とらわれ少女は皇子様のお気に入り

のじか

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「うーん、今の一連の流れってこれから毎日やるのかな……」

 一人になった館で、フェリセットはぽつりとつぶやいた。

 しかしそれはそれ、これはこれである。フェリセットは朝食の続きを始めた。正当な労働の対価である。

 フェリセットは籠から三日月の形をしたパンを手に取る。籠の下には熱された石のプレートがあり、パンが冷めないようになっている。

「三日月パン……」

 見た目に反して油っぽく、手が汚れた。バターの強い香りがする。

 一口囓ると皮がほろほろと崩れるが、中はこれでもかと言うほどしっとりしており、バターが練り込まれ──これはほとんどバターと言ってもいい──。フェリセットにとって、それは未知の体験であった。

「なるほど、これは力がつきそう」

 朝食を残さず食べ終えたフェリセットは、腹ごなしのため散歩することにした。

 ずるずるのズボンはルイが穴を開けても良い、と言ったので遠慮無く尻尾を通す穴を開けてしまった。

「しかし、散歩といってもすることがないな」

 浮き島は美しい庭園ではあるものの、明らかな作り物で、野草や木の実などは望めそうになく、池で釣りと言ってもまるで気持ちが盛り上がる事は無いだろう。

「おっ?」

 何か動くものがある。近寄ってみると、それは魔導ゴーレムであり、枯れ葉を集めているのだった。

「つまんなーい」

 フェリセットはひとしきり散歩した後、ベッドに戻って昼寝をした。

  
  小一時間ほど眠っただろうか。ふと目を覚ますと、ルイがベッドサイドに腰掛け、フェリセットの体を撫で回しているではないか。

「ピャッ」

 フェリセットは思わず飛び上がった。ルイは「すごい身体能力だな」と変な所に感心している。

「へ、へ、へ、変態!!」

 寝込みを襲うとは卑怯なり──フェリセットは吠えた。

「とは言ってもね。フェリセットは僕のものだしね」

「し、仕事は? 帰って来るの早くない?」
「皇子にだって昼休みはある」
「たしかに……」

「お昼ご飯を食べようと思って戻ってきたんだよ」
「お昼あるの!?」

 フェリセットは身を乗り出した。集落に居た頃は一日二食、食糧事情が悪くなると一食も当たり前だった。

「だんだん、ここでの暮らしも楽しくなってきた?」
「まったく」

 ルイがフェリセットの体をあちこち撫で続けるので、慌ててベッドの下に逃げ込む。

「そんな所にいると、間者と間違えてしまうかもしれないから止めた方がいい」と言われ、しぶしぶと這い出る。昼食後は廊下の奥にある書斎に案内され、フェリセットはそこで過ごす事に決めた。

 すっかり日が落ちたころ、ルイは戻ってきた。フェリセットはあえて、音に気が付かないふりをした。

「迎えに来てくれるかと思ったのに」

 ルイはわざわざ、フェリセットが引きこもっている書斎までやってきて苦言を述べた。

「おあいにくさま」
「早速本を読んで覚えたのかい?」
「またバカにして!そのくらい知ってるっつーの!」

 からかわれたフェリセットの尻尾がぶわっ、と膨れるのを見たルイは、また機嫌よさげに笑うのであった。

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