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ほら、屋敷の中を案内してあげるから降りておいで──とルイは手招きをする。
「やだ」
「またそんな事を言って、お仕置きされても知らないよ?」
「……」
フェリセットは唇をとがらせた。しかし、まだ猶予はあるようだ。無視を続けると、ルイはそのままどこかへと行ってしまった。
木の上はどうやら安全地帯のようである。しばらくしてルイが銀色のカートを押しながら戻ってきた。
「ほら、ごはんだよ。魚料理は好き?」
「魚……」
森に住んでいると、めったに魚は食べられない。湖や川に淡水魚は居るが、泥臭かったり大飯ぐらいのオークにとっては身が少なかったりと、あまり好まれる食材ではなかった。
まれに物々交換で手入る魚の干物をいつでも食べられたらな──と言うのは、フェリセットの密かな願望の一つであった。
食欲に負けたフェリセットは、するすると木から下りた。しかし、途中で考え直し、木の幹にはっしと捕まったまま硬直する。その一連の動きが、ルイは大層お気に召した様子だった。
「君ははかわいいね」
ルイは何でもかわいいとしか言わないので、やはりこいつは美的感覚がいかれているのだろう、としかフェリセットには思えない。避難するために再度木に登ろうとするが、尻尾を掴まれてしまったので降りざるを得なかった。
「何をくれるの……?」
とりあえず貰えるものはなんでも貰うと決意したフェリセットの鼻孔に香ばしい匂いが届いた。
捕虜になって良かったことと言えば、食べ物が美味しいことだ。白いクロスがかかっているので中身はわからない。何しろ複雑な匂いなので、あたりがつけられない、とフェリセットはそわそわとルイのまわりをうろついた。
「さあ。そもそも昼食ではなくてお茶だけかもしれない。食べるものはないかもね」
ルイはそうい言いながら、フェリセットの尻を撫でる。
「えっ……騙したの?」
「嘘だよ」
フェリセットは木陰に座らされた。使用人は現れず、どうやらルイは給仕を自分でするつもりのようだ。
「もしかして、超ビンボー皇子で人を雇えないとか?」
言ってしまってから、それは無さそうだ、と豪華絢爛なグランスフィア軍の設備を思い出す。
「雑用は魔導ゴーレムがするし、騒がしいのは好きじゃない」
「なんかひねくれてんの?」
こいつぜってーワケありだろ、とフェリセットはじっとりとした目でルイを見つめた。宙に浮いた島に住んでいる、使用人の一人も置かず全てゴーレムに家事をやらせている、嫌がる女をわざわざ奴隷にして連れてくる。
これでなんの問題もなく育ちました、と言われても違和感がありすぎる。
「残念ながら特に深い理由はないんだ。期待に添えなくて悪いね」
コポポ……とグラスに水が注がれる音を聞きながら、フェリセットはならば騒がしくしてやろうかな──などと考えを巡らせた。
「やだ」
「またそんな事を言って、お仕置きされても知らないよ?」
「……」
フェリセットは唇をとがらせた。しかし、まだ猶予はあるようだ。無視を続けると、ルイはそのままどこかへと行ってしまった。
木の上はどうやら安全地帯のようである。しばらくしてルイが銀色のカートを押しながら戻ってきた。
「ほら、ごはんだよ。魚料理は好き?」
「魚……」
森に住んでいると、めったに魚は食べられない。湖や川に淡水魚は居るが、泥臭かったり大飯ぐらいのオークにとっては身が少なかったりと、あまり好まれる食材ではなかった。
まれに物々交換で手入る魚の干物をいつでも食べられたらな──と言うのは、フェリセットの密かな願望の一つであった。
食欲に負けたフェリセットは、するすると木から下りた。しかし、途中で考え直し、木の幹にはっしと捕まったまま硬直する。その一連の動きが、ルイは大層お気に召した様子だった。
「君ははかわいいね」
ルイは何でもかわいいとしか言わないので、やはりこいつは美的感覚がいかれているのだろう、としかフェリセットには思えない。避難するために再度木に登ろうとするが、尻尾を掴まれてしまったので降りざるを得なかった。
「何をくれるの……?」
とりあえず貰えるものはなんでも貰うと決意したフェリセットの鼻孔に香ばしい匂いが届いた。
捕虜になって良かったことと言えば、食べ物が美味しいことだ。白いクロスがかかっているので中身はわからない。何しろ複雑な匂いなので、あたりがつけられない、とフェリセットはそわそわとルイのまわりをうろついた。
「さあ。そもそも昼食ではなくてお茶だけかもしれない。食べるものはないかもね」
ルイはそうい言いながら、フェリセットの尻を撫でる。
「えっ……騙したの?」
「嘘だよ」
フェリセットは木陰に座らされた。使用人は現れず、どうやらルイは給仕を自分でするつもりのようだ。
「もしかして、超ビンボー皇子で人を雇えないとか?」
言ってしまってから、それは無さそうだ、と豪華絢爛なグランスフィア軍の設備を思い出す。
「雑用は魔導ゴーレムがするし、騒がしいのは好きじゃない」
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こいつぜってーワケありだろ、とフェリセットはじっとりとした目でルイを見つめた。宙に浮いた島に住んでいる、使用人の一人も置かず全てゴーレムに家事をやらせている、嫌がる女をわざわざ奴隷にして連れてくる。
これでなんの問題もなく育ちました、と言われても違和感がありすぎる。
「残念ながら特に深い理由はないんだ。期待に添えなくて悪いね」
コポポ……とグラスに水が注がれる音を聞きながら、フェリセットはならば騒がしくしてやろうかな──などと考えを巡らせた。
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