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「……どうしてそれを?」
薄ぼんやりとした明かりの下でルイの瞳が見開かれたのを、フェリセットははっきりと見た。
不用意に発言した者を咎めなければいけない。ルイの眼はそう考えているように思えた。
「デュークが……」
「彼は人の顔の区別がつかないんだ。だから、猫の獣人はみんな同じに見えるのさ」
「……その人も、猫の獣人なんだ」
一瞬、まるで時が止まったかのような沈黙が訪れる。フェリセットの口は彼女の意思とは裏腹に、言葉を紡ぎ出す。
「……耳と尻尾があれば、誰でもいいんだ」
自分を気に入ったわけじゃなかった。あたしの事が好きなわけじゃなかったんだ。
疑念が事実として、フェリセットの心にまるで焼き印のように刻み込まれる。
「それは違う。よくある誤解だよ。……そんな事を言うなんて、ちょっとは独占欲があったのかな?」
フェリセットの耳に、ルイのからかいは無理矢理に聞こえた。差し伸べられた手から逃れるようにベッドを降り、窓から芝生めがけて飛び降りた。
頭の中はぐるぐると回っていた。フェリセットはいつも登っているクスノキまで辿り着き、根本にすとんと座り込んだ。自分で組んだ石窯がぽっかりと口を開けている。
ゆらゆらと燃えるたき火の炎を眺めていると気持ちが落ち着く──父親の教えだった。しかし、今は火をおこす道具を持っておらず、今フェリセットを慰めてくれるものは何もなかった。
そのままフェリセットは暗がりの中ぼうっとしていた。後を追ってきたルイが隣に腰掛ける。誤解だよ、と言われてもフェリセットは会話する気分になれず、不機嫌に尻尾をばたつかせるのみだった。
「スコ先生と言うのは、昔の家庭教師だよ。元々デュークの先生だったけれど、そのうち一緒に習う様になったんだ」
「……何年ぐらい前?」
「七、八年は。子供の頃の話だよ」
子供が愛想の良い大人に懐く事なんて良くある事で、別に気にするような話じゃない──フェリセットには、どうしてもその話は嘘にしか思えなかった。
「その人、今どこにいるの?」
本当は何もかもを無かったことにしたいのに、何故かフェリセットの口は勝手に動いて、先生の事を尋ねてしまう。
「もうとっくの昔に仕事を辞めて、家庭に入っているよ」
フェリセットはその口ぶりから、今もその人の所在を知っていて、交流がまだあるのだとほとんど確信めいた物を感じた。
もしかすると、体の関係だってあったかもしれない。ルイの言葉は、全くフェリセットの耳に入ってこなかった。
「だからフェリセットが気にするような事は何も──」
「嘘」
ルイが何とか宥めようと、フェリセットの背中に手を伸ばす。フェリセットは立ち上がり、ほとんど衝動的に叫んだ。
「あたしじゃなくていいなら、触らないで!」
薄ぼんやりとした明かりの下でルイの瞳が見開かれたのを、フェリセットははっきりと見た。
不用意に発言した者を咎めなければいけない。ルイの眼はそう考えているように思えた。
「デュークが……」
「彼は人の顔の区別がつかないんだ。だから、猫の獣人はみんな同じに見えるのさ」
「……その人も、猫の獣人なんだ」
一瞬、まるで時が止まったかのような沈黙が訪れる。フェリセットの口は彼女の意思とは裏腹に、言葉を紡ぎ出す。
「……耳と尻尾があれば、誰でもいいんだ」
自分を気に入ったわけじゃなかった。あたしの事が好きなわけじゃなかったんだ。
疑念が事実として、フェリセットの心にまるで焼き印のように刻み込まれる。
「それは違う。よくある誤解だよ。……そんな事を言うなんて、ちょっとは独占欲があったのかな?」
フェリセットの耳に、ルイのからかいは無理矢理に聞こえた。差し伸べられた手から逃れるようにベッドを降り、窓から芝生めがけて飛び降りた。
頭の中はぐるぐると回っていた。フェリセットはいつも登っているクスノキまで辿り着き、根本にすとんと座り込んだ。自分で組んだ石窯がぽっかりと口を開けている。
ゆらゆらと燃えるたき火の炎を眺めていると気持ちが落ち着く──父親の教えだった。しかし、今は火をおこす道具を持っておらず、今フェリセットを慰めてくれるものは何もなかった。
そのままフェリセットは暗がりの中ぼうっとしていた。後を追ってきたルイが隣に腰掛ける。誤解だよ、と言われてもフェリセットは会話する気分になれず、不機嫌に尻尾をばたつかせるのみだった。
「スコ先生と言うのは、昔の家庭教師だよ。元々デュークの先生だったけれど、そのうち一緒に習う様になったんだ」
「……何年ぐらい前?」
「七、八年は。子供の頃の話だよ」
子供が愛想の良い大人に懐く事なんて良くある事で、別に気にするような話じゃない──フェリセットには、どうしてもその話は嘘にしか思えなかった。
「その人、今どこにいるの?」
本当は何もかもを無かったことにしたいのに、何故かフェリセットの口は勝手に動いて、先生の事を尋ねてしまう。
「もうとっくの昔に仕事を辞めて、家庭に入っているよ」
フェリセットはその口ぶりから、今もその人の所在を知っていて、交流がまだあるのだとほとんど確信めいた物を感じた。
もしかすると、体の関係だってあったかもしれない。ルイの言葉は、全くフェリセットの耳に入ってこなかった。
「だからフェリセットが気にするような事は何も──」
「嘘」
ルイが何とか宥めようと、フェリセットの背中に手を伸ばす。フェリセットは立ち上がり、ほとんど衝動的に叫んだ。
「あたしじゃなくていいなら、触らないで!」
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