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二人でも広すぎるベッドは、一人だとなおさら持て余す。
──遅く帰ってきたときでも、必ず頭を撫でてくれたっけ。
ベッドの真ん中に横たわり、シーツにくるまる。ぼんやりと天井を見つめていると、フェリセットはどうしようもなくルイが恋しくなった。しかし、ここにルイはいない。
帰ってきたら『代わりでも構わない』と言って、元通りに接してもらおうか。フェリセットはそんな思いにとらわれる。寝返りをうち、ため息をつく。
──ばかばかしい。そんな事を言って、もし今度は自分が拒絶されたら? 自分の事を棚に上げて、ますます傷ついてしまうだろう。
これは失恋の痛みなどではなく、ただの性欲でしかないのだと、フェリセットは前向きに解釈することにした。
もやもや、苛々するのは欲求不満のせいである。身体に溜まった淀みを吐き出せば、楽になるはず──。
フェリセットはそっと手を伸ばし、自分の秘所に触れた。最初は布越しに、そっと肉の芽をつぶすように。ゆっくりと、いつもしてもらっていた事を思い出しながら。
「ふ、あ、んんっ……」
快感ではあるものの、震えるような絶頂とはほど遠く、もどかしい。見えない壁があり、どうしてもその先を超える事ができない。
きっと刺激が足りないのだ……と下着に手を差し入れ、直接敏感な箇所に触れようとしたその時、突如寝室の扉が開いたのでフェリセットの体はシーツの中で跳ねた。
「ひゃっ!」
遅く帰って来ると言ったはずのルイが、随分早い時間に戻ったのだ。行為に没頭していたフェリセットは、玄関で物音がしたのに全く気がついていなかった。
「お、おか、おかえり……」
フェリセットは慌てて、額にべっとりと張り付いた前髪を払い取った。こんなに早く帰ってくるなんて……と息が乱れ、不自然に肩が上下する。
どうか、一人で行為に耽っていたのがバレていませんように──とフェリセットは祈った。
「ただいま」
その何気ない返事に、フェリセットはわずかに怖れを抱いた。ルイの機嫌が悪いと、本本能が告げてきたのだ。
おそらく気分を害するような何かが起きて、予定を切り上げて戻ってきたのだろうと、フェリセットは居心地悪げにもぞもぞと足をこすり合わせた。
「何してたの?」
「……えっ」
一見何気ない問いかけに、フェリセットは慌てる。身体は寝具で隠れており、服も身につけている。一目ではわからないと思っていたのだが、もしかすると扉を開ける前から様子を窺われていたのかもしれないと顔が火照る。
「いや、べつに、なにも……寝てた」
「ふうん」
含みのある声色。やっぱり、今日のルイは機嫌が悪い。これ以上何を返せばいいのかと、フェリセットは俯く。その頭上に、つめたい声が降ってくる。
「そんな事している暇があるなら、僕の相手をしてくれてもいいんじゃない?」
──遅く帰ってきたときでも、必ず頭を撫でてくれたっけ。
ベッドの真ん中に横たわり、シーツにくるまる。ぼんやりと天井を見つめていると、フェリセットはどうしようもなくルイが恋しくなった。しかし、ここにルイはいない。
帰ってきたら『代わりでも構わない』と言って、元通りに接してもらおうか。フェリセットはそんな思いにとらわれる。寝返りをうち、ため息をつく。
──ばかばかしい。そんな事を言って、もし今度は自分が拒絶されたら? 自分の事を棚に上げて、ますます傷ついてしまうだろう。
これは失恋の痛みなどではなく、ただの性欲でしかないのだと、フェリセットは前向きに解釈することにした。
もやもや、苛々するのは欲求不満のせいである。身体に溜まった淀みを吐き出せば、楽になるはず──。
フェリセットはそっと手を伸ばし、自分の秘所に触れた。最初は布越しに、そっと肉の芽をつぶすように。ゆっくりと、いつもしてもらっていた事を思い出しながら。
「ふ、あ、んんっ……」
快感ではあるものの、震えるような絶頂とはほど遠く、もどかしい。見えない壁があり、どうしてもその先を超える事ができない。
きっと刺激が足りないのだ……と下着に手を差し入れ、直接敏感な箇所に触れようとしたその時、突如寝室の扉が開いたのでフェリセットの体はシーツの中で跳ねた。
「ひゃっ!」
遅く帰って来ると言ったはずのルイが、随分早い時間に戻ったのだ。行為に没頭していたフェリセットは、玄関で物音がしたのに全く気がついていなかった。
「お、おか、おかえり……」
フェリセットは慌てて、額にべっとりと張り付いた前髪を払い取った。こんなに早く帰ってくるなんて……と息が乱れ、不自然に肩が上下する。
どうか、一人で行為に耽っていたのがバレていませんように──とフェリセットは祈った。
「ただいま」
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