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42 フェリセット、地上に降り立つ

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「おーいおいおい」

 フェリセットは久しぶりに泣きたい気持ちになった。最近は性的な事に慣れはじめてはいたものの、露出の趣味はない。裸になると言うのは当人同士の個人的な楽しみの上でのみ成立するものであり、お互いの合意もなしに勝手に私的な部分を公開するのは話が全く違ってくるのだ。

「フェリセット、怒らないで。冗談だから」

 ルイは布団からはみ出しているフェリセットの尻を撫でながら言った。もちろん、そこに申し訳なさなど欠片も感じないのであった。

「え、絵の話は嘘?」
「それは本当」
「怒らないわけねーだろ!」

 フェリセットは久しぶりに、歯を剥き出しにしてルイに飛びかかった。しかし、魔術を使うまでもなく、あっさりと組み敷かれてしまう。

「まあまあ……」

「何がまあまあだよ! 今度と言う今度は許さんぞ!?」
「見に行こう?」
「行かない!」

「少なくとも、絵のモデルになってもらったからお礼はしないとね。お外に行きたくない?」

「それは行きたいけど……」


 数日後、フェリセットは数ヶ月ぶりに地上に降り立った。外出の魅力には抗えなかったのである。絵のことは──永久に、記憶から抹消することにした。どのみち、あの画力では大した再現力もないだろう、と自分で自分を無理やり納得させたのだ。

 今日初めて、フェリセットは浮き島から脱出する。実は島の端に転移の魔法陣があり、そこから城へ、正門前まで移動できるのであった。

「下界の空気はうまいっ!」
「神みたいなこと言うね」

 デコルテが大きく開いた白のブラウスに赤いワンピース。きちんと靴下も履き、足元は柔らかな革のブーツを履いている。

 強いて言うならば、ワンピースの生地は胸元で切り替えられていて、胸の部分が強調されているように思えなくもないし、丈は短いし、靴下は長さはあるものの太ももの途中で止まっていて、隙間が空いているのだが──周りを見渡すと、そのような服の女性もいないことはないので、常識の範疇の服であるとフェリセットは認識した。

 革製でしっかりとした作りのポシェットまで持たされて、すっかり小旅行気分である。

「ほら、離れないように手を繋いでおかないと」

 ルイはフェリセットの手を取った。手を繋いで歩くなんてすっかり出来上がっている奴らのすることだ──とは思うが、振りほどいて妙な空気になるのも避けたいところではある。

「さて。どこに行きたい?」

「……ここ、知らない街なんだけど?」

 最初に市街地を通過した時は檻の中だった。フェリセットは今日初めてグランスフィアの首都を観光するのである。

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