りながら手招きをしていていかにも楽しそうであるし、ダンスをするのは貴族の嗜み、森で言うならボール投げぐらいのものかもしれないと思って、フェリセットが立ち上がった瞬間。
──殺気!
背後にただならぬ気配を感じてフェリセットは振り向いた。しかし森は闇に包まれており、たき火の明かりも届かない。ただ、梟の飛び去る音が聞こえるのみだった。
──絶対、何かいた。
おそるおそる『何か』がいた方向に近付いてみると、そこには何か大きな力で押しつぶされたようにへし折れた木があった。
「これは、なんだ……? 魔物でしょうか?」
ネイサンがこわごわと言った様子で木を見つめる。フェリセットにはなんとなく、心当たりがあった。
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しかし理由がわからないし、証拠もないし「我らが皇子は罪のない木を破壊するような男なんです」とは言いにくい。
「いえ~……多分、根本が腐っていたんじゃないですかね。そのうちキノコが生えるでしょうから、これはこれでいいと思いますよ」
フェリセットは手短に答え、ダンスはせずにさっさとその場を離れることにした。
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