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52 孤独な夜
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二人の関係はその夜から変わってしまった。
生活自体は今までとなんら変わりなく。ただ、フェリセットが強い言葉を発してから、ルイはフェリセットに触れなくなった。求められもせず、たまに視線を感じる程度。
──きっと、ルイは自分に飽きて面倒くさくなってしまったのだ。もしくは、隠し事がバレてつまらなくなったのかもしれない、とフェリセットは考えている。
飽きたならば森に帰すこともできるのに、ルイはそれもしない。一緒に食事を取り、同じベッドで眠るだけ。居ても居なくても、どちらでも構わない。
フェリセットにはその扱いが苦しいが、自分が触るなと告げた手前どうすればよいのか分からず、また謝る事も自尊心が許さなかった。
そうして、どうしようもなく緩慢な日々が過ぎ去っていった。
「今日は晩餐会に出席するから遅くなる」
そんな生活が十日ほど続いたある日、朝食の席でルイはまるで業務連絡のようにそう告げた。
「……わかった」
ルイの帰りが遅かろうと早かろうと、今のフェリセットにはもう関係のないことだった。
現実から逃げるために書斎にこもり、読書をしてなんとか時間をつぶす。
「やっと夜か……」
フェリセットは一人夕食の席についた。毎日食卓には彼女の好物が並べられるが、今日はいつにも増して食欲が湧かない。
こんなに良い生活で、何が足りないのだ、と言われてしまえばそれまでで──最初の始まりが捕虜である事を考えると、今の暮らしはこれ以上ないほどに恵まれている。
自分は甘やかされているのだ。愛されてもいないのに──。
胃の中がムカムカしはじめ、フェリセットは食事もそこそこに寝室に戻った。ベッドに横たわろうとした時、衣装部屋の扉を開け放したままだった事に気がついた。
なんとなく気がかりで、扉を閉めずにそのまま薄暗い部屋の中へと歩みを進める。さらにその奥、小さな部屋と言っても差し支えない衣装棚の中はいつもと同じルイの匂いがした。
その途端、無性に泣きたい気持ちになってくる。フェリセットはしゃがみ込み、膝に顔をうずめ、すん、と鼻をすすった。腹の底から、わーっと喪失感がこみ上げてくる。
フェリセットはひとしきり泣いた後も、立ち上がれずに座り込んでいた。このままルイが帰って来るまでこうしていれば心配してもらえるかもしれないと、そんなあくどい事を考えてしまう。
「ほんと、バカだな……」
こんな薄暗い所にいるのが良くないのだと、フェリセットは一人言を呟いてから寝室へ移動する。
生活自体は今までとなんら変わりなく。ただ、フェリセットが強い言葉を発してから、ルイはフェリセットに触れなくなった。求められもせず、たまに視線を感じる程度。
──きっと、ルイは自分に飽きて面倒くさくなってしまったのだ。もしくは、隠し事がバレてつまらなくなったのかもしれない、とフェリセットは考えている。
飽きたならば森に帰すこともできるのに、ルイはそれもしない。一緒に食事を取り、同じベッドで眠るだけ。居ても居なくても、どちらでも構わない。
フェリセットにはその扱いが苦しいが、自分が触るなと告げた手前どうすればよいのか分からず、また謝る事も自尊心が許さなかった。
そうして、どうしようもなく緩慢な日々が過ぎ去っていった。
「今日は晩餐会に出席するから遅くなる」
そんな生活が十日ほど続いたある日、朝食の席でルイはまるで業務連絡のようにそう告げた。
「……わかった」
ルイの帰りが遅かろうと早かろうと、今のフェリセットにはもう関係のないことだった。
現実から逃げるために書斎にこもり、読書をしてなんとか時間をつぶす。
「やっと夜か……」
フェリセットは一人夕食の席についた。毎日食卓には彼女の好物が並べられるが、今日はいつにも増して食欲が湧かない。
こんなに良い生活で、何が足りないのだ、と言われてしまえばそれまでで──最初の始まりが捕虜である事を考えると、今の暮らしはこれ以上ないほどに恵まれている。
自分は甘やかされているのだ。愛されてもいないのに──。
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なんとなく気がかりで、扉を閉めずにそのまま薄暗い部屋の中へと歩みを進める。さらにその奥、小さな部屋と言っても差し支えない衣装棚の中はいつもと同じルイの匂いがした。
その途端、無性に泣きたい気持ちになってくる。フェリセットはしゃがみ込み、膝に顔をうずめ、すん、と鼻をすすった。腹の底から、わーっと喪失感がこみ上げてくる。
フェリセットはひとしきり泣いた後も、立ち上がれずに座り込んでいた。このままルイが帰って来るまでこうしていれば心配してもらえるかもしれないと、そんなあくどい事を考えてしまう。
「ほんと、バカだな……」
こんな薄暗い所にいるのが良くないのだと、フェリセットは一人言を呟いてから寝室へ移動する。
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