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「ず、ズーだっ」
フェリセットは驚き、のけぞった。怪鳥ズー。一度その爪が食い込めば、ただでは済まない。大の大人一人ぐらいなら巣まで持ち運び、雛の餌にしてしまうと言う……。
本能的な恐怖を感じ、木の幹にしがみつく。自分は赤子の頃、ズーの爪に引っ掛かっていたのだと言われたのを思い出したのだ。
「これは僕の支配下にある。人は襲わないよ」
よく見ると、ズーの首元にもフェリセットがしているものと似た首輪が付いている。
「それじゃあフェリセット。いい子にしていてね」
それだけを告げ、ルイはズーの背中に乗って飛び去り、フェリセットは呆然としてそれを見送った。
まんじりともせず煙が立ち上るのを見守っていたが、やがて煙は消えた。一度そうなってしまうと三日三晩は燃え続けるため、フェリセットはルイが何とかしてくれたに違いない、と解釈した。
夕暮れ。再び怪鳥が現れ、フェリセットは慌てて屋敷の中に隠れた。玄関から様子を窺うと、ルイが降りてきたのが見えた。
小走りで駆け寄ると、両手を広げて迎え入れるような仕草をされる。つまりはこういうことだな──と、フェリセットは背伸びをして、ルイの頬に口付けた。ほんのわずかに、煤けた香りが鼻をくすぐる。
「熱烈なお出迎えありがとう。正直に言って、なかなかやりがいのある仕事だったね」
ルイはひとしきりフェリセットを撫で回して満足したのか、シャツのポケットから一枚の羊皮紙を取り出した。
「はい、任務完了」
そこにはガブラスの字で「フェリセットへ。山火事についてルイ殿下がフェリセットの特別な頼みとの事で消火活動に協力してくださり、見舞金もいただいた。村の皆を代表して感謝する。お前が城の暮らしの中で俺たちの事を忘れていないのが嬉しかった。良き関係が築けているようで何より」と書かれていた。
「お父ちゃん……」
忘れられていなくて嬉しいのは、フェリセットも同じであると、受け取ったメモをぎゅっと握りしめた。
「火元はわかったの?」
結局理由はなんだったのだろうとフェリセットは思いを巡らせる。
「密猟された火トカゲが迷い込んでいたんだ」
火トカゲとは、はるか南の地に生息する火を吹く生き物で、母親から引き剥がされ密猟された幼体が逃げ出し、森の中で恐怖に怯え火を吐いていたのだと言う。
「密猟は国際問題だ。下手人もついでに捕獲できたし、国民に感謝されるのは皇族として悪い気分じゃないね」
フェリセットはただただ故郷の様子を見て欲しかっただけであるが、現地では予想よりも壮大な話が展開されていたらしい。よく見ると、いつも新品にすり替わっているのではないかと密かに疑っているほど真っ白いシャツに、所々土や煤の汚れがついていた。
「あ、ありがとー……」
フェリセットは素直に感謝の気持ちを述べた。だんだん、性癖が変なだけで実はいい奴かもしれない、もう初対面の時に頭を踏まれた事は水に流そう、と思い始めていた。
「どういたしまして。この御礼は高くつくよ」
ルイはにっと意地の悪い笑い方をしたので、フェリセットは自分の考えを撤回した。
「な……何をすればいい?」
何を、と言っても、フェリセットが出来る事は少なかった。タダより高いものはない──と耳が危険を察知するようにピン、と跳ね起きた。
「それは自分で考えて。楽しみにしてるよ」
ルイはそれだけ言うと、湯を浴びると行ってさっさと戻ってしまい、後にはフェリセットとズーだけが残された。
「……さ、さよならっ」
ぎろりとしたズーの視線を感じ、フェリセットはルイの背中を追い、館へ向かって駆けだした。
フェリセットは驚き、のけぞった。怪鳥ズー。一度その爪が食い込めば、ただでは済まない。大の大人一人ぐらいなら巣まで持ち運び、雛の餌にしてしまうと言う……。
本能的な恐怖を感じ、木の幹にしがみつく。自分は赤子の頃、ズーの爪に引っ掛かっていたのだと言われたのを思い出したのだ。
「これは僕の支配下にある。人は襲わないよ」
よく見ると、ズーの首元にもフェリセットがしているものと似た首輪が付いている。
「それじゃあフェリセット。いい子にしていてね」
それだけを告げ、ルイはズーの背中に乗って飛び去り、フェリセットは呆然としてそれを見送った。
まんじりともせず煙が立ち上るのを見守っていたが、やがて煙は消えた。一度そうなってしまうと三日三晩は燃え続けるため、フェリセットはルイが何とかしてくれたに違いない、と解釈した。
夕暮れ。再び怪鳥が現れ、フェリセットは慌てて屋敷の中に隠れた。玄関から様子を窺うと、ルイが降りてきたのが見えた。
小走りで駆け寄ると、両手を広げて迎え入れるような仕草をされる。つまりはこういうことだな──と、フェリセットは背伸びをして、ルイの頬に口付けた。ほんのわずかに、煤けた香りが鼻をくすぐる。
「熱烈なお出迎えありがとう。正直に言って、なかなかやりがいのある仕事だったね」
ルイはひとしきりフェリセットを撫で回して満足したのか、シャツのポケットから一枚の羊皮紙を取り出した。
「はい、任務完了」
そこにはガブラスの字で「フェリセットへ。山火事についてルイ殿下がフェリセットの特別な頼みとの事で消火活動に協力してくださり、見舞金もいただいた。村の皆を代表して感謝する。お前が城の暮らしの中で俺たちの事を忘れていないのが嬉しかった。良き関係が築けているようで何より」と書かれていた。
「お父ちゃん……」
忘れられていなくて嬉しいのは、フェリセットも同じであると、受け取ったメモをぎゅっと握りしめた。
「火元はわかったの?」
結局理由はなんだったのだろうとフェリセットは思いを巡らせる。
「密猟された火トカゲが迷い込んでいたんだ」
火トカゲとは、はるか南の地に生息する火を吹く生き物で、母親から引き剥がされ密猟された幼体が逃げ出し、森の中で恐怖に怯え火を吐いていたのだと言う。
「密猟は国際問題だ。下手人もついでに捕獲できたし、国民に感謝されるのは皇族として悪い気分じゃないね」
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「あ、ありがとー……」
フェリセットは素直に感謝の気持ちを述べた。だんだん、性癖が変なだけで実はいい奴かもしれない、もう初対面の時に頭を踏まれた事は水に流そう、と思い始めていた。
「どういたしまして。この御礼は高くつくよ」
ルイはにっと意地の悪い笑い方をしたので、フェリセットは自分の考えを撤回した。
「な……何をすればいい?」
何を、と言っても、フェリセットが出来る事は少なかった。タダより高いものはない──と耳が危険を察知するようにピン、と跳ね起きた。
「それは自分で考えて。楽しみにしてるよ」
ルイはそれだけ言うと、湯を浴びると行ってさっさと戻ってしまい、後にはフェリセットとズーだけが残された。
「……さ、さよならっ」
ぎろりとしたズーの視線を感じ、フェリセットはルイの背中を追い、館へ向かって駆けだした。
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