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「失礼いたします」
「はあ。どうぞ」
別に自分の家でもないのだが、フェリセットは彼女たちを出迎えた。ルイが全く動く気配を見せず、女性達が玄関前でおろおろし始めたからである。
彼女らは専門に服を作る職業婦人の集団であり、ルイに雇われてここまでやってきたのだ──とやや興奮気味に語った。
「フェリセットさまは、どのようなものをご所望ですか? メゾンの中でも、選りすぐりの人員を取りそろえて参りました。なんなりとお申し付けください」
「わかりません」
鎧や斧の一つや二つあれば嬉しいが、ひらひらのふわふわのきらきらな服を作るのだろう。それはフェリセットにとっては全く専門外なので、口を挟むことができないと正直に答えると、女性陣は示し合わせたように困った顔をした。
「殿下はフェリセットさまのお好きなように、と仰せなのですが」
「では、あなたに全て任せます。ああ、でも……動きやすい服でお願いします」
フェリセットがそう答えると、中年女性の顔がパッと少女のように華やいだ。
「ええ、はい。ありがたいお言葉。そのようにいたします。ご注文は十五着ですが、全て私どもにお任せくださるのでしょうか?」
「じゅ、じゅうご~!?」
フェリセットは面食らったが、すぐに金持ちだからどうでもいいかと気を取り直した。
全身を採寸されているあいだ、フェリセットはぼんやりと立っていた。そこに、また新しい女性が現れる。様子からして、同じ店から派遣された様には思えなかった。
「私は下着屋でございます」
下着ならば完全におまかせとはならない、とフェリセットは考えた。
「普通の、動きやすくて洗いやすい、丈夫なやつをお願いします」
「申し訳ありません、下着類は殿下がお選びになるとの事ですので」
わたくしは寸法の調整に来ただけなのです──と告げられ、フェリセットはどうか透けていない、防御力が高そうなものを支給されますように──と強く願った。
あれこれと打ち合わせと言う名の一方的な報告が終わり、屋敷は元通りに静まり返った。
棚にはとりあえずの既製品が数着、革のトランクの中にはぴらぴらキラキラの、薄くて透ける布が大量に詰め込まれていた。
ぴょんと飛び出ているリボンを引っ張る。小さな三角形の布は下着であろうと思われた。実用性は全くないであろう、とフェリセットはため息をつく。
しかしトランクの底の方には、きちんと実用に耐えうる品が敷き詰められていたのでほっとする。
フェリセットは早速下着を交換し、柔らかな麻で作られたレモン色のワンピースを着る。きちんと獣人用に尻尾を通す穴が開いているのだ。
ルイは書斎で待っている──と言ったので、渋々ながら報告に向かうつもりなのだ。
「おお、可愛いね。まあ、何を着ていても可愛い訳だけど……」
フェリセットも鏡を見て「もしかしなくても自分は可愛いのでは?」と薄々感じ始めていた頃だったので、珍しくルイの意見に同感であった。それも、ぺろ、とルイがスカートをめくるまでの話ではあったが。
「地味だな」
「あんな実用性のないもの履いてられるか! 人に強制するなら、自分もキラキラの王子様の服を着なよ」
ルイの服は手触りがよく、仕立てもしっかりしていて、皇子と言うにはやや実用的なものだ。それはそちらの方が過ごしやすいからに他ならないのである。フェリセットだけが防御力の低い服を着なければいけないのは不公平だと思っているのだ。
「ん? いいよ。一緒に舞踏会にでも行く? 催し物が好きな人が何人もいるから、おしゃれして出かける場所には困らないけれど」
そういう意味じゃない、とフェリセットは今日何度目かのため息をついた。
「はあ。どうぞ」
別に自分の家でもないのだが、フェリセットは彼女たちを出迎えた。ルイが全く動く気配を見せず、女性達が玄関前でおろおろし始めたからである。
彼女らは専門に服を作る職業婦人の集団であり、ルイに雇われてここまでやってきたのだ──とやや興奮気味に語った。
「フェリセットさまは、どのようなものをご所望ですか? メゾンの中でも、選りすぐりの人員を取りそろえて参りました。なんなりとお申し付けください」
「わかりません」
鎧や斧の一つや二つあれば嬉しいが、ひらひらのふわふわのきらきらな服を作るのだろう。それはフェリセットにとっては全く専門外なので、口を挟むことができないと正直に答えると、女性陣は示し合わせたように困った顔をした。
「殿下はフェリセットさまのお好きなように、と仰せなのですが」
「では、あなたに全て任せます。ああ、でも……動きやすい服でお願いします」
フェリセットがそう答えると、中年女性の顔がパッと少女のように華やいだ。
「ええ、はい。ありがたいお言葉。そのようにいたします。ご注文は十五着ですが、全て私どもにお任せくださるのでしょうか?」
「じゅ、じゅうご~!?」
フェリセットは面食らったが、すぐに金持ちだからどうでもいいかと気を取り直した。
全身を採寸されているあいだ、フェリセットはぼんやりと立っていた。そこに、また新しい女性が現れる。様子からして、同じ店から派遣された様には思えなかった。
「私は下着屋でございます」
下着ならば完全におまかせとはならない、とフェリセットは考えた。
「普通の、動きやすくて洗いやすい、丈夫なやつをお願いします」
「申し訳ありません、下着類は殿下がお選びになるとの事ですので」
わたくしは寸法の調整に来ただけなのです──と告げられ、フェリセットはどうか透けていない、防御力が高そうなものを支給されますように──と強く願った。
あれこれと打ち合わせと言う名の一方的な報告が終わり、屋敷は元通りに静まり返った。
棚にはとりあえずの既製品が数着、革のトランクの中にはぴらぴらキラキラの、薄くて透ける布が大量に詰め込まれていた。
ぴょんと飛び出ているリボンを引っ張る。小さな三角形の布は下着であろうと思われた。実用性は全くないであろう、とフェリセットはため息をつく。
しかしトランクの底の方には、きちんと実用に耐えうる品が敷き詰められていたのでほっとする。
フェリセットは早速下着を交換し、柔らかな麻で作られたレモン色のワンピースを着る。きちんと獣人用に尻尾を通す穴が開いているのだ。
ルイは書斎で待っている──と言ったので、渋々ながら報告に向かうつもりなのだ。
「おお、可愛いね。まあ、何を着ていても可愛い訳だけど……」
フェリセットも鏡を見て「もしかしなくても自分は可愛いのでは?」と薄々感じ始めていた頃だったので、珍しくルイの意見に同感であった。それも、ぺろ、とルイがスカートをめくるまでの話ではあったが。
「地味だな」
「あんな実用性のないもの履いてられるか! 人に強制するなら、自分もキラキラの王子様の服を着なよ」
ルイの服は手触りがよく、仕立てもしっかりしていて、皇子と言うにはやや実用的なものだ。それはそちらの方が過ごしやすいからに他ならないのである。フェリセットだけが防御力の低い服を着なければいけないのは不公平だと思っているのだ。
「ん? いいよ。一緒に舞踏会にでも行く? 催し物が好きな人が何人もいるから、おしゃれして出かける場所には困らないけれど」
そういう意味じゃない、とフェリセットは今日何度目かのため息をついた。
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