とらわれ少女は皇子様のお気に入り

のじか

文字の大きさ
上 下
23 / 92

23

しおりを挟む
「失礼いたします」
「はあ。どうぞ」

 別に自分の家でもないのだが、フェリセットは彼女たちを出迎えた。ルイが全く動く気配を見せず、女性達が玄関前でおろおろし始めたからである。

 彼女らは専門に服を作る職業婦人の集団であり、ルイに雇われてここまでやってきたのだ──とやや興奮気味に語った。

「フェリセットさまは、どのようなものをご所望ですか? メゾンの中でも、選りすぐりの人員を取りそろえて参りました。なんなりとお申し付けください」

「わかりません」

 鎧や斧の一つや二つあれば嬉しいが、ひらひらのふわふわのきらきらな服を作るのだろう。それはフェリセットにとっては全く専門外なので、口を挟むことができないと正直に答えると、女性陣は示し合わせたように困った顔をした。

「殿下はフェリセットさまのお好きなように、と仰せなのですが」
「では、あなたに全て任せます。ああ、でも……動きやすい服でお願いします」

 フェリセットがそう答えると、中年女性の顔がパッと少女のように華やいだ。

「ええ、はい。ありがたいお言葉。そのようにいたします。ご注文は十五着ですが、全て私どもにお任せくださるのでしょうか?」
「じゅ、じゅうご~!?」

 フェリセットは面食らったが、すぐに金持ちだからどうでもいいかと気を取り直した。


 全身を採寸されているあいだ、フェリセットはぼんやりと立っていた。そこに、また新しい女性が現れる。様子からして、同じ店から派遣された様には思えなかった。

「私は下着屋でございます」

 下着ならば完全におまかせとはならない、とフェリセットは考えた。

「普通の、動きやすくて洗いやすい、丈夫なやつをお願いします」
「申し訳ありません、下着類は殿下がお選びになるとの事ですので」

 わたくしは寸法の調整に来ただけなのです──と告げられ、フェリセットはどうか透けていない、防御力が高そうなものを支給されますように──と強く願った。

 あれこれと打ち合わせと言う名の一方的な報告が終わり、屋敷は元通りに静まり返った。

 棚にはとりあえずの既製品が数着、革のトランクの中にはぴらぴらキラキラの、薄くて透ける布が大量に詰め込まれていた。

 ぴょんと飛び出ているリボンを引っ張る。小さな三角形の布は下着であろうと思われた。実用性は全くないであろう、とフェリセットはため息をつく。

 しかしトランクの底の方には、きちんと実用に耐えうる品が敷き詰められていたのでほっとする。

 フェリセットは早速下着を交換し、柔らかな麻で作られたレモン色のワンピースを着る。きちんと獣人用に尻尾を通す穴が開いているのだ。

 ルイは書斎で待っている──と言ったので、渋々ながら報告に向かうつもりなのだ。

「おお、可愛いね。まあ、何を着ていても可愛い訳だけど……」

 フェリセットも鏡を見て「もしかしなくても自分は可愛いのでは?」と薄々感じ始めていた頃だったので、珍しくルイの意見に同感であった。それも、ぺろ、とルイがスカートをめくるまでの話ではあったが。

「地味だな」
「あんな実用性のないもの履いてられるか! 人に強制するなら、自分もキラキラの王子様の服を着なよ」

 ルイの服は手触りがよく、仕立てもしっかりしていて、皇子と言うにはやや実用的なものだ。それはそちらの方が過ごしやすいからに他ならないのである。フェリセットだけが防御力の低い服を着なければいけないのは不公平だと思っているのだ。

「ん? いいよ。一緒に舞踏会にでも行く? 催し物が好きな人が何人もいるから、おしゃれして出かける場所には困らないけれど」

 そういう意味じゃない、とフェリセットは今日何度目かのため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...