とらわれ少女は皇子様のお気に入り

のじか

文字の大きさ
上 下
24 / 92

24 フェリセット、対立する

しおりを挟む
「フェリセット、今日は来客がある」

「偉い人?」
「いや。つまらない相手だよ。大人しくしていてね」

 フェリセットがグランスフィアに連行されてから二週間が経っていた。普段は人の気配がない浮き島であるが、ルイは皇子らしく多忙であり、来客とそのまま出かける事も多かった。

「その後は出かけるの?」

「『予定』では。先方がこちらに迎えに来て、そのまま食事に行くつもりだけど……多分、そうはならないかな」

 ルイはソファーの上に乱雑に置かれていた箱を手に取った。豪華なリボンと包装紙は何か素敵なものが入っている証だが──配色からして自分用ではない。びりびりと破られた包装紙の中には立派な化粧箱があり、さらにその中にはスカーフが入っていた。艶のある絹で作られたそれは、確かにルイに似合うだろうと思われた。

「ふふ……」

 しかしルイはそのスカーフを汚物のように摘まみ、苦笑した。とても嬉しそうとは思えず、むしろ嘲笑と表現すべきかもしれなかった。

「その柄、きらいなの?」
「と言うよりは……まあ、いいや。後ですべてわかるよ」

 しかし、ルイは午後になるとそのスカーフを巻いていた。来客からの贈り物なので、身につけなければいけないのだと説明され、皇子の付き合いも大変であるとフェリセットは生あくびをした。

「外に行っててもいい?」

「それなんだけど。どうも向こうはフェリセットに会いたくてたまらないらしい。挨拶の時は出ておいでね。間違っても噛みつかないように」
「うーん?」

 フェリセットは首をかしげた。獣人愛好家? それとも人権活動家? どちらにせよ拒否権がないので、自分も来客に備えておしゃれをしようと、フェリセットは衣装部屋に向かう。

 棚から薄紫のフリルのついたシャツを取り出す。柔らかで艶のある絹で仕立てられたそれには、なんと魔獣の牙で作られたボタンがついている。売り飛ばせば食費ぐらいにはなるだろうと、フェリセットはいつかここを出て行くときには貰って帰ろうと、大事に着ているものだ。それに、ほっそりとした黒のパンツと革のロングブーツを合わせる。騎乗用の服──と言えば聞こえはいいが、あいにくフェリセットは馬に乗った事がなかった。

「面白くない日だから、フェリセットには僕を笑顔にさせてほしいな」

 ルイは両手でフェリセットの両頬を包み、撫で回した。

「さっき大人しくしてろって言ってたじゃん」

 道化になってほしいのか、それとも借りてきた猫になってほしいのか。こいつは一体全体何を求めているのか、とフェリセットにはわかりかねた。

 フェリセットがいつもの通り木の上で下界を監視していると、誰かがやってくるのが見えた。

 ──使用人じゃないな。

 フェリセットは息を詰め、その相手を見つめた。どうやら、着飾った妙齢の女性であるらしい。その後ろで使用人達がぞろぞろと行列をなしている。

 ルイは木の上に向けて手招きをした。降りてこい、の合図だ。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...