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68 フェリセットの激白
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腹が減っては戦ができぬ、と言うわけでフェリセットは夕食の場に招かれていた。
柔らかな子牛の肉を赤ワインで煮たものはグランスフィアでは定番の料理で、フェリセットの新しいお気に入りの一つだった。
この場の主人はグロッシー公爵である。フェリセットはママのためにも、お行儀良く振る舞う様努力しながら肉を頬張った。
フェリセットは食事のさなか、これまでは魔の森にあるオークの集落に住んでいたが、戦争をきっかけに出稼ぎにやってきたのだと自分の身の上を偽装した。
「……さて。我々の自己紹介はもういいだろう。君からの質問は何かないのかな?」
「えーと……グロッシー公爵様は、ランスタッド公爵との仲はどうですか」
フェリセットがなんとか捻り出した質問に、グロッシー公爵は探るような視線を向けた。
「どちらかと言えば悪いが……君はそちらの関係者なのか?」
「いいえ。虐められたことがあるだけです」
ぶんぶんと首を振り、全身で否定をする。
「そうか。なら良し。永久に仲良くなることはないから安心したまえ。そうだな──ルイ皇子とは親しくさせていただいている」
フェリセットはぎこちなく笑う。この人はルイを知っているらしい。もしかすると、もうこっそり追っ手がやって来ていて、ただ自分を揶揄っているだけなのかもしれない──とフェリセットはテーブルの向こう側を観察した。ジューンはぼうっと夢見心地のような表情で愛娘を見つめ返した。
「ところでフェリセット、君は食事姿が綺麗なんだね。その、言い方は悪いが、平民育ちなのだろう?」
フェリセットは顔に貼り付けた笑みを動かすことができなかった。テーブルマナーはルイの仕草をそっくりそのまま真似ただけである。
「あ、そうです……かね。都会暮らしで結構な贅沢が身についちゃって~」
その言葉を聞き、ジューンは夢から覚めたように、キリッとした表情に戻った。
「服に、ネックレス。安いものではないわ。……なぜ貴族の内情に詳しいの? 今の家はどこ? お仕事先は?」
柔らかな子牛の肉を赤ワインで煮たものはグランスフィアでは定番の料理で、フェリセットの新しいお気に入りの一つだった。
この場の主人はグロッシー公爵である。フェリセットはママのためにも、お行儀良く振る舞う様努力しながら肉を頬張った。
フェリセットは食事のさなか、これまでは魔の森にあるオークの集落に住んでいたが、戦争をきっかけに出稼ぎにやってきたのだと自分の身の上を偽装した。
「……さて。我々の自己紹介はもういいだろう。君からの質問は何かないのかな?」
「えーと……グロッシー公爵様は、ランスタッド公爵との仲はどうですか」
フェリセットがなんとか捻り出した質問に、グロッシー公爵は探るような視線を向けた。
「どちらかと言えば悪いが……君はそちらの関係者なのか?」
「いいえ。虐められたことがあるだけです」
ぶんぶんと首を振り、全身で否定をする。
「そうか。なら良し。永久に仲良くなることはないから安心したまえ。そうだな──ルイ皇子とは親しくさせていただいている」
フェリセットはぎこちなく笑う。この人はルイを知っているらしい。もしかすると、もうこっそり追っ手がやって来ていて、ただ自分を揶揄っているだけなのかもしれない──とフェリセットはテーブルの向こう側を観察した。ジューンはぼうっと夢見心地のような表情で愛娘を見つめ返した。
「ところでフェリセット、君は食事姿が綺麗なんだね。その、言い方は悪いが、平民育ちなのだろう?」
フェリセットは顔に貼り付けた笑みを動かすことができなかった。テーブルマナーはルイの仕草をそっくりそのまま真似ただけである。
「あ、そうです……かね。都会暮らしで結構な贅沢が身についちゃって~」
その言葉を聞き、ジューンは夢から覚めたように、キリッとした表情に戻った。
「服に、ネックレス。安いものではないわ。……なぜ貴族の内情に詳しいの? 今の家はどこ? お仕事先は?」
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