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数日のちに二人は再び市街地に降りたっていた。絵画展に出かけたのが随分と昔のように感じるが、実際にはそれほど日にちは経過していないのだった。

 今日も使用人は伴わず、二人だけでの外出だ。フェリセットはこの日のために新しく仕立てた濃いバラ色ののワンピースを身につけている。流行のデザイン画の中からフェリセットが自分で選んだものだ。そこに他の誰かの面影はないはずだった。

「よく似合うよ。可愛いね」

 ルイはそう言ってフェリセットの髪を撫でた。その言葉にはまったく嘘がない事ぐらいは、フェリセットは信じる事ができる。

「まあ、自分でも薄々相当かわいいんじゃないかって思ってた」

 ──冗談が空回りしたのがバレていませんように、とフェリセットはルイの半歩ほど前を歩いてゆく。

 大通りに面した店は正しく顧客と冷やかしを判断できているようで、二人が近寄ると音もなくガラス張りの扉が開かれた。

「好きなものを選ぶといい」

 ルイの指が触れた瞬間、フェリセットの首にぴったりと張り付いていたチョーカーがはらりと解けた。

 引っ張っても、刃物を当ててもびくともしなかった戒めがこんなに簡単に外れることに、フェリセットは虚脱にも似たものを感じた。

 ──どうして、チョーカーを外すなんてことをするんだろう。油断しているのかな。それとも……逃げた所で構わないと言う事?

 急に自分の存在が不確かに思えてきて、フェリセットの思考は再びぐるぐるとし始める。


「お客様、いかがでしょうか」

 フェリセットは気がつくと、一人でソファーに腰掛けて品の良い女性店員の接客を受けていた。ぼんやりとしながらも、身体は勝手に動いていたのだ。

 どうなさいますか? と問いかけられてじっと目の前にあったビロードのケースを見つめるが、すべての商品があまりに美しすぎて偽物のように感じられたし、これらを身につけている自分がどうにも想像できなかったのだが、店員の張り付いた笑顔の中に困惑の色を見つけ、彼女のためにも何かを選ばなければいけないのだと気を取り直す。

「これをお願いします」

 チョーカーごとルイがいなくなってしまったために意見を聞くことが出来ず、フェリセットは仕方なしに一番石の小さいものを選んだ。

 チョーカーが外された首に、代わりに細い金鎖がかけられる。

 その先端にはハート形にカットされた赤い宝石があしらわれている。このぐらいの大きさなら、普段から首にぶら下げておいても不都合はないだろう。

「──とてもよくお似合いですよ!」

 フェリセットは鏡の中の自分を覗きこむ。肌はつやつや、髪の毛もさらさら。チョーカーが巻かれていない首は細くて頼りなく──気の弱そうな顔をしていた。

 ──こんなの、あたしじゃないや。ルイはこれでいいの?

 やはり今の自分は偽物なのだ。フェリセットは突然に、そんな思いにとらわれる。
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