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「おーいおいおい」
「一騎打ちだ!」と息巻いたのはいいものの、今ではこの有様である。かっこよく「くっ! 殺せ!」と辞世の句、もとい決め台詞を口にしようと思ったのに、それも噛んで失敗してしまったのである。そのようなわけで、フェリセットはあまりの情けなさに泣いていた。
「やれやれ。勢いよく向かってくるならばよほど勝算があるのかと。まさか本当の本当に無策とはね。父親の話すらろくに聞いていないんじゃ、戦争に勝っても負けてもお先真っ暗だ」
頭上にルイからの嘲りの言葉が降ってくる。フェリセットは鉄兜の中で、ぎりりと歯を食いしばった。確かにガブラスは「とても勝ち目がない」とは言っていた。そんな父に対し、フェリセットは「父ちゃんのタマなし!」と罵って会議の場を後にしたのだ。やはり父は正しかった──。
失敗を糧に成長するのだ、と平常時の教育者などは口にするだろう。しかし戦場ではただ一度の失敗ですべてを失う。数時間前のフェリセットは、それを理解していなかったのだ。
「こいつ、どうします? しかし、オークにもこんなちっこいのがいるんですね。メスはこんなもんなのか?」
「好きにしろ。交渉に使えるなら良し」
「はあ。じゃあ適当に処理しときますわ。俺の親戚に異種姦好きがいるもんで、そいつなら喜んで引き受けるかも」
気の抜けた声色ではあるが、その内容は物騒極まりない。フェリセットの脳裏に、間違った知識が顔をのぞかせた。
「あ……あたしを凌辱するつもりだなーー!?」
フェリセットは自称女騎士。女騎士とは戦場に咲き誇る一輪の花。当然、手折ろうと彼女に手を伸ばす輩も多く……。
「オークは好みじゃない」
ルイは苛立ちを感じ、兜を踏みつける足にに体重をかけた。兜の先端がぐし、と地面にめり込む音がし、土埃が鼻に侵入したため、フェリセットはうめいた。
「ぐえっ」
「はあ、くだらん。寝る」
獲物をなぶるのは自分の悪い癖だ。ルイはそう思いながらも、足を浮かせ、フェリセットの兜を蹴り飛ばした。その行動に特に意味はなく、苛立ち故の気まぐれであった。
カラカラと音を立て、兜は転がっていく。オーク特有の緑がかった肌色と、焦げ茶の体毛ではなく、ふわりと亜麻色の髪の毛が月明かりに晒された。
「……おや」
全身甲冑の中から現れた女の姿に、ルイは目を見張った。オークではなかった。人間──自分と同じヒューマンとほぼ変わらないその姿。ただひとつ、違うのは──。
「一騎打ちだ!」と息巻いたのはいいものの、今ではこの有様である。かっこよく「くっ! 殺せ!」と辞世の句、もとい決め台詞を口にしようと思ったのに、それも噛んで失敗してしまったのである。そのようなわけで、フェリセットはあまりの情けなさに泣いていた。
「やれやれ。勢いよく向かってくるならばよほど勝算があるのかと。まさか本当の本当に無策とはね。父親の話すらろくに聞いていないんじゃ、戦争に勝っても負けてもお先真っ暗だ」
頭上にルイからの嘲りの言葉が降ってくる。フェリセットは鉄兜の中で、ぎりりと歯を食いしばった。確かにガブラスは「とても勝ち目がない」とは言っていた。そんな父に対し、フェリセットは「父ちゃんのタマなし!」と罵って会議の場を後にしたのだ。やはり父は正しかった──。
失敗を糧に成長するのだ、と平常時の教育者などは口にするだろう。しかし戦場ではただ一度の失敗ですべてを失う。数時間前のフェリセットは、それを理解していなかったのだ。
「こいつ、どうします? しかし、オークにもこんなちっこいのがいるんですね。メスはこんなもんなのか?」
「好きにしろ。交渉に使えるなら良し」
「はあ。じゃあ適当に処理しときますわ。俺の親戚に異種姦好きがいるもんで、そいつなら喜んで引き受けるかも」
気の抜けた声色ではあるが、その内容は物騒極まりない。フェリセットの脳裏に、間違った知識が顔をのぞかせた。
「あ……あたしを凌辱するつもりだなーー!?」
フェリセットは自称女騎士。女騎士とは戦場に咲き誇る一輪の花。当然、手折ろうと彼女に手を伸ばす輩も多く……。
「オークは好みじゃない」
ルイは苛立ちを感じ、兜を踏みつける足にに体重をかけた。兜の先端がぐし、と地面にめり込む音がし、土埃が鼻に侵入したため、フェリセットはうめいた。
「ぐえっ」
「はあ、くだらん。寝る」
獲物をなぶるのは自分の悪い癖だ。ルイはそう思いながらも、足を浮かせ、フェリセットの兜を蹴り飛ばした。その行動に特に意味はなく、苛立ち故の気まぐれであった。
カラカラと音を立て、兜は転がっていく。オーク特有の緑がかった肌色と、焦げ茶の体毛ではなく、ふわりと亜麻色の髪の毛が月明かりに晒された。
「……おや」
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