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24 フェリセット、対立する
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「フェリセット、今日は来客がある」
「偉い人?」
「いや。つまらない相手だよ。大人しくしていてね」
フェリセットがグランスフィアに連行されてから二週間が経っていた。普段は人の気配がない浮き島であるが、ルイは皇子らしく多忙であり、来客とそのまま出かける事も多かった。
「その後は出かけるの?」
「『予定』では。先方がこちらに迎えに来て、そのまま食事に行くつもりだけど……多分、そうはならないかな」
ルイはソファーの上に乱雑に置かれていた箱を手に取った。豪華なリボンと包装紙は何か素敵なものが入っている証だが──配色からして自分用ではない。びりびりと破られた包装紙の中には立派な化粧箱があり、さらにその中にはスカーフが入っていた。艶のある絹で作られたそれは、確かにルイに似合うだろうと思われた。
「ふふ……」
しかしルイはそのスカーフを汚物のように摘まみ、苦笑した。とても嬉しそうとは思えず、むしろ嘲笑と表現すべきかもしれなかった。
「その柄、きらいなの?」
「と言うよりは……まあ、いいや。後ですべてわかるよ」
しかし、ルイは午後になるとそのスカーフを巻いていた。来客からの贈り物なので、身につけなければいけないのだと説明され、皇子の付き合いも大変であるとフェリセットは生あくびをした。
「外に行っててもいい?」
「それなんだけど。どうも向こうはフェリセットに会いたくてたまらないらしい。挨拶の時は出ておいでね。間違っても噛みつかないように」
「うーん?」
フェリセットは首をかしげた。獣人愛好家? それとも人権活動家? どちらにせよ拒否権がないので、自分も来客に備えておしゃれをしようと、フェリセットは衣装部屋に向かう。
棚から薄紫のフリルのついたシャツを取り出す。柔らかで艶のある絹で仕立てられたそれには、なんと魔獣の牙で作られたボタンがついている。売り飛ばせば食費ぐらいにはなるだろうと、フェリセットはいつかここを出て行くときには貰って帰ろうと、大事に着ているものだ。それに、ほっそりとした黒のパンツと革のロングブーツを合わせる。騎乗用の服──と言えば聞こえはいいが、あいにくフェリセットは馬に乗った事がなかった。
「面白くない日だから、フェリセットには僕を笑顔にさせてほしいな」
ルイは両手でフェリセットの両頬を包み、撫で回した。
「さっき大人しくしてろって言ってたじゃん」
道化になってほしいのか、それとも借りてきた猫になってほしいのか。こいつは一体全体何を求めているのか、とフェリセットにはわかりかねた。
フェリセットがいつもの通り木の上で下界を監視していると、誰かがやってくるのが見えた。
──使用人じゃないな。
フェリセットは息を詰め、その相手を見つめた。どうやら、着飾った妙齢の女性であるらしい。その後ろで使用人達がぞろぞろと行列をなしている。
ルイは木の上に向けて手招きをした。降りてこい、の合図だ。
「偉い人?」
「いや。つまらない相手だよ。大人しくしていてね」
フェリセットがグランスフィアに連行されてから二週間が経っていた。普段は人の気配がない浮き島であるが、ルイは皇子らしく多忙であり、来客とそのまま出かける事も多かった。
「その後は出かけるの?」
「『予定』では。先方がこちらに迎えに来て、そのまま食事に行くつもりだけど……多分、そうはならないかな」
ルイはソファーの上に乱雑に置かれていた箱を手に取った。豪華なリボンと包装紙は何か素敵なものが入っている証だが──配色からして自分用ではない。びりびりと破られた包装紙の中には立派な化粧箱があり、さらにその中にはスカーフが入っていた。艶のある絹で作られたそれは、確かにルイに似合うだろうと思われた。
「ふふ……」
しかしルイはそのスカーフを汚物のように摘まみ、苦笑した。とても嬉しそうとは思えず、むしろ嘲笑と表現すべきかもしれなかった。
「その柄、きらいなの?」
「と言うよりは……まあ、いいや。後ですべてわかるよ」
しかし、ルイは午後になるとそのスカーフを巻いていた。来客からの贈り物なので、身につけなければいけないのだと説明され、皇子の付き合いも大変であるとフェリセットは生あくびをした。
「外に行っててもいい?」
「それなんだけど。どうも向こうはフェリセットに会いたくてたまらないらしい。挨拶の時は出ておいでね。間違っても噛みつかないように」
「うーん?」
フェリセットは首をかしげた。獣人愛好家? それとも人権活動家? どちらにせよ拒否権がないので、自分も来客に備えておしゃれをしようと、フェリセットは衣装部屋に向かう。
棚から薄紫のフリルのついたシャツを取り出す。柔らかで艶のある絹で仕立てられたそれには、なんと魔獣の牙で作られたボタンがついている。売り飛ばせば食費ぐらいにはなるだろうと、フェリセットはいつかここを出て行くときには貰って帰ろうと、大事に着ているものだ。それに、ほっそりとした黒のパンツと革のロングブーツを合わせる。騎乗用の服──と言えば聞こえはいいが、あいにくフェリセットは馬に乗った事がなかった。
「面白くない日だから、フェリセットには僕を笑顔にさせてほしいな」
ルイは両手でフェリセットの両頬を包み、撫で回した。
「さっき大人しくしてろって言ってたじゃん」
道化になってほしいのか、それとも借りてきた猫になってほしいのか。こいつは一体全体何を求めているのか、とフェリセットにはわかりかねた。
フェリセットがいつもの通り木の上で下界を監視していると、誰かがやってくるのが見えた。
──使用人じゃないな。
フェリセットは息を詰め、その相手を見つめた。どうやら、着飾った妙齢の女性であるらしい。その後ろで使用人達がぞろぞろと行列をなしている。
ルイは木の上に向けて手招きをした。降りてこい、の合図だ。
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