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「疲れたの?」
そう言われてみると、どこか座れる所に行きたいかもしれない──とフェリセットは考え、頷いた。
「このあたりかな?」
たまたまなのか、はたまた目的地なのか──目の前の建物に入ると、『前金』という言葉と共に、カーテンの向こうから老婆の手が出てきた。ルイはポケットから銀貨を取り出し、その手に乗せる。
「豪勢なこと」
手がすっと引っ込み、代わりに番号札のついた鍵が差し出される。釣り銭は出てこない。おそらくルイは払いすぎているのではないかとフェリセットは感じたが、皇子がケチでもそれはそれで困るな──と黙認することにした。
「ここ何?」
宿屋のような、古ぼけたベッドと大きな鏡のある部屋まで連れてこられ、フェリセットはすんすんと部屋の匂いを嗅いだ。湿った埃の匂いは故郷の村の倉庫に似ていると思った。
「連れ込み宿」
「とは?」
「いかがわしい事をするための部屋」
「なーんだ、家と一緒じゃん」
フェリセットは脱力し、一つだけあるベッドに腰掛ける。普段と違い薄いマットレスは反発が少なく、ぎしりと軋む音を立てた。
その時、フェリセットの耳がぴくりと動く。誰かの声が聞こえるのだ。
安普請だからな──とフェリセットは立ち上がり、壁に耳を当てた。男女の睦み合う、甘い嬌声が聞こえてくる。なるほど、先ほどの道に女性がやけに多かったのはこのため──。
「何か聞こえる?」
ルイが興味深げに近寄ってきた。
普通のヒューマンの耳には届かないのだろうか、自分には、肌と肌がぶつかり合う音まで聞こえると言うのに──。
「いや、別に……」
他人の情事に興味津々だと思われるのは避けたいフェリセットは嘘をついた。しかし、ルイはにこやかにフェリセットの腰とそこから伸びる尻尾を撫で始めた。
「ちょ、ちょ、ちょっと。こんな所で何を……」
「休憩をしたい。そう言う意味だと思ったんだけど」
「違う違う違う! ただ単に飽きてきて……」
ルイはフェリセットの体に手を伸ばす。骨張った手の中にフェリセットの乳房がすっぽりおさまってしまうと、壁の向こうの誰かの存在はたちまち意識から消え失せてしまった。
そう言われてみると、どこか座れる所に行きたいかもしれない──とフェリセットは考え、頷いた。
「このあたりかな?」
たまたまなのか、はたまた目的地なのか──目の前の建物に入ると、『前金』という言葉と共に、カーテンの向こうから老婆の手が出てきた。ルイはポケットから銀貨を取り出し、その手に乗せる。
「豪勢なこと」
手がすっと引っ込み、代わりに番号札のついた鍵が差し出される。釣り銭は出てこない。おそらくルイは払いすぎているのではないかとフェリセットは感じたが、皇子がケチでもそれはそれで困るな──と黙認することにした。
「ここ何?」
宿屋のような、古ぼけたベッドと大きな鏡のある部屋まで連れてこられ、フェリセットはすんすんと部屋の匂いを嗅いだ。湿った埃の匂いは故郷の村の倉庫に似ていると思った。
「連れ込み宿」
「とは?」
「いかがわしい事をするための部屋」
「なーんだ、家と一緒じゃん」
フェリセットは脱力し、一つだけあるベッドに腰掛ける。普段と違い薄いマットレスは反発が少なく、ぎしりと軋む音を立てた。
その時、フェリセットの耳がぴくりと動く。誰かの声が聞こえるのだ。
安普請だからな──とフェリセットは立ち上がり、壁に耳を当てた。男女の睦み合う、甘い嬌声が聞こえてくる。なるほど、先ほどの道に女性がやけに多かったのはこのため──。
「何か聞こえる?」
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「いや、別に……」
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「ちょ、ちょ、ちょっと。こんな所で何を……」
「休憩をしたい。そう言う意味だと思ったんだけど」
「違う違う違う! ただ単に飽きてきて……」
ルイはフェリセットの体に手を伸ばす。骨張った手の中にフェリセットの乳房がすっぽりおさまってしまうと、壁の向こうの誰かの存在はたちまち意識から消え失せてしまった。
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